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vs ティーシア ポーカー対決

毎週月曜日更新!

 

 ティーシアは僕達を、宿の二階の角部屋に案内した。


 その部屋はまあまあ広い部屋であり、カーペットが敷かれていたり装飾が施されたりしている。このことから、それなりの値段がする部屋であることが想像できる。


 ティーシアは丸テーブルの奥の椅子に腰掛けた。


「さぁ、あなたも座りなよ」


そう言われて、僕はティーシアと丸テーブルを挟んで向かい合うようにして座った。


「具体的なルール、決めて良いよ」


 僕は少し考えた。


「……ルールはポーカーでノーリミットホールデム。持ち点は5000でSB/BB(参加料)は25/50で固定。持ち点が0になった方が負けで、勝った方が総取り。勝負は一回」


「うん、いいよ。それじゃ、あなたのトランプでよろしく」


 相変わらずティーシアは常に微笑を浮かべながらこちらを眺めている。


 とりあえず、僕はチップとトランプをテーブルに出した。そして、A〜Kがそれぞれ♢♡♠︎♣︎の順番に揃っていることを見せた後、僕はそれを八回リフルシャッフルした。


「じゃあ、まずはポジションを決めようか」


 僕がそう言って、カードを一枚配ろうとしたときだった。


「ふふ。それ、全然混ざってないよねー。しっかり混ぜてくれないとさ」


 ティーシアは笑いながらそう言った。


 そう言われて僕は一瞬固まった。 僕がしていたのは単なるリフルシャッフルではなく、パーフェクトシャッフルだったからだ。リフルシャッフルはカードをだいたい半々に分けて、だいたい交互に重ね合わせるシャッフルのことだ。それに対してパーフェクトシャッフルは、52枚のカードを正確に半々に分けて、それを正確に1枚ずつ交互に重ね合わせるシャッフルのことを指す。そして、この正確なシャッフルをミスすることなく八回行えば、最初のシャッフルをする前のカードの状態になる、すなわち元に戻ることになるのだ。


 彼女は、僕がこのシャッフルをしていることを見抜いている。そう思うと、何故か笑みが溢れた。


「そうかな? じゃあティーシア、君も混ぜてよ」


 僕はトランプをティーシアに渡した。


 彼女はトランプの束を軽く斜めになぜながらパラパラパラとした。


「いいね、この手触り」


 彼女はそう言った後、カードをぐちゃぐちゃに混ぜ、さらにリフルシャッフルを数回行った。


「さ、終わったよ。これでいいでよね?」


「うん。後、そのまま君がディーラーをして良いよ」


「へぇ、私がやって良いんだ」


 ティーシアは、まず場所決めにカードを一枚ずつ配った。


 ティーシアにはQ♢、僕には7♣︎が配られた。これにより、最初は彼女がSB(25を払う方)で、僕がBB(50を払う方)でのスタートとなった。


 彼女はまたカードを混ぜた後、カードの束を左手に持ち、彼女自身と僕に2枚ずつ配った。


 ポーカーのノーリミットホールデムとは、簡単に言うとプレイヤーそれぞれが持つ2枚のカードとプレイヤー全員が共有する場に開かれた5枚のカードの合計7枚、その7枚のうち5枚で役を作り、チップのやり取りをするゲームだ。チップをかけたりするタイミングは4回あって、2枚のカードが配られたとき、3枚のカードが場に開かれたとき、4枚目のカードが場に開かれたとき、5枚目のカードが場に開かれたときにチップをかけたりすることができる。そのときに出来ることはチェック(パス)、ベット(チップを賭ける)、レイズ(チップを上乗せする)、コール(同じだけチップを出す)、フォールド(降りる)、といったようなアクションができる。


 5枚で行うポーカーと違ってチップを賭ける機会が多いので、プレイヤーの力量の差はでやすくなっており、僕が良くカジノでプレイしするルールだ。


 僕は2枚のカードをテーブルに伏せながら端をチラリと持ち上げて見た。


 僕の手はA♢K♣︎、2枚の組み合わせの中では最も強い組み合わせの内の一つだ。


 ティーシアは、片手に持ったトランプの束を親指で撫でながら、もう片方の手で僕と同じようにしてカードを確認している。


「それじゃあ、私は150賭けようかしら」


 そう言って彼女は150のチップを場に出した。


 ポーカーというのは、BBの払う額の3倍くらいにレイズするのが理想的だと僕は考えている。カジノでポーカーをしている者達はコールで参加したりいきなりオールイン(全部賭ける)してきたりなど、僕からしたら勝ちやすい相手しかいなかった。そう思うと、ティーシアはポーカーの戦略をある程度理解しているのかもしれない。


 ここで、僕の手はA♢K♣︎ととても強い。まだ場にカードは開かれていない段階だが、賭ける額を上乗せするのが良いと思う。


「レイズ600」


 僕は600のチップを場に出した。ティーシアの150に対して4倍の額。


「良い手が入ってるのかなぁ。じゃ、ここはコールでいいかな」


 ティーシアは少し笑いながら、同額のチップを場に出した。場には1200のチップが出ている。


 彼女は場にカードを3枚開けた。


 開かれたカードは、A♣︎K♠︎3♣︎。


 僕の手は現状、AとKのツーペア。スリーカードを除くほとんどの手に勝っている。


 そう考えた僕は、場に出ているチップの3分の1、400をベットした。


 彼女はすぐにコールした。これで場には2000のチップが出て、互いの手持ちは4000ずつとなった。


 特に悩んでいる様子もない。スリーカードができてるならレイズを返してくるだろうし、普通のワンペアか後一枚でフラッシュ(5枚全て同じ色)のどちらかだろう。


 そして、4枚目のカードがティーシアによって開かれた。


 場にでたカードは7♡。


 これで場には、A♣︎K♠︎3♣︎7♡が出ている。


 先程と同様に僕の手はツーペアで、ほとんどの手に勝っている。


 僕は場に出ている2000のチップに対して、1500をベットした。


 ティーシアはトランプの束を持った左手を少し揺らしながら、場を見つめている。


「そうだね、私はオールインでいいよ。はい」


 彼女はチップを全部出した。


 オールイン……、ここでチップを全部かけることができるのはツーペアかスリーカード、後は後一枚でフラッシュが濃厚だ。でも、最初と場に3枚開かれたときにレイズを返してこなかったことから、AAやKK、33を手札に持ってのスリーカードの可能性はほぼない。僕が負けているとすれば、手札77でのスリーカードぐらいだ。後は全部フラッシュドローみたいなブラフだ。これは確率的にみても、十分コールでいいはず。


 僕はそう思いチップを出そうとした。だけどその瞬間、何か違和感を感じた。何かがひっかかる。そして僕はチップを出すのをやめた。


 今戦っている相手はティーシアだ。僕の酒場でのすり替えや、パーフェクトシャッフルを見抜いた上で、ポーカーの戦略も理解している彼女がこんなにあっさりオールインするのかどうか……カジノでの張り合いのない相手との勝負ばかりで少々僕は油断しているのかもしれない。


 ティーシアは笑みを浮かべながらこちらを見ている。


 僕はもう一度考え直した。K♣︎を持っている時点で相手の手札が2枚とも♣︎の可能性は少し下がる。すなわち、ティーシアが77を持っている確率があがる。でも、77を持たれていたとしても、AかKが落ちれば強いフルハウスで逆転できる。その可能性は約8パーセント……本当は長期的に考えて僕の手は降りるべきではない。


 僕が悩みながら無意識に自分のカードを触っていたときだった。違和感を感じた。僕は悩むふりをしながらゆっくりとカードを触った。側面で滑らかに滑らずに少し引っかかる部分がある。カード二枚の側面にそれぞれ一箇所だ。


 本来気に留めることではないかもしれない。しかし、気に留める理由があった。ティーシアが最初にカードを混ぜるとき、そしてこの試合中、彼女はデッキの側面をなぜるように触ることが何回もあった。


 僕のカードを確認すると、A♢は左の1番上、K♣︎は右の1番上が少し引っかかる部分だ。最初に彼女に渡したときのトランプの並び順はA♢〜K♢A♡〜K♡A♠︎〜K♠︎A♣︎〜K♣︎だ。


 僕がこのことに気がついたときだった。


「静かに、誰か来る」


 アナリスが突然そう言った。


 そして、少しした瞬間、ドゴンと言う音ともに部屋の扉が木片を散らしながら壊れた。そして、三人の男が部屋へと入ってきた。


 その男達は、みずほらしい格好をしたおじさん達で、手には斧や剣を持っていた。


 僕とアナリスは彼らの方を見て、構えた。ティーシアは席に座ったまま、いつもの微笑を浮かべながら眺めていた。


「おい、大人しく金を渡せ!」


 男達はティーシアの方を見ていた。


「あーあ、今いいとこだったんだけどなー」


 ティーシアはため息を吐きながらゆっくりと立ち上がった。


「カジノで会った冒険者達だね。その武器は魔物を倒すようじゃないの?」


「この武器は俺らが生きるためのもんだよ。さっさと出しな」


「はーい」


 ティーシアは部屋の奥の引き出しから、袋を取り出した。それはジャラジャラと音を立てている。


「はい、これ。中身全部金貨だから」


 ティーシアはそう言って袋を男達の上へと放り投げた。男達がそれを見上げた瞬間だった。


 一番手前にいた男の顔面があった場所ティーシアの足があった。気づくとその男は派手に奥へと吹っ飛んでいた。


 それを見て驚いた両脇の男達は武器を構えた。構えたときには、右側の男のみぞおちにティーシアの蹴りが入っていた。その男は気絶して倒れた。


 左の男は動けずに震えている。


「私は唯一にして絶対の存在なの。あなた達みたいな低レベルなのに関わってる暇なんてないの、わかる?」


 そう言い放つ彼女は、ふふんと少し自慢するときのような笑顔をしていて、自信に満ち溢れているようだった。


 そして、ティーシアはいたずらっ子のような笑みを浮かべたまま、その男のみぞおちにも蹴りを入れた。その男も気絶して倒れた。


 彼女はこちらを見て話し始める。


「邪魔が入っちゃったね。勝負は引き分けかなぁ、私はこの街にはこれ以上いられそうにないし」


 ティーシアは袋を拾って外に出ようとする。


「ティーシア、トランプ代は返してもらおうかな」


 僕がそう言うと、ティーシアはふふっ、と笑みを浮かべて新品のトランプをこっちに投げた。


「カルダノ、だったよね。賭けに勝っても力がないと意味がないってこと、忘れないようにね」


 ティーシアはそう言って軽く手を振ると、廊下へと走っていった。


「僕達もこの部屋から離れた方が良さそうだね」


「そうだね」


 気絶してる男三人は置いといて、僕達も宿を出た。







 


 

 

 

 








 





 

 





 



  








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