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メテオを回避せよ!

作者: 一色 良薬

 完全に怒っている。

 リビングに重く伸し掛かる空気に、シゲノリは口から漏れ出そうな息を引っ込めて「ただいま」と軽快な帰宅の挨拶をした。

「おかえりなさい」

 妻のエリコは通常運転といった様子でにこやかに出迎えた。

 だからといって油断してはならない。

 どんな時でもエリコは負の感情を表には出さない。悲しみ、怒りを隠した上でいつもと同じ笑顔を絶やさない。

 長年連れ添ったシゲノリにはお見通しであるが故に、エリコが怒っている理由が分からなかった。

 朝の見送りの時は普通だった。

 朝食で使用した食器も片づけたし、毎週金曜日のごみ出しも忘れずに行った。

 帰宅のメッセージを入れた時も特に変わりはなかったはずだ。

 いつも通り「今から帰る」と伝えて「今日の夕飯はなんだろう。楽しみだ」と送った──シゲノリはぴたりと思考停止した。

 手繰り寄せる視線がバレないよう、壁際に飾られたカレンダーを見る。

 八月十八日の欄にでかでかと花丸が記されている。

 今日はシゲノリとエリコの結婚記念日だ。

(完全にやらかした)

 夕飯の話題を出したが結婚記念日のためにレストランの予約を取ると、先週シゲノリから提案していたのだ。

 もちろんエリコは大喜びし「嬉しいわ」と感謝していたが──。

(忙しくて忘れていたしそもそも予約を取っていない)

 毎年用意していたプレゼントも買っていない。

 レストランの予約忘れを正直に謝り、プレゼントを渡せたらトントン──もちろんそんな容易く許されるとは思っていない──になるところ、ツーアウトの最悪な展開である。

 結婚記念日を忘れている時点でスリーアウト確定であることは間違いない。

(どうにか誤魔化し、いや無理だ。せめて謝って事態を出来る限り最小限に)

 ポーカーフェイスを装いながらパンク寸前の頭で巡らせているシゲノリに、エリコが優しく微笑む。

「ところで貴方。今日は結婚記念日でしょう。早くレストランに行きましょう」

 どうやらメテオは回避できないようだ。

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