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マジシャン

 

 宿を出た僕達は、とりあえず宿探しのために歩いていた。


「すっかり遅くなってしまった、すまない」


「いいよー、気にしなくて」


「さすがにあの宿に戻ることもできないし……」


「多分どこかにあるよー」


 こんな話をしながら、僕とアナリスは夜中の街を彷徨っていた。


 夜中なので人通りは少なく、家の灯りも落ちている。


 そんなとき、後ろから声がした。


「そこの人ー、ちょっと待ってー」


 そんな声が聞こえて振り返ると、十歳くらいの少年がこちらへ走って来るのが見えた。


 見た目は背もそんなに高くない少年で、薄い茶髪で目にかからないくらいの長さをしており、茶色のベストを身につけている。

 

 僕達の目の前までくると、その少年は少し息を切らしながらいきなり尋ねてきた。


「お兄さん、酒場でジョーカーすり替えてた人だよね」


 ……何でこの少年が知っているんだ。もしかして噂が広まっているのか、それともこんな少年にまでバレるほど僕が下手だったのか……


 ほんの少しの間返事に困っているとき。


「そうだよー」


 アナリスがあっさり肯定した。


「な……」


「良かったー、やっと見つけたー」


 少年は安堵した様子を見せる。


「ピエモフさんが、お兄さんにお話があるって」


 なんなんだいきなり……、そう思いながらも一度落ち着いた。


「……そのピエモフさんという人はどちらに?」


 そう尋ねたとき、少年が走ってきた方向から年老いた男性が歩いてきた。


「あ、ピエモフさん! いたよー」


 少年はその男性に向かって手を振る。

 

「アレフ、離れたら危ないと言ったでしょう」


 そのピエモフと呼ばれている年老いた男性はそう言いながらこちらへ向き直った。


「うちのアレフがご迷惑をおかけしました」


 その年老いた男性は頭を下げる。


 その年老いた男性はメガネをかけており、白い髪は綺麗に整えられている。口髭を蓄えており、黒いジャケットを羽織っている。その見た目からは紳士でかっこいい印象を受ける。

 


「いえ、僕は大丈夫ですよ」


 僕はそう答えた。


「アレフって、この子のこと?」


 すると間髪いれず、アナリスが少年の方を見ながらそう尋ねた。


「ええ、そうです」


「僕、アレフって言うんだよ。よろしく!」


 アレフは笑顔でそう言った。


「そういえば自己紹介してなかったねー。私はアナリスだよ」


「僕はカルダノだ」


 僕達は簡単に自己紹介した。


「アレフが言ってたように私がピエモフです」


 ピエモフさんも改めて名を名乗り、軽くお辞儀をした。


「そういえば、僕に何かお話しがあると聞いていますが」

 

「はい。ですがもう夜中になってしまいましたね。宿の方はもうとられましたか?」


「いえ、まだ見つかっていません」


 そう言うと、ピエモフさんは少し考えるような様子を見せた。そして、僕達に提案してきた。


「私の家に空き部屋が一つあるのですが、良ければそこに泊まっていきませんか?」


 宿が見つかっていない僕達からすれば、とてもありがたい提案だった。


「よろしいのですか?」


「ええ、もちろんですとも」


 ピエモフさんは柔らかい笑みを浮かべてそう頷く。


「やったー! ありがとうございます!」


 アナリスはとても喜んでいる様子だ。


 いきなり見知らぬ人の家に泊まるのは少し危ないかもしれないが、旅に出てる以上こういうことは良くあることなのかもしれない。


 そうして、僕達はピエモフさんの家へと向かった。




 出会った場所から少し歩いた場所にピエモフさんの家はあった。


 家は街によくある作りで、二階建てのようだ。


 僕達は家の中に入った。


 内装は木目の床に白い壁を中心としたおり、一階にはテーブルやソファなどが置かれている。カーペットなどもひかれており、調度品なども綺麗に整頓されている。また、端にはキッチンがある。そこそこの広さがあり、五人以上いてもくつろげそうなほどの広さだ。


 僕達はそのまま二階へと案内された。


 二階には廊下が一本通っており、両側に扉が二つずつあった。


「こちらの部屋です」


 ピエモフさんにそう言われ、右奥の部屋に案内された。そこは一人用の部屋のようで、ベッドや小さな机、棚などが備え付けられていた。


「おー、良い部屋だー」


 アナリスは部屋を興味津々に見回している。


 一人用の部屋としては十分すぎるもので、二人でこの部屋で寝泊まりしたとしてもなんとかなりそうだ。


「ありがとうございます、助かります」


「お気になさらず、ゆっくり休んでください」


 僕がピエモフさんにお礼を言っていると、アレフが話しかけてきた。


「カルダノさん、僕の部屋で一緒に寝ようよ」

 

「どうしてだ?」


「だってそのベッド、お兄さん達が二人で寝るには狭いでしょ?」


「僕は床で寝るつもりだったから別にどっちでも良いけど」


「じゃあ僕の部屋で決定!」


 少年は向かいの部屋の扉を開けて、そこへと僕を引っ張る。


「ピエモフさん、話というのは……」


「明日で構いませんよ。良かったらアレフの相手をしてやってください」


 泊めさせてもらっている以上、断ることはできなさそうだ。


「じゃあねカルダノー、また明日ー」


 アナリスはアレフに引っ張られていく僕を笑顔で見送っていた。




 アレフは部屋に僕を連れ込むと、扉を閉めた。


 部屋の作り自体は先程の部屋と同じような感じだ。違う点としては、本棚がありそこに本が敷き詰められていることや、机の上にトランプやコインなどが置かれていることだ。


 アレフは机と椅子をベッドの前に持ってきて、ベッドに座った。


「ほら、カルダノさんも座って」


 そう言われ、ベッドに座るアレフと机を挟んで向かい合うようにして椅子に座った。


「カルダノさんってマジシャン?」


 席に座るなり、アレフにそう尋ねられる。


「いや、違う」


「じゃあなんであんなにカードのすり替えが上手いの?」

 

「酒場でのことか」


「うん!」


「……答える前に一つ聞きたいんだけど、僕のすり替えに気づいたのはピエモフさんかい?」


「えーと、僕とピエモフさんだよ。それでピエモフさんが声をかけようと思ってたらすぐ出ていっちゃったから」

 

「ということは、君も気づいていたということか」


「うん!」


 驚いた、てっきりピエモフさんに教えてもらったのだとばっかり思っていた。


「質問に答えてなかったね。僕はギャンブラーだ。だからギャンブルに関するテクニックはある程度できるよ」


「そうだったんだね、僕はてっきりピエモフさんと同じマジシャンかと」


「ピエモフさんはマジシャンなのか?」


「うん! とってもすごいんだよ!」


 なるほど、だから僕のすり替えも難なく見抜けたわけだ。


「カルダノさんは何かできるの?」


「何かとは」


「すり替えみたいなやつ」


「ああ、できるよ」


「じゃあ見せてよ!」


 少年はキラキラした目でそう言った。


「アレフ、君はそのトランプやコインで何かできるのかい?先に見せて欲しいな」


「いいよ!」


 アレフはあっさり了承した。そして、彼は机のトランプを一枚取った。そして、右の手のひらにトランプを持ち、手のひらの方を僕の方に向けた。


「じゃあ見ててね」


 そう言うと、手首を回して手の甲の方をこちらに見せた。そして、すぐにまた手首を回して手のひらの方をこちらに見せてきた。そのとき、彼の手のひらからトランプは消えていた。


 恐らく手首を回すときに、手の裏側へと持ち替えているのだろう。しかしアレフの動作は完璧で、まるでトランプが消えてしまったかのように見える。


「へぇー、すごいな。完璧だ」


「他にもできるよ」


 アレフはそのまま他にも色々と見せてくれた。どれもレベルが高く、普通にマジシャンとしてやっていけそうなレベルに見えた。


「すごいね。マジシャンとしてやったいけるほどの技量だ」


「ピエモフさんに比べたらまだまだだよ。それに、まだトランプとかコインを使ったやつしかできないし」


 アレフがそう言うということは、ピエモフさんはよっぽどすごいマジシャンなのだろう。


「色々見せてくれてありがとう。僕と何個か君に見せよう」


 僕はまず、トランプを番号順に並び替えた後、パーフェクトシャッフルを見せた。


「すごい! それ難しくて、僕はまだできないんだよ」


「後は、そうだなぁ……、何かいらない紙とかあるか?」


 僕がそう言うと、アレフは紙切れを用意してきた。


「じゃあ、それを張った状態にして身体の横で持っててくれ」


 アレフにそうさせた後、僕は部屋の角まで移動した。そして、トランプを回転をかけながら勢いよく投げた。回転のかかったトランプは紙を真っ二つに切った。


「おおお、すごい! 綺麗に真っ二つになってる」


「本気で投げれば、そんなに固くない野菜とかなら切れるよ。それに飛距離も、この距離の五十倍は余裕で飛ばせられる」


「僕にもやり方教えてよ!」


 そう頼んできたアレフは、純粋な目でこちらを見ている。


 教えても別に大丈夫か……それにここに泊めさせてもらっているとうこともあるし。


「わかった。まずは投げ方の基本から」


 そうして、僕は夜遅くまでアレフにトランプ投げのやり方を教えた。






 


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