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手品と魔法と知識と

毎週月曜日0時更新!

 

 それから結構な時間が経ち、窓からは既に日が差し込んでいた。僕もアレフもトランプなどを使ったテクニックは目がないようで、結局朝まで起きてしまっていたようだ。


 あんなに熱中していたアレフも、今はとても眠たそうにしている。


「大丈夫か? 僕は慣れてるから良いけど……」


「うーん、でも本来ならもう起きる時間だからぁ……とりあえず一階におりよう、ピエモフさんもきっと起きてるよ」


 そうして、僕とアレフが部屋を出ると、丁度向かいの部屋からアナリスが出てきた。


「おはよー! よく眠れた?」


 そう言うアナリスの、髪や身なりは既に整えられている。朝早いというのに相変わらず元気そうだ。


「いや、寝てない」


「えぇ! なんで? もしかして、アレフ君も寝てないの?」


 半開きの目をしたいかにも眠そうなアレフに、アナリスはそう尋ねた。


 アレフが頷くと、アナリスは眉を吊り上げながら僕の方へと向き直り口を開いた。


「カルダノのバカ! なんで小さな子がいるのにちゃんと寝ないの!」


 どうやら、少し怒っているようだ。


「アレフが色々教えて欲しいって言ってたから……」


 そんなことを話していると、ピエモフさんが一階から二階へと登ってきた。


「おや、お目覚めでしたか。朝食の用意ができています。よければどうぞ」


 言われてみれば、何やら美味しそうな香りが漂っているような気もする。


「やったー! ありがとうございます!」


 ピエモフさんの言葉を聞いて、アナリスの表情は一瞬でいつものにニコニコしたものへと変わった。


 ホッとしながら一階へと降りると、人数分の朝食が用意されていた。パンや野菜、それにスープなどが揃えられていた。


 向かい側にアレフとピエモフさん、こちら側に僕とアナリスとなるような位置に座った。


「さぁ、召し上がってください」


 ピエモフさんにそう言われ、僕達は食べ始めた。


 ふわふわのパンに、温かいスープ、新鮮な野菜とどれも美味しい。


「昨日言っていた今お話してもよろしいでしょうか?」


 ピエモフさんが僕にそう尋ねた。


「はい、大丈夫ですよ」


「実は、お願いしたいことがございます」


「何でしょうか」


「私、この街のカジノでマジシャンをしております。今、カジノは一時的に閉鎖中ですが、情報によると二週間後にはまた開くそうです」


「え、そうなんですか!」


 カジノが開くと聞いて僕は一瞬嬉しかった。でも、良く考えてみれば二週間後ならば次の場所へ向かった方がはやそうだ。


「ええ、それでその二週間後のオープンのときにいつもより盛大に色々ショーを行うようなのですが、今回の閉鎖でショーを担当していた数名がやめてしまい、人手が足りません。そこで、あなたにもショーに出てマジックをしてもらいたいのです」


「僕がマジックをですか?」


「はい、酒場であなたの手さばきを見て、あなたにしかお願いできないと確信しました。二週間後での間、私がマジックをお教えします。それに、食事も用意いたします。寝泊まりは私の家に泊まっていただいて構いません。報酬もお支払いいたします。どうか引き受けていただけないでしょうか?」


 アレフのマジックの腕を見る限り、ピエモフさんから直に教えてもらえるという点は魅力的だ。ギャンブルに活かせることも多そうだ。それに、待遇も良い。僕からすれば、特に断る理由はなかった。ただ、二週間という期間は少し長い。僕が独断で決めるわけにはいかない。そう思い、アナリスの方を見た。


 僕の視線に気がついたアナリスは明るい表情で答えた。


「私は大丈夫だよ! それに、困ってる人を放っていくなんてことは、パーティーの指針に反するからね」


「そうだね……ピエモフさん、わかりました。協力させていただきます」


「ありがとうございます。助かります。それでは、食べ終えましたら早速はじめていきましょうか」


 こうして二週間の間、ピエモフさんのところでマジックを練習することとなった。




 朝食を食べ終え、2階のアナリスが寝泊まりしていた部屋の隣の部屋に僕は案内された。


 その部屋には、マジックで使うと思われる小道具などが棚などに整頓されて収納されており、真ん中には机と椅子が置かれていた。


「カルダノさん、ではまず道具を使ったマジックをお見せしましょう」


 そういって、ピエモフさんはトランプを一枚手に取った。そして、手を離すとそれは空中に浮いた。そして、それはピエモフさんの手の動きにあわせて自由に動き回った。


 ピエモフさんの上手い動きもあって、本当にカードがフワフワと空中を自由に泳いでいるかのように見える。


「タネはわかりますか?」


「恐らく何か糸のようなものを使っていますよね」


「その通りです。このように、肉眼ではほとんど見えない透明な糸があります。これを使うことで色々なことに応用できます。しかし、今のように空中に浮くだけでは観客は満足できません」


「なぜですか?」


「魔法を使っていると思われるからです」


「魔法……ですか」


 確かに、魔法を使えばトランプ一枚を宙に浮かせることぐらい簡単なことだろう。


「はい、こちらがどんなに工夫したとしても魔法を使っているだけとみられてしまってはいけません。マジックというのは元々魔法のような不思議な現象を見せるものだったのですが、実際に魔法でできることが増えたこともあり、そのようなことに気を使う必要が出てきたのです」


 なるほど……多くの人にとって、タネが見破られない限りは手品と魔法の区別がつかないのか。


「ということは、魔法でも簡単にできないようなことをすれば良いんですね」


「簡単にいえばそうなります」


「それは大変そうですね」


「さて、では実際にショーで行うマジックを教えます」


 そうして、昼食をはさんで夕食までの間マジックについて教えてもらった。


「さて、もう夕食の時間ですね。今日はこのくらいにしておきましょう」


「ありがとうございました」


「そういえば、カルダノさんの寝場所がありませんでしたね。寝袋をお渡ししておきます、好きな場所でお休みください」


「わかりました。この部屋を使わせていただいてもよろしいですか?」


「ええ、かまいませんよ」


 そして、四人で夕食をとった後、ピエモフさんは用事があるということで出かけていった。


 僕は、マジックの練習をしよう思いアナリスとともに二階へと上がった。


「カルダノ、調子はどう? なんとかなりそう?」


「うん、なんとかなりそうだ。そういえば、アナリスは今日は何をしていたんだ?」


「私は頼まれた買い出し含めて、街を散策してたよ。もし時間があったら、明日は何か依頼でも受けてこようかなー」


「アレフとは一緒じゃなかったのか?」


「アレフ君は部屋で勉強してたみたいだよー。将来自分で生きていけるようにってピエモフさんに勉強するように言われてるんだって」


「……マジシャンになるわけではないのか」


 僕は、そのまま手品道具のおいてある部屋へと戻った。




 ピエモフさんから教わったことを練習していると、部屋をノックする音が聞こえた。


「カルダノさん、入っても良い?」


「アレフか、良いよ」


 アレフは扉を開けて部屋に入ってきた。


「ピエモフさんにどんなマジック教えてもらったの?」


「えーと、こんなやつだ」


 僕は今日教わったものを一通り見せた。


「すごーい! いいなぁ、そんなに教えてもらって」


「アレフは教えてもらってないのか?」


「ちょっとは教えてくれるけど、基本は勉強のことしか教えてくれないよ」


「勉強って、何の勉強してるんだ?」


「色々だよ。歴史とか、動植物についてとか、計算とか……」


「なるほど……頑張ってるんだね」


「うん! 本当はピエモフさんみたいにマジックがしたいけど、知識があれば様々なことに応用出来るからって言われてるんだ。それに、実際にマジックに使える内容とかもあったよ!」


「例えば?」


「えーとね、例えば植物の中には、すりつぶして水に溶かして振ると水の色が変わる奴があるんだ。他には、こするだけで火がつく石があったりして、破片を使えばいきなり火がつくように見せられたりするよ。あとはー、数字の面白い仕組みを使ったやつとかかな」


「……君の部屋にあった本は、もしかして全部勉強用の本なのか」


「うん! 全部ピエモフさんが揃えてくれたんだよ」


 ……確かに、僕の知らないギャンブルに使えそうな内容とかも本にはまだまだ載っているかもしれない。


「僕も後で、何か本を借りても良いかな?」


「いいよ!」


 そんな会話をして、アレフは自分の部屋へと戻っていった・


 僕はこの二週間でマジックの練習をしながら、アレフの部屋にある本も読んでみることに決めた。











 

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