ようこそ生霊相談事務所へ
ここは”生霊相談事務所”。昼は普通のバー、深夜0時を回ると訪ねてきた生霊たちの悩みを解決する少し変わったお店。
そんな中で一人の少女の声が響く。
「店長!もうすぐ”お客様”が来る時間ですよ!」
椅子に座っている店長と呼ばれた一人の青年は、中性的な顔立ちと声、そしてウルフカットをしている。そう、彼こそがこの生霊相談事務所の店長だ。そして彼を呼んだ少女は、長い白髪で青い目をしているこの店の唯一の店員である。
「はいはい。準備しますよ雪音ちゃん。」
彼は”光りながら浮くなにか”を手でいじりながら答える。
そんな彼の様子を見て、彼女は少し不機嫌そうだ。
「いや、遊びながら言われても説得力が終わってるんですが。」
「や、遊んでないです。ヒトダマからの情報収集ですよ。」
ニヤリと笑って答える彼がヒトダマと呼んだものはいつも彼の周りを飛んでいる人魂だ。お客様の情報などを運んでくるのを仕事としている。
「店長ってヒトダマちゃんの言ってることわかるんですか?」
少女はすこし疑うように睨みながら彼を見て、それに対して彼はにこりとほほえみながら答える。
「ははっ、君は最近入ったばかりの子だから知らないと思うけどね、君が入る前はヒトダマと僕だけでこの店をやりくりしてたんですよ?」
「えっ!?じゃあお悩み相談はどうしてたんですか!?」
彼の返事に対して、彼女はとても驚いた顔をして答える。それはそうだ。昼のバーは良いとして夜だ。悩みの解決にはたくさんの種類があり、大変なのだから、2人でなんてどうしていたのだろうか。
「ふっ、そんなの僕がめちゃくちゃ頑張っt((
「いや、店長には無理でしょ。」
正直者というのは時にとんでもない言葉の狂気を振り下ろす。今がまさにその状況と言えるだろう。彼女の言葉がとてつもなく深く彼の心に突き刺さった。
「ウッ、、ぼ、僕を何だと思ってるんですか?」
「サボり魔。」
「ううッ、、」
ズバッと効果音が付きそうなほどバッサリと切り捨てる彼女。そこに店長も少しムキになって答える。そうしているうちに口喧嘩へと発展してしまった。そしてヒトダマは考えていた。この口喧嘩をどう抑えるべきか。
「ちょっと認識が間違っているみたいですね。僕はこう見えてとっっっっても働き者ですが?」
「あら、店長の普段の私に対する態度が悪いのでは?」
「なっ、、」
店長と雪音は未だに言い争っている。そしてヒトダマは考えた。めちゃくちゃに考えた。しかし、この状況を覆す案は一向に浮かばない。もはや誰かに助けを求めたい、、助けて!!そうヒトダマが頭の中で誰かに助けを求めたときだった。
「あの、、」
全員が一斉に入口の方を見る。そこには長い黒髪の赤い目をした女性が立っている。それを見た雪音は呆れたように話し出す。
「ほら、店長が駄々こねてるからお客様が来る時間になっちゃったじゃないですか。」
「まあまあ、あの話はまた後でしようじゃないか。さて、、今日も働きますか。」
そう言いながら店長は椅子から立ち上がり、にこりと微笑んだ。お客様が来てしまったなら仕方ない。喧嘩はまた後だ。こうしてまた今日も仕事が始まる。
「ようこそ。生霊相談事務所へ。」