困った幽霊
「愛している」恋音が、僕に言う。
僕は、二十年もの間、成仏出来ずに色んなとこをフラフラしている幽霊。
その、成仏出来ない理由は特別、未練がこの世界にある訳じゃない!たとえば、死の原因になった人に対しては、怨んでいるが、ちゃんと反省していたので、罰を与えにいく程ではない。ただ、嫌いなのだ。親が。
生きている時、僕が僕のもっている運の悪さで、周りの人間が巻き添えになるのが嫌で、学校で一人ぼっちになってしまったのをの悩んで、苦しんでいても、「はいはい」と、笑って「そんなことは、ほっときゃ治る」と、悩み事一つ、聞いてもくれなかった。
僕は、学校の人たちが嫌いになったけど、それより何の関心ももってくれない両親の方が凄く嫌いだった。お金だけ、ある程度くれたけど。
そんなことを想いながらの学校の帰り道、僕は車に轢かれて死んでしまった!
そして、今、ニコニコしながら僕を見ている人がいる。二十歳の女子大生の恋音。
「私さ、あなたとなら、死んでもいい」
迷いなく僕を見て、真っ直ぐ伝えてくる。
「死んでもいいって、僕、もう死んでるんだけど」
「関係ないよ。私も死んで、そっち行っていい?」
「バカ。死ぬって、痛いし恐ろしいし、その後は、凄く退屈なことだよ」
「じゃあ、やめる」
「何だよ。そんな、簡単にやめられるの?」
「あっ、やっぱ、淋しいんだ!」
そりゃ、淋しいけど。まあ、でも、良かった。恋音がバカなことをやめてくれて。
しかし、霊感があって病んでいるって、死に誘われやすいということだ。心配だ。
「じゃあね」
恋音は、嬉しそうに手を振った!僕も、振り返す。しばらくして、嫌な予感がした。
「あっ、バレちゃったか…」
恋音は高いビルの屋上から手すりを越えていた。
「死んでから、合流すればいいと思ってたのに。見つけるんだ」
「恋音。僕は、幽霊だから、止められないよ!たとえ、止めたくても」
「何だ、清太。やっぱ私に、死んでほしいんじゃん」
「そうじゃない。もう、誰の死も見たくないから!僕さ、死ぬ二ヶ月前に、父親が病気で死んじゃって。びっくりした。
ヘラヘラ笑って、母さんとイチャついて、大企業に勤めていて、仕事はきちんとするけど、後はお酒を飲みにばっか行っていたのに」
「お父さん死んでたの?」
恋音は死に臨むより、真剣に尋ねてきた
「そうだよ。それで、僕が死ぬ十日前に、母親も病気で死んじゃった。
母親は医者で、よく講演をする程、学術的に優れた知識をもっていた」
「お母さんも?」
「僕は、あの世で、二人に会いたくないんだ!仕事は出来たけど、子供には冷たかった、あの二人に」
「それは、死ぬから、自分たちが死んでからも生きられるようにって。わざとかもしれないよ。冷たくしたの」
「だとしても、僕は…」
ピッカーーッ。急に、僕の身体が光った。
「あれっ、どうしたの?」
「ま、まずい。そんな、訳じゃ」僕は、両親に対しての気持ちが、納得してしまったのだ。つまり、成仏する前触れになってしまっている。
「こ、恋音。実は好きだ。本当は、愛している!君も病んでいるのに、僕の心をずっと、癒やし続けてくれた」
「バイバイ」恋音が手を振る!
「た、頼む。恋音、生きてくれ」
「死んでる人に、言われたくない!私、二百年後の未来から来た人間なんだよ。
私の未来では、成仏しない霊にあふれていて。清太は、二百年後、かなりやばい悪霊になってるから!たくさんの人を病むようにしている根になってるんだよ。早く、成仏して!」
「わ、分かった」
何となく、心当たりがあった。そのうち、僕のことが見える人に、取り憑いて病んでいるのを見て、元気になるというやり方を取ってしまうって。このまま成仏しないでいたら。そして、そのうち霊が見えない人にも取り憑いて、力が増していく。
「さようなら」僕は、言った。
「清太、本当に愛してたよ。私、天涯孤独でさ、未来で清太に取り憑かれて病んで。
強い優しい霊能力をもった人に助けられたけど。清太に取り憑かれて救われた部分があった。
だから、成仏の任務に就くって志願したけど、愛してた。頼むから、成仏して」
そうか。僕、悪霊になって人を苦しめたけど、救ってもいたんだな。それに、愛されていた!
「恋音、生まれ変わったら、会いに行っていいかな?」
「覚えとく」少し、変な顔になって、恋音は返事をした。
僕は、成仏した。
終
今度は、生きて、愛しあえるといいね!