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太平洋の嵐  作者: 大陽
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真珠湾攻撃① 初撃

西暦1941年(昭和16年) 12月8日 日本時間00:28(ハワイ時間04:58) アメリカ合衆国 ハワイ諸島 オアフ島 


 ハワイ時間12月7日の未明。


 この世界の日本の宣戦布告文書においては既に戦争開始から三十分近くが経過している時間帯であり、既にフィリピンやグアムなどでは戦闘が開始されている。


 一応、第一航空艦隊の空襲は史実通りの時間帯に行われる予定となっているが、それはその時間帯までハワイの安全が保障されることを意味しない。


 何故なら、事前に潜水艦を使い、カウアイ島を経由してオアフ島の日本人街に紛れ込んでいた陸軍の特殊部隊がオアフ島の南側、より具体的には真珠湾の入り口を照らす灯台を襲撃していたからだ。



「大尉殿。別働隊より、目標全ての制圧とライトの破壊が確認されたという報告が入りました」



「よし。では、例の符号を発信次第、すぐにずらかるぞ。もたもたしていると、ここも直ぐに敵で一杯になる」



 陸軍特殊作戦隊第三小隊の隊長――町田大尉は部下にそう指示しつつ、自らも撤収の準備に入る。


 彼らの任務はアメリカ軍の注意を地上に引きつけること、そして、もう一つは――



















◇同日 00:32 オアフ島沖 海中 潜水艦『伊77』



「! 艦長、味方からのものと思われる平文の電波を受信しました」



「そうか。で、その内容は?」



 通信兵の報告に、艦長は符号の内容を尋ねる。


 一通信兵に詳細は知らされてはいなかったが、艦長と副長には作戦が何らかの形で終結した場合、平文の電波――暗号だと送るのに時間が掛かるため――がオアフ島に居る味方より発信されることを知らされていた。


 とはいえ、流石に平文の通信をそのまま送るわけにはいかないため、あらかじめ決められていた符号によって『作戦成功』を表すものなのか、それとも『作戦失敗』を表すものなのかが示される事になっている。


 そして、もし作戦が失敗したのであれば、『伊77』はすぐにこの海域を離れなければならなくなる。


 なにしろ、『伊77』は今回の作戦の為に魚雷を一切積んでいない(・・・・・・・・)


 幾らこの艦が新型の電池やシュノーケルを搭載していて、それまでの艦よりも潜行時間が長くなっている最新鋭艦とはいえ、オアフ島から10キロちょっとしか離れていないこの海域にこんな状態で何時までも留まり続けるのは危険だった。


 しかし、逆に作戦が成功したならば、今暫くこの海域に留まる必要がある。



「はい。『世界に冠たる我らが帝国』とのことです」



「間違いないな?」



「間違いありません。二度ほど繰り返して送られてきていますので」



「よし。では、特殊潜航艇部隊を発進させる。副長、酒巻少尉を呼んでくれ」



















◇同日 01:22 オアフ島 真珠湾 湾内 水中


 特殊潜航艇からの発進はいつも肝が冷える。


 海軍特殊工作隊の中で今回真珠湾攻撃に投入された部隊の隊長――酒巻和男少尉は同乗していた部下と海水で満たされた特殊潜航艇から脱出しながら、つくづくそう思った。


 この世界で投入された日本海軍の特殊潜航艇は史実の甲標的ではない。


 魚雷を搭載しない代わりに十五ノット(27、3キロ)という速力を発揮できる強力なモーターが搭載された特注の特殊潜航艇だ。


 その――この時代の潜水艇にしては――驚異的な速力の代償として航続距離は21キロしかなかったし、そもそも艦内を海中で満たした以上、帰還するのは不可能であったが、そこは問題ない。


 何故なら、彼らの帰還の方法は別に用意されていたし、もしダメそうだったら投降するように言われていたからだ。


 そして、彼らの任務は航空隊の魚雷攻撃が困難な位置に存在する敵戦艦の艦底部を時限信管付きの爆弾で撃破すること。


 幸い、何処からか得た情報(正彦の史実知識)によって、停泊する8隻の戦艦がどの位置に停泊していて、どの位置にある戦艦を狙えば良いのかがあらかじめ指示されており、訓練は事前に行ったとは言え、危険度の高かった特殊潜航艇からの脱出さえ終えてしまえば、その先の行動に困ることは無かった。


 更に気の抜けやすい薄暮の時間帯――この時、真珠湾の時間は12月7日の6時ちょっと前だった――であったことや特殊作戦隊の工作活動で混乱していたこともあり、彼らは任務をやり遂げることに成功する。


 ――かくして、4隻の特殊潜航艇に搭乗した8人の日本海軍特殊部隊の手によって、この12分後に2つの戦艦の艦底部で爆発が起こることとなったのだ。


 開戦早々にそんなダメージを喰らった不幸な2隻の戦艦の名は、それぞれ『テネシー』と『メリーランド』といった。


















◇同日 日本時間02:45(ハワイ時間07:15) オアフ島 太平洋艦隊司令部 



「くそっ!やってくれたな!」



 夜明けがあと二時間ほどに迫る中、アメリカ海軍太平洋艦隊司令長官――ハズメンド・キンメル大将は苛立ち混じりにそう叫ぶ。


 今から一時間半ほど前、戦艦『テネシー』と『メリーランド』の艦底部が爆発したという報告を受けたキンメルは急ぎ司令部へと向かい、すぐさま情報収集へと勤めたのだ。


 その甲斐あって早い段階で状況を把握することに成功したキンメルであったが、返ってきたのは両艦が中破してしまったという現実だった。



「おのれ、日本軍め!まさか、開戦早々に真珠湾を攻撃してくるとは!」



「その前にあった破壊工作は日系人の仕業でしょうか?」



「おそらくな。たぶん、日系人の中に工作員を紛れ込ませていたのだろう。まったく、汚い真似をしてくれる」



 キンメルは史実では日本軍による真珠湾攻撃時に陸軍のウィルター・ショート中将と共にゴルフをしていたことから、“無能の将軍”の汚名を着せられる事になり、名誉回復後もそのイメージは――特に奇襲を行った側である日本人からは――なかなか拭うことが出来なかったが、曲がりなりにも日本海軍より組織規模が大きいアメリカ海軍で大将にまで上り詰めている事からも分かるように、決して無能な将軍という訳では無い。


 それ故に彼はすぐに灯台を破壊した勢力を日系人に紛れた日本の工作員の集団だと見抜くことが出来た。


 まあ、流石に工作員の中身が日本本土から直接送り込まれた特殊部隊というところまでは読めていなかったが。



「それはそうと、2隻の戦艦は本当に応急修理ではどうにもならんのか?」



「残念ながら。破口の大きさから使用されたのは小型爆弾のようですが、爆破された位置が艦底部でしたので・・・」



「・・・そうか。ということは、我が軍がフィリピンに投入できる戦力は8隻から6隻に減じた訳か」



「今すぐ救援に向かうというのであれば、そうなります。しかし、半年間待って頂ければ、8隻体制に戻すことも可能です」



「流石にそんな時間は無かろう。いや、日本軍が此方の想定よりも弱ければ可能だろうが、敵が弱いことを期待して作戦計画を練ると、ろくなことにはならん」



「では――」



「キンメル長官」



 キンメルの発言に何か言葉を返そうとした参謀であったが、それを遮るかのように司令部付きの軍人が入室してきた。



「どうした?」



「オアフ島北東のレーダー施設より、飛来する飛行編隊の反応をキャッチしたという報告が入りました」



 その報告は史実であればキンメルの耳には届いていなかった筈の情報だった。


 なにしろ、史実ではキンメルはゴルフに出かけていたし、そもそもレーダー施設の情報も上に挙げられることは無かったのだから。


 だが、この世界では特殊作戦隊の工作活動によってアメリカ軍の意識がある程度引き締まっていたこと、そして、キンメルが特殊工作隊が行った戦艦2隻の爆破騒ぎによって司令部に居たことで、その情報は彼の耳へと入ったのだ。


 ――こうして、2つの幸運が重なったことで、真珠湾が攻撃される前に日本軍編隊(第一次攻撃隊)の存在を頭の中に入れることに成功したアメリカ軍であったが、残念だったのはその幸運がここで途切れてしまったことだった。



「北東?・・・ああ、それなら問題は無い。本土からフィリピンへの増援の為にやって来たBー17の編隊だろう」



「ですが、100機以上の反応が見られると」



「そうか。お前はまだ聞いていなかったか。昨日の宣戦布告で派遣されるBー17が増やされることになったんだ。聞いた話ではたしか50機程だったから100機以上の反応は確かに変だが、レーダー員の見間違えということも有るだろう」



「は、はぁ」



 報告に来た軍人は納得していない様子だったが、別に再考を願うほどの事ではないと、話をそれで終了させることにした。


 そう、終了させてしまったのだ。


 この時の太平洋艦隊司令部はまだ戦争をしているという認識はあまりなかった。


 既に宣戦布告は前日の段階でされているのに何をと思うかもしれないが、彼らは所詮戦争を仕掛けられる側であって、実際に敵軍と対峙するまでは平時の感覚を完全に抜き取ることが出来ていなかったのだ。


 それは戦争が開始されたのにも関わらず、真珠湾に停泊している戦艦部隊が未だ出港準備を終えていなかったことやウィリアム・ハルゼー少将の率いる空母部隊が出撃ではなく、演習のために出港していることもその事実を示している。


 ・・・もっとも、報告が入ったのが攻撃開始の僅か20分前では200機近い日本軍機の攻撃を完全に防ぐことは不可能だっただろうが、それでも戦闘機を数十機上げることくらいは出来たはずだった。


 そして、その結果は20分後のアメリカ軍の姿そのものが示すこととなる。

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