過去
「ごめんね、バオ」
「はは、まったくだ」
バオグゥはペルをベッドに寝かせて、看病していた。
「だが、お前に怪我が無くてよかったよ」
「でも、バオが……」
「これくらい平気さ」
バオグゥの体の傷は完治していた。毒の痺れもまったくなくなっていた。
「それでもだよ。僕のために……」
「気に病むな。悪いのはお前じゃない。あいつらだ。」
もしくは俺のせいかもな、と言いかけて、バオグゥは口を閉じた。以前追い払った盗賊が討伐を依頼したのかもしれない。そんなことすればあいつらも捕まってしまうが、復讐のためにそれくらいやるかもしれない。と、バオグゥの思考が頭の中を巡った。
「いや、奴らの狙いは僕だよ」
「どうしてそんなこと分かるんだ」
「……そうだよね、こんなことになってしまったからには言わなくちゃいけないよね」
ペルは困ったように、泣きそうな目をしながら笑っていた。
「そこまで言いたくないことなら何も言うな」
「でも、言わなくちゃ。バオをこれ以上巻き込みたくはないからね」
「俺はなんとも……」
言葉を遮るように、ペルはバオグゥの体を抱きしめる。
「ありがとう。でも、それじゃ君が許してくれても、僕が僕を許せなくなっちゃうから」
ペルはペンダントを手に取り、中身を開いてバオグゥに見せた。中には何色とも形容詞がたい煌めく美しい宝石が入っていた。
「これは……」
「これは今は滅びてしまった僕の故郷ベクトゥラス王国の王位継承者が持つ特別な宝石なんだ。そして、僕は……」
ペルが言葉を詰まらせる。ベクトゥラス王国はバオグゥも知っていた。巨大な帝国と隣接し、他国との緩衝地帯となっていた小国だ。3年前に帝国によって吸収されてしまったが、その際に王族や国民が激しく抵抗し、王族は全員処刑され、国民にも多くの死者がでた。
「僕は逃げたんだ……お父様やお母様、フィッツェ兄様たちは民を守るために必死で戦っていたのに、それなのに僕は……逃げて……みんな死んでしまった」
ペンダントにペルの涙が落ちる。
「追っ手が追いかけてきて、僕を助けてくれた人たちも、みんな捕まって殺されてしまった……僕を助けたばかりにッ!!」
バオグゥはペルの懺悔のような告白を静かに聴いていた。バオグゥはこんなとき、どんな言葉をペルにかかれば良いかわからないままでいた。
「ここまで来れば大丈夫かなと思ってたんだけど……甘かったんだ。そのせいで、また君まで巻き込んでしまうところだった」
「……大丈夫だ。俺は不死身のオークだから」
「でも、僕がここにいると静かに暮らすことはもうできない。君が切実する平穏を、僕が壊してしまう」
「それでも……」
バオグゥはペルに語りかけようとして、また抱きしめる。ペルはバオグゥの唇へ自身の唇をそっと重ねた。ほんの少し、静寂につつまれた時を過ごして、ペルは笑いながら泣いた。
「さよならだよ、バオ。君と一緒に過ごせた時間はとても幸せだった」
バオグゥはペルと触れ合って、彼の意思が固く変わらないことを理解してしまった。バオグゥはただ無言で、ペルを抱きしめることしかできなかった。