逃亡者
逃げたのはいつのことだったか。
今となっては遥か過去のことだ。
山一つ越えた先、さらに海一波越えた先。
元居た場所からできるだけ遠く遠くへと逃げていく。
言語すらも変わるほどの距離逃げたころ、ようや俺は落ち着くことができるようになった。
そこは俺のことも遠く離れた異邦人としか認識しないぐらいの場所。
だからこそ、追手が来ることもないと踏んで、ここを安住の地に選んだ。
あれから長い長い時間が過ぎた。
いつしかこの土地の人に受け入れられて、俺は家庭を持つまでになり、孫もできた。
とうとう追ってはこなかった。
来れなかった、というべきなのかもしれない。
ともあれ、逃亡生活がここにきてようやく終わりを迎えたわけだ。
俺は、逃げ切ったようだ。