表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】俺が力を隠してこっそり魔王を倒したら、婚約者の聖女(ヤンデレ)がブチギレて王国を滅ぼしかけた件  作者: ledled


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

第三話 魔王を倒して凱旋したら、王国と神殿が「勇者と聖女は結婚する」と発表。→婚約者の聖女様、ガチギレ寸前。

王都は、俺たちの凱旋を祝う熱狂的な歓声に包まれていた。

大通りには色とりどりの紙吹雪が舞い、建物の窓からは「勇者様!」「聖女様!」と俺たちを称える声が絶え間なく降り注ぐ。


パレードの先頭に立つ勇者ユウトは、満面の笑みで民衆の声援に応えていた。時折、聖剣を天に掲げるパフォーマンスまでして、すっかり英雄気取りだ。まあ、実際に英雄として迎えられているのだから、文句を言う筋合いはない。


「見たか、アレン! この人気! 俺、マジで世界を救っちまったんだな!」


俺の隣を歩いていたユウトが、興奮気味に肘で小突いてくる。


「そうですね、勇者様は英雄です」

「だろ? そして、この祝賀会の後には、セレスティアとの婚約発表が待ってる! あー、マジで最高の日だぜ!」


有頂天になっているユウトの言葉に、俺は無言で頷くだけだった。胸の奥に、またしても黒い靄が立ち込めるのを感じる。


ちらりとセレスティアに視線を送ると、彼女は民衆に完璧な聖女の微笑みを振りまいていた。その慈愛に満ちた表情からは、彼女の内心を窺い知ることはできない。だが、俺にはわかっていた。彼女がこの状況を、決して快く思っていないことを。


王城に到着し、国王陛下への謁見を済ませた俺たちは、その夜、王城の大広間で開かれた盛大な祝賀会に招かれた。

きらびやかなシャンデリアが輝き、壁には勇者と魔王の戦いを描いた巨大なタペストリーが飾られている。広間を埋め尽くす貴族や騎士たちが、グラスを片手に俺たちの偉業を口々に称賛していた。


「いやあ、ユウト殿! まこと見事な戦いぶりであったと聞き及んでおりますぞ!」

「流石は異世界から召喚されし勇者様だ! 我々の期待を遥かに超えるご活躍!」


貴族たちに囲まれ、上機嫌で酒を呷るユウト。その隣では、戦士のガイさんも騎士団の旧知の仲間たちと武勇伝を語り合って盛り上がっている。

パーティの主役たちから少し離れた壁際で、俺は一人、出された果実水をちびちびと飲んでいた。こういう華やかな場は、どうにも苦手だ。


「アレン」


ふわりと、花の香りがした。

振り返ると、純白のドレスに身を包んだセレスティアが、いつの間にか俺の隣に立っていた。昼間のパレードで着ていた聖女の装束とはまた違う、清楚でありながらも彼女の完璧なプロポーションを際立たせるデザインだ。周囲の貴族たちが、息をのんで彼女に見惚れているのがわかる。


「どうしたんだ、セレスティア。あっちで、ご婦人方に囲まれていただろ」

「ええ。ですが、少し疲れましたので。……アレンの隣が、一番落ち着きます」


彼女はそう言って、俺の腕にそっと自分の腕を絡めてきた。周囲の視線が一斉に俺たちに突き刺さる。特に、男性陣からの嫉妬と殺意のこもった視線が痛い。


「おい、セレスティア……!」

「大丈夫ですわ。今のわたくしたちは、共に死線を乗り越えた『仲間』ですから。これくらい、許される範囲です」


にこりと微笑む彼女。しかし、その瞳の奥には、確かな独占欲の色が揺らめいていた。これは彼女なりの牽制なのだろう。俺の隣という定位置を、誰にも渡さないという。


『アレン、早く帰りましょう。こんな騒がしい場所、一刻もいたくありません。早くアレンのお部屋で、昨日の約束の『ご褒美』をいただきたいのですが』


脳内に、甘ったるい念話が響く。俺は思わずむせそうになりながら、平静を装って果実水を飲み干した。


「ごほん……。まあ、もう少しの辛抱だろ」


俺がそう返した、その時だった。


広間の奥に設けられた壇上に、国王陛下と神殿の大神官が並んで姿を現した。ざわついていた広間が、水を打ったように静まり返る。


「皆の者、静粛に!」


国王の威厳ある声が響き渡る。


「今宵は、我らが世界を魔王の脅威から救ってくれた、勇敢なる勇者一行を祝う宴である! まずは、彼らの偉大なる功績に、今一度、最大の賛辞を!」


わあっ、と割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。ユウトは得意げに胸を張り、片手を上げてそれに応えていた。


「そして! この記念すべき日に、王国と神殿から、皆に重大な発表がある!」


国王は芝居がかった口調でそう言うと、隣の大神官に目配せをした。大神官は厳かに頷き、一歩前に出る。


「神の御名において、ここに宣言する。魔王を打ち滅ぼし、世界に平和をもたらした勇者ユウト殿と、その旅を支え続けた聖女セレスティア様。この二人の英雄の婚約を、王国と神殿が正式に認めるものである!」


大神官の宣言が、広間に響き渡った。


一瞬の静寂の後、今日一番の大歓声が爆発した。

「おおおお!」「なんと!」「素晴らしい!」「英雄と聖女の結婚! これ以上の吉報はない!」

貴族たちは口々に祝福の言葉を叫び、熱狂的に拍手を送っている。


壇上のユウトは、信じられないといった表情で目を見開いた後、全身で喜びを表現するように、天に向かってガッツポーズを決めた。


「よっしゃああああ! やった! やったぜ!」


彼は壇上から飛び降りると、一直線にセレスティアの元へと駆け寄ってきた。その目は欲望と達成感に爛々と輝いている。


「聞いたか、セレスティア! 俺たちの婚約が正式に発表されたぞ! これで、お前は名実ともに俺の嫁だ!」


ユウトはそう言って、セレスティアの肩に手を置こうとした。


その瞬間だった。


俺の隣に立っていたセレスティアの纏う空気が、絶対零度まで凍りついた。

完璧な聖女の微笑みを浮かべていた彼女の顔から、すっと表情が抜け落ちる。アメジスト色の美しい瞳から光が消え、底なしの闇よりも深い、冷たい虚無が宿った。


ぴしり、と空気が凍る音が聞こえた気がした。


ユウトがセレスティアの肩に触れようとしたその手が、あと数センチというところで、ぴたりと止まる。いや、止められたのだ。目には見えない、しかし絶対的な障壁によって。


「……え?」


ユウトが、何が起きたのかわからずに間抜けな声を上げる。


広間の熱狂的な歓声が、まるで遠い世界の出来事のように聞こえていた。俺の全身の産毛が、ぞわりと逆立つ。


ヤバい。

これは、本当にヤバい。


セレスティアの身体から、凄まじい神聖な圧力が漏れ出し始めていた。それはもはや「圧力」などという生易しいものではない。存在しているだけで周囲の空間を歪ませ、万物をひれ伏させるような、神そのものに匹敵する威圧感。

シャンデリアの光が揺らぎ、広間の隅に置かれていた装飾用の鎧がカタカタと震え始める。熱狂していた貴族たちも、この異常な雰囲気に気づき始め、次第に口をつぐんでいった。


「……アレン」


俺の耳元で、静かで、しかし溶岩のように熱い怒りを秘めた声が囁かれた。


「今からこの国、消し飛ばしてもいいですか?」


その声は、悪魔の誘いよりも甘く、そして恐ろしかった。

俺は彼女の横顔を盗み見る。その表情は、能面のように無感動だったが、瞳の奥では銀河が生まれ、そして消滅するほどの激しい感情が渦巻いているのがわかった。


これは、本気だ。

彼女は今、本気でこの王国を、神殿を、そして目の前で呆けている勇者を、まとめて消滅させようとしている。


ユウトや国王たちが気づいていないだけで、彼女の周囲には既に、神罰の雷にも等しい高密度の神聖エネルギーが集束しつつあった。これが解放されれば、この王城はおろか、王都全体が地図から消えるだろう。


「な、なんだ……? セレスティア……?」


ユウトがようやく異変に気づき、怯えたように後ずさる。

セレスティアは、そんな彼を虫けらを見るような目で見下ろし、ゆっくりと口を開いた。


「――わたくしの、アレンに」

「え?」

「わたくしのただ一人の『旦那様』であるアレンに……断りもなく、不埒な婚約などと……。万死では、足りませんね」


その声は、広間の誰にも聞こえなかっただろう。しかし、俺の耳にはっきりと届いた。

そして、セレスティアが右手を、ゆっくりと持ち上げ始める。


その指先が、ユウトに向けられようとした、その刹那。


俺は、彼女の冷たい手を、自分の手で強く握りしめた。


「俺に、任せて」


俺はセレスティアの瞳を真っ直ぐに見つめ、はっきりとそう告げた。

驚いたように俺を見つめ返すセレスティア。その瞳に、ほんの少しだけ光が戻る。


「アレン……?」

「お前の手を汚す必要はない。こういう下らない後始末は、俺の仕事だ」


そう。俺は決めたのだ。

いつまでも「平凡な魔法使い」の仮面を被り続けるのは、もう限界だ。

何より、俺の大切な、世界で一番愛しい婚約者が、ここまでブチギレているのだ。俺が何もしないわけにはいかないだろう。


俺たちの平穏な未来のためには、ここで一度、はっきりとさせておく必要がある。

誰が、彼女の隣に立つべき人間なのかを。


俺はセレスティアの手を優しく離すと、静まり返った広間の中央へ、そして国王やユウトがいる壇上へと、一歩、足を踏み出した。


すべての視線が、俺一人に集中する。

誰もが「なぜ、あの地味な魔法使いが?」という顔をしていた。


それでいい。

今から、思い知らせてやる。

お前たちが今まで「雑用」と見下してきた男が、いったい何者なのかを。

そして、聖女セレスティアの心が、本当は誰のものなのかを。


俺の背後で、セレスティアが小さく息をのむ気配を感じながら、俺はゆっくりと壇上への階段を上り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ