魔物討伐依頼
次の日、たまたま早く目が覚めた僕が宿を出ると、既にアナリスが僕のことを待っていた。こちらを見るやいなや、アナリスは僕の方を向いて大きく手を振っている。僕は少しため息をつきながら、彼女の元へと歩いていった。
「待ち合わせの時間は……確か昼じゃなかったか?」
「待ちきれなくて迎えに来ちゃった!」
「そうか……とりあえず買い物だったね。店はもう空いてるだろうし、行こうか。」
まずは、武具屋へと向かった。
そこには、剣や槍などの様々な武器、鎧や兜などの防具など、種類豊富な武具が揃っていた。
「アナリス、君は剣士だよね」
「うん!」
「じゃあ、剣と防具か……君が今持ってる装備は?」
「銅の剣だけだよ」
「防具は?」
「防具はない方が身軽に動けるからつけてないよ」
防具は普通つけるものでは? でも、僕は剣士についてはそこまで詳しくない。そのようなこともあるのかもしれない。
「……じゃあ、剣だけでも良いやつを買ったらどうだ」
「今の剣で十分なんだけどなぁ」
本当に銅の剣だけで乗り切るつもりなのだろうか? いや、そんなことは無理なはずだ。
「いずれ必要になるだろうし、買っておこう。僕が持っとくから、必要になったら使ってくれ」
僕は鋼の剣を指差し、店主に自分の財布からお金を払おうとしたときだった。
「ちょっと待って、お金はこっちから出して」
アナリスが硬貨の入った袋を差し出す。昨日、僕がアナリスに渡されて、増やしたものだ。
「私達はパーティーなんだから、今日からお金はここから使うことにしようよ」
意外とこだわりがあるようだ。
「……わかった」
自分の財布をしまい、受け取ったお金から代金を支払って、外に出た。
そして、僕達は買い物を続けるために歩いていた。
「アナリス」
「どうしたの?」
「さっきの買い物で、パーティーの資金は尽きた」
僕は数枚の硬貨しか入っていない袋の底を見せる。
「えええ! そんなに高かったの? その鋼の剣」
「当然だよ。まあ、元手さえあればいくらでも増やせる。僕の手持ちを使うことになるけど、とりあえずはカジノに篭ってくるよ」
資金はあればある程、増やしやすい。僕の元々の持ち金を使えば、いくらでも増やせる。そう思っていた。
「だめだよ! 一度決めたルールをそんなすぐに破っちゃ」
「え……じゃあどうする?」
「魔物討伐の依頼を受けてくるよ!」
本当は僕が自腹切ってカジノに篭った方が絶対に効率は良い。でも、路銀を工夫して集めるのも彼女の拘りなのかもしれない。
「わかった。じゃあ頼むよ」
「早速受けてくるねー」
アナリスはそう言って走って行った。
待ち合わせ場所を決めていなかった僕は宿の近くでのんびりしていた。すると、アナリスがこちらへ走ってくるのが見えた。手に紙のようなものを持っているようだ。
「カルダノ、依頼受けてきたよ。早速一緒に行こう!」
「一緒に?」
「パーティーなんだから一緒に行くに決まってるじゃん」
「一緒にと言われても、僕には剣術の心得があるわけでもないし、魔法も使えないんだけど」
「私が守ってあげるからさ! それに、今回のは簡単な内容だよ」
そう言って依頼書を見せてきた。
ここからさほど遠くない村からの依頼のようだ。魔物が作物に擬態しており、畑に近づけないから退治してほしいといったものだ。
「ね、簡単でしょ。今までに比べたら目を瞑っててもこなせる内容だよ」
「今までにはどんなのがあったんだ?」
「村の近くに住み着いた小さなドラゴンの討伐」
「ひとりで倒したのか?」
「もちろん!」
もしかした、彼女はとても頼りになるのかもしれない。僕は大人しく彼女と共に、依頼にある村へと向かった。
王国を出発し、数時間程度で村に着いた。小規模な村ではあるものの、村の周りには広大な田畑が広がっていた。魔物がいるのはカボチャ畑のようで、大きなカボチャに擬態しているようだ。
僕達はカボチャ畑の入り口についた。カボチャ畑には多くのカボチャがあり、それぞれのカボチャは大人一人が中に入れるくらいの大きさをしていた。
アナリスはずかずかと畑の中へと入りながらこちらを振り返り話しかけてきた。
「この大きいカボチャ、村の名物らしいよ。とっても美味しいんだって!」
「よそ見するな、いつ魔物が出てくるか……」
そのとき、多くのカボチャが一斉に跳び上がった。カボチャには顔が浮かび上がり、手と足がついている。そして、跳び上がった数は、三十を超えていた。
「アナリス!」
魔物たちはアナリスト目掛けて跳びかかろうとしていた。こいつらの強さはわからない。だが、数が多すぎることだけはわかる。僕の手持ちは、鋼の剣にトランプにコインに……とりあえず剣で戦うしかなさそうだ。
そう意を決して一歩を踏み出そうとした時だった。
目に映っていたのは、カボチャの魔物が空中で次々と砕け散っていく光景だった。
そう、アナリスが銅の剣を振り回し、次々と魔物達を粉砕していたのだ。その光景は圧巻で、それぞれ一撃で魔物を粉砕している。
ただ、一つ気になることがあった。魔物が砕け散るということは、斬れていないということだ。もしかしたら、今まで彼女は銅の剣を打撃武器として使っていたのかもしれない。
「終わったよー!」
気がつくと、アナリスは笑顔でこちらを見て手を振っていた。周りには、粉砕されたカボチャのようなものが転がっている。
「凄かったな」
「でしょ?」
アナリスは満足そうにしている。
「もう、他にはいないのか?」
「うん、いないよ」
「隠れてたりしてる可能性は?」
「ないよ。私、魔物がいたらわかるから」
とりあえず依頼は達成したようだ。後は、報告して報酬を受け取り、それをカジノで増やすだけだ。そう考えていたとき、アナリスは突然、畑から少し離れた森の方を見た。
「どうした?」
「あっちの方に魔物がいる」
アナリスはそう言って森の方へと走り出した。
「おいおい、それは依頼とは別件じゃないのか?」
そう言って見たものの、彼女が止まるはずもないので、仕方なくついていった。