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【悲報】俺が力を隠してこっそり魔王を倒したら、婚約者の聖女(ヤンデレ)がブチギレて王国を滅ぼしかけた件  作者: ledled


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5/8

俺は勇者で、聖女様と結婚するはずだった。地味な魔法使いにNTRれるまでは。

俺、カガミ・ユウトは、いわゆる転生者だ。

前の世界じゃ、まあまあイケてる大学生活を送ってたはずなんだが、ある日、信号無視のトラックに派手に吹っ飛ばされて、気づいたらファンタジー全開の異世界にいた。

目の前には王様と偉そうな神官がいて、言うことには「貴殿こそが、この世界を救う勇者様です!」だと。


正直、面倒くせえと思った。魔王討伐? なんで俺がそんなことしなきゃなんねえんだよ、と。

だが、その考えはすぐに覆された。


「こちらが、貴方様の旅に同行する聖女、セレスティア様です」


紹介されて現れたのは、マジで神かと思うレベルの超絶美少女だった。

光を弾く白銀の髪、吸い込まれそうなアメジストの瞳。完璧なスタイル。

その瞬間、俺の脳内に雷が落ちた。


――この子を、俺の嫁にする。


それが、俺がこの世界で生きる意味になった。

魔王討伐なんて、どうでもいい。あれは、彼女を手に入れるための壮大なクエスト。ゲームみたいなもんだ。そう割り切ったら、俄然やる気が出てきた。


俺は王様と大神官に交渉した。「魔王を倒したら、ご褒美にセレスティアと結婚させてくれ」って。最初は渋ってたけど、俺が唯一の勇者だってわかると、あいつらは内々にその条件をのんだ。チョロいもんだぜ。


こうして、俺の「聖女様ゲットだぜ!」計画は始まった。

パーティメンバーは、脳筋だけど頼りになる戦士のガイ。そして、聖女セレスティア。

あと一人、なぜかセレスティアの推薦で加わった、アレンとかいう地味な魔法使い。


黒髪黒目で、どこにでもいそうな平凡な顔。いつも静かで、何を考えてるかわからねえ奴。

セレスティアとは幼馴染らしいが、正直言って不釣り合いだろ。まあ、セレスティアが「アレンがいると安心しますから」なんて可愛いこと言うもんだから、仕方なくパーティに入れてやった。せいぜい荷物持ちでもさせて、足手まといにならないように見張ってやろう。俺の寛大さに感謝しろよな。


旅が始まると、俺の勇者としての才能が爆発した。

聖剣から放つ「スターダストブレイク」はマジで最強。オークキングだろうがグリフォンだろうが、俺の剣技の前じゃただの経験値だ。


「すごい! さすがは勇者様!」


ガイがいつもみたいに俺を褒めたたえる。当たり前だろ。


「見たか、セレスティア! 今の俺、マジでイケてなかった?」


俺がドヤ顔で振り返ると、セレスティアはいつも慈愛に満ちた微笑みを浮かべてくれる。


「ええ、とてもお見事でしたわ、勇者様。貴方様がいれば、この旅も安泰ですね」


その笑顔、その声! たまらねえ!

俺は何度も彼女にアプローチした。「魔王倒したら結婚しような」って。

そのたびに彼女は「まあ、勇者様ったら」なんて感じで、完璧な笑顔ではぐらかす。

わかってるって。照れてんだろ? みんなの前だから恥ずかしいんだよな。ウブなところもマジ可愛いぜ。


その間、アレンは何をしてたかって?

戦闘中は、後方からファイアボールとかいうショボい魔法を撃ってるだけ。たまにガイに指示を出したりしてたけど、正直、いる意味あんのか?ってレベル。

まあ、野営の準備とか見張りとか、雑用はそつなくこなすから、そういう意味じゃ便利だったか。俺は英雄だから、そんな雑事にかまけてる暇はねえからな。


あいつとセレスティアが幼馴染だってのは、ちょっとだけ気に食わなかった。時々、二人だけで何か話してることもあったしな。

でも、まあ、心配はしてなかった。

だって、相手はあの地味なアレンだぜ? 俺と張り合えるルックスでもないし、実力も天と地ほどの差がある。セレスティアが選ぶとしたら、どう考えたって俺に決まってる。アレンなんて、せいぜい気心の知れた「兄」みたいなもんなんだろ。恋愛対象としては、圏外中の圏外だ。


魔王城での戦いも、俺の独壇場だった。

四天王なんて、ただのイベント戦闘。ガイとのコンビネーションでサクサク倒してやった。アレン? あいつもなんか魔法を使ってたみたいだけど、まあ気休め程度だろ。


そして、ついに魔王と対峙した。

俺はセレスティアにいいところを見せようと、真っ先に突っ込んだ。ちょっとだけピンチになったけど、それは演出だ。俺が魔王を追い詰めたからこそ、セレスティアが最後に超ド派手な魔法でトドメを刺せたんだ。

そう、すべては俺の手柄。俺がいたから、魔王は倒せた。


「やったぞ! これで、セレスティアと結婚できる!」


俺は歓喜のあまり、セレスティアに抱きつこうとした。

そしたら、ひらりとかわされた。

……まあ、いい。これも照れ隠しだ。王都に帰って、みんなの前で正式に婚約すれば、もう恥ずかしがる必要もなくなるからな。


凱旋パレードは、人生最高の瞬間だった。

俺の名前を呼ぶ民衆の歓声。舞い散る紙吹雪。俺は世界の英雄で、物語の主人公。そして、隣には絶世の美少女、聖女セレスティア。

完璧なエンディングだろ?


その夜の祝賀会。俺は貴族たちに囲まれ、最高の酒を浴びるように飲んだ。

気分は最高潮。そして、ついにその時が来た。

国王陛下と大神官が壇上に立ち、高らかに宣言したんだ。


「勇者ユウト殿と、聖女セレスティア様の婚約を、正式に認めるものである!」


――キタアアアアアアアアアアアッ!


俺は脳内で絶叫し、現実では勝利のガッツポーズを決めた。

広間は祝福の嵐。見たか、これが主人公の力だ。

俺は壇上から飛び降りて、俺の未来の嫁、セレスティアの元へ駆け寄った。


「聞いたか、セレスティア! これで、お前は名実ともに俺の嫁だ!」


最高の笑顔で、彼女の肩に手を置こうとした。

なのに。


俺の手は、彼女に触れる寸前で、見えない壁に阻まれた。


「……え?」


何が起きた?

ふと見ると、セレスティアの顔から、あの慈愛に満ちた微笑みが消えていた。

代わりにそこにあったのは、絶対零度の無表情。その瞳は、まるでゴミでも見るかのように、冷たく俺を見下ろしていた。


広間の歓声が、嘘のように静まり返っていく。

何かがおかしい。空気が、肌が、魂が、得体の知れない恐怖に震えている。


その時だった。

あの地味な雑用魔法使い、アレンが、静かに壇上へと歩いていくのが見えた。


「き、貴様、アレン! 何のつもりだ!」


俺が叫ぶが、あいつは俺を無視して国王の前に立つ。

そして、信じられない言葉を口にした。


「彼女は、俺の婚約者です」


……は?

一瞬、何を言われたのかわからなかった。

次の瞬間、俺は腹を抱えて笑いそうになった。こいつ、ついに頭がおかしくなったのか?


「ははは! おいおい、何言ってんだよ、アレン! お前みたいな地味な奴が、聖女様の婚約者? 今まで聞いた中で一番面白いジョークだぜ!」


俺が笑うと、周りの貴族たちもクスクスと笑い始めた。そうだろ、そうだよな。

だが、アレンは表情一つ変えやしない。


「身の程知らずが!」


俺は怒りで我を忘れ、聖剣を抜いてアレンに斬りかかった。

英雄である俺に恥をかかせた罪、死をもって償わせてやる。


俺の聖剣は、寸分違わずアレンの喉元を捉えるはずだった。

なのに。


剣が、止まった。

見えない何かに阻まれて、びくともしない。


「無駄だ」


アレンが静かに呟いた瞬間、俺の身体は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「ぐはっ……!?」


何が起きた?

騎士たちがアレンを取り囲む。だが、アレンが「邪魔だ」と一言呟いただけで、手練れの騎士たちが全員、その場に崩れ落ちた。金縛りにあったように、動けなくなっている。

魔法? 詠唱もしてないのに?


嘘だ。こんなの嘘だ。

俺が見てきたものは何だったんだ?

こいつは、ただの雑用魔法使いじゃなかったのか?


「――黙りなさい、虫けらが」


セレスティアの冷たい声が響く。

彼女はアレンの隣に立つと、俺を、いや、俺たちすべてを見下ろした。


「わたくしの旦那様は、アレンただ一人。貴様のような下劣な欲望に塗れた男が、わたくしの名前を口にすることすら、万死に値します」


……旦那様?

なんだそれ。何を言ってるんだ、この女は。

俺の頭は、完全にパニックに陥っていた。


アレンとセレスティアが、何かを話している。俺には聞こえない。

だが、その親密な雰囲気は、俺の胸を抉るには十分すぎた。


そして、俺は見てしまった。

セレスティアが、王都の上空に、何万もの光の槍を出現させるのを。

国一つを滅ぼせるほどの、圧倒的な力を。

国王も神官も、その前にひれ伏している。


ああ、そうか。

やっと、理解した。


俺が手柄だと思っていた戦闘のすべては、こいつ、アレンに操られていたんだ。

俺が「照れてる」と勘違いしていたセレスティアの態度は、ただの虫けらを見る目だったんだ。

俺が「主人公」だと思っていたこの物語は、最初から、こいつら二人のためのものだったんだ。


俺は、勇者なんかじゃなかった。

主人公なんかじゃなかった。


ただの、道化だ。

こいつらカップルの恋路を盛り上げるためだけに用意された、滑稽で、哀れな、当て馬。


「帰ろう、セレスティア。俺たちの家に」


アレンが、セレスティアの手を取る。


「はい、旦那様」


セレスティアが、とろけるような笑顔で答える。

俺が、一度も見たことのない顔だった。

あの笑顔は、アレンだけに向けられるものだったんだ。


二人が去っていく。

俺は、壁にもたれたまま、その背中を呆然と見送ることしかできなかった。


英雄の称号。民衆の歓声。聖女との婚約。

俺が手に入れたと思っていたすべてが、砂の城のように崩れ去っていく。

NTR(寝取られ)?

違う。そもそも、俺は最初から何も手にしていなかった。


「どうして……こうなった……」


誰に言うでもなく呟いた言葉は、静まり返った大広間に、虚しく溶けて消えた。

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