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「オールイン」


 僕はそう言って、チップを全て前に出した。すると、対面のおっさんもチップを全て出し、カードを表にして場に叩き出した。


「コール! 俺はスリーカードだ。ほれ、兄ちゃんもはやく手を見せな」


 ニヤニヤしながら、僕がカードを開くのを待っている。僕は自分のカードを表にした。


「ストレート、僕の勝ちだ」


 僕のハンドを見たおっさんは、顔をしかめた。


「運のいい奴だなっ、へんっ!」


 おっさんはバンッ! と音を立てて席を立ち、テーブルを離れていった。そして、テーブルには大量のチップが残った。今回の勝ち分は、一週間の生活費に相当する。


「ディーラーさん、僕も離席するよ」


 長時間プレイし続けて少し疲れを感じてきていた僕も、チップを受け取って席を立った。それから、カジノ内にあるバーへと向かった。


 僕は背の高い丸椅子に座った。


「いつものやつで良いかい?」


「ああ、それで頼むよ」


 渡されたジュースを飲み、一息ついているときだった。


「よいしょっと〜」


 若い女が僕の隣の席に座った。他の席が空いているにも関わらずだ。僕と同年代くらいに見える。少し長めの赤い髪で、腰には剣を帯びている。喋り方や立ち振る舞いから受ける印象は、天真爛漫だ。


「私ジュースで! 後、隣にいる黒髪君の分も私が奢るよ!」


 頬杖をつき横目でそいつを見ていたが、突拍子の無い発言に少々驚いてしまい、顔を支えていたた手がずれガクッとなってしまった。


「君がカルダノでしょ?」


 そいつは僕の方に向き直り、話しかけてきた。


「……」


「まだ若いのに働きもせず、毎日カジノに入り浸っている遊び人! そんな君にお願いがあるんだ」


 そいつは、小袋を机上に出した。ジャラジャラと音がする。中身は恐らく硬貨だろう。


「これ、増やしてくれないかな?」


「……僕にそれを受け取る理由はないと思うけど」


「君なら受け取ってくれると思ったんだけどなぁ……あっ、まだ自己紹介をしてなかったね。私はアナリス。今日、魔王討伐のために冒険者になったんだよ。この小銭は王様から貰ったの。でも少ないでしょ、せっかく私が魔王を倒しに行くって名乗りを挙げたのに」


「要するに旅の資金を僕に増やしてほしいわけだ。冒険者なんて名乗りを上げたら誰でもなれるものだろ。実績のないやつに手を貸す理由なんてないよ」


「君にもメリットはあるよ! 他の街や王国にもカジノはあるんだよ。この国の決まりで、君一人では外に出られないけど、冒険者であるわたしがいれば、他のカジノにもいけるんだよ」


「つまり?」


「私ののパーティーに入って!」


 ……なぜ僕なんだ。パーティーとは普通、魔法使いや戦士、僧侶とかだろう。


「他のメンバーは?」


「いないよ、君が一人目」


 アナリスは自信満々にそう言う。一人目にギャンブラーを入れたいなんて、恐らく、金目当てなのか馬鹿なのかのどっちかだろう。けれども、少し試してみたくなった。


「わかったよ。とりあえずパーティーの件は保留だ。でもその軍資金、僕が一日で出来るだけ増やしてみよう。明日またここに来てくれないかな」


「ありがとう! じゃ、よろしくね!」


 アナリスは出てきたジュースを一気飲みし、僕の分のお代まで払ってカジノを出ていった。


「単純なやつだな……まあ、やれるだけやってみようか」


 僕は小袋を手に取り席を立った。




 次の日の夜、僕は昨日と同じようにカジノ内のバーでアナリスを待っていた。


 しばらくすると、アナリスがやってきた。


「やっほー! どうだった? 増えた?」


 アナリスは目を爛々とさせてそう尋ねてくる。


「悪いね、ボロ負けだ。もらった金は無くなったよ」


  僕は首を振りながらそう答えた。


「そっかぁ、じゃあ仕方ないね。稼いでまた持って来るよ! そのときはよろしくね!」


 アナリスは、怒るのでもなく落胆するのでもなく、笑顔でそう言った。


「……怒らないのか?」


「頼んだのは私だよ? 君に文句言うわけないじゃん」


「僕がその軍資金を盗ってる可能性は考えないのか?」


「君が盗る理由なんてあるのかなぁ」


 アナリスは嫌な顔ひとつせず、ずっと笑いながら話している。普通は怒るだろう。お人好しすぎるのか、何も考えていないのか……どちらにせよ、悪い気はしない。


「ちょっと待ってて」


 僕は席を立ち、カジノの受付へ向かった。そして、預けていた荷物を受け取り、アナリスのもとへと戻った。そして、手に持った、少し大きめの袋を机の上へと置いた。それはジャラジャラと音を立てた。


「実は、負けたというのは嘘なんだ」


「わぁ! こんなに増えたの?」


「そうだね。少なくとも十倍くらいはあるんじゃないかな」


「さっすがぁ、君なら増やしてくれると思ってたよ!」


 アナリスは、嘘をついたことを問い詰めるわけでもなく、袋いっぱいに詰められた硬貨をみてただ興奮している。


 ただ単に純粋なだけなのか。裏表のなさそうな彼女に悪い印象を抱くことはなかった。


「アナリス」


「ん?」


「君は何故僕に軍資金を委ね、その上パーティーにまで誘ったんだい?」


「勘だよ! 君がいれば何とかなりそうだと思ってね」


 アナリスは自信満々な様子でそう即答した。


「滅茶苦茶な理由だな」


 僕は少しため息をついてそう答えた。だけど、最もらしいことを言われるよりは納得できるように思えた。

 

「アナリス。パーティーのことだけど……」

「おっ! 入ってくれるの?」


 アナリスは食い気味にそう尋ねてくる。


「ええと、まあ……僕が飽きるまでだったら、入っても良い……」

「やったぁ! じゃあカルダノ君、これからよろしくね」


 嬉しそうにはしゃぎながら、笑顔でそう言ってくる。


「よろしく」

「じゃあ、パーティー結成記念にご飯でも食べに行こうよ」


 そう言ってアナリスはカジノ外へと歩き出した。落ち着きのない奴だなぁと思いながらも、僕はその後ろをついていった。




 僕達は近くのレストランに入った。ある程度の広さがあり、多くの客で賑わっている。空いていたテーブル席に僕たちは座った。


 席に座るなり、僕はアナリスに尋ねた。


「アナリス。先に聞いておきたいことがある。まず、一応君は魔王討伐という大義を掲げて冒険者として名乗り出たわけだけど、この冒険の目的は何だい?」


「目的? 魔王討伐に決まってるじゃん」


「ならば、どういうビジョンが君の中にあるんだい?」


「魔王のところに行って倒す!」


「どういうルートで? どうやって?」


 アナリスは首を傾げて考え出した。


「んー……そのとき決めるよ」


「……僕がいなかったら、君は早死にしてると思うよ」


 そんな話をしているときに、店員がやってきて注文を聞いてきた。僕はメニューを開いて、指差した。


「僕は、この肉を頼むよ」


「え! それ高くない?」


「アナリスもこれを食べたら良いよ。冒険者は体が命だろう? 良いもの食べないとね。今回は僕が奢るよ」


 結局二人とも高めの肉を頼んだ。


「いつもそんな良いのを食べてるの?」


「……たまに」


「へぇ〜」


 僕はコップを手に取り、水を一口飲んでから話を切り出した。


「そんなことより、パーティーのリーダーは君だ。これからどうするつもりなんだい?」


「んー、とりあえず西の大きな街へでも向かおうかなぁ」


「西の街といえばファンクトか。まあ、最初の目的地としては良いと思うよ。だけど、まあまあ距離があるし、途中魔物も出る……倒せる?」


「うん! これがあるから大丈夫! ズバッと斬ってみせるよ」


 アナリスは腰に携えていた剣を抜いて僕に見せてきた。


「その剣……どこで買ったんだ?」


 僕は、剣をまじまじと見ながらそう尋ねた。剣は赤茶色をしており、明らかに普通の剣ではない。


「街にいた行商人が安くで売ってたんだよ」


「……その剣、銅でできてるよね」


「ん? それがどうしたの?」


 アナリスは、僕がまるでおかしなことを言っているような反応を示す。僕は少しため息をつく。


「アナリス、君はもっと知識をつけた方がいい。とりあえず明日、武具屋にちゃんとした武器を買いに行こう」


「どういうこと?」


「銅の剣で魔物を斬れると思うか? ……というより、君はその剣を使ったことがあるのか?」


「私は魔物の討伐依頼とかをこなして生活してたんだよ、使ってないわけないじゃん」


「……その剣で?」


「うん、そうだよ」


「……どういうことだ?」


「そのままだよ。この剣でズバッと」


 銅の剣は、素材的に魔物を斬れないはず。いったいどうことなのか、僕は彼女の言っている意味が理解できなかった。


「まあ、出来るだけの準備はしていかないといけない。明日、とりあえず買い物から始めようか」


「そうだね!」


 その日は、美味しいものを二人で食べた後、それぞれの宿に戻った。


 


 




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