第四話 僕の好きな作家さんの連載小説があがる時間 壱
「うおぉおおおおっ!!」
僕はキーボードに沿えた両手を、高速ブラインドタッチで―――。
第四話 僕の好きな作家さんの連載小説があがる時間 壱
キーボードをブラインドタッチで文字を打ち込みながら僕は、作中の登場人物の台詞を喋る口を開く。
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「『前・・・。前見て』」
「『ん?祥子』」
「『かずとゆかり―――』」
(ぼそ、っと祥子は。銀髪の祥子はいつも口数が少ないし、その表情も乏しい。でも、妃紗は、祥子とは正反対で。妃紗と祥子、この二人は性格も正反対だ)
「『ねぇねぇっかいとくんっ。見て見て前、前だよ』」
(俺は控えめな祥子の言葉と、明るい天真爛漫な妃紗の言葉で、彼女達に言われたように、視線を前に向ける。)
「『ん?』」
(すると、いつもの家の前で待つ女の子が二人いる。黒髪ロングの女の子と金髪ツインテールの女の子だ。)
「『お~い!!』」
(そのうちの一人黒髪の女の子が俺達に手を振ってくる。じきに俺達三人、俺と妃紗と祥子は、二人の女の子がいる位置に至る。)
「『よ、おはよう。二人とも』」
(俺はその二人に声を掛け―――、でも、)
(ぷんぷん、ぷんすかっ、っと言った具合で、二人いるうちの一人の女の子は、)
「『ったく遅いのよ、もう!! 遅刻したらどうするのよ、もう!!」』
(黒髪ロングの女の子とは違う、そのもう一人の金髪ツインテールの女の子は両手を両脇に当てて、ぷんすか怒っているけど、いつものことだ。実は、ああ見えてあんまり怒っていない。)
「『ははは、悪い、悪い』」
「『ふんだっ!!もし遅刻したら魁斗が謝っても済む問題じゃないんだからねっ!!』」
「『ごめんごめん俺が悪かったよ』」
「『ま、まぁ解っていればいいわ』」
(そして、俺と妃紗と祥子は、黒髪の女の子和美と金髪ツインテールの女の子由香莉の家の近くで、いつものように三人から五人となり、自然に学校へと向かう脚は進み出すんだ。)
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執筆中―――、僕はそこで―――
「ッツ」
―――はっとして時間を確認した。確認したのはもちろん、僕が執筆しているパソコンのその画面の右下だ。
「っつ」
もうすぐ。『あがる』時間だ。僕は執筆中の作品を保存し、ブラウザを閉じてネットに接続する。
僕は、とあるサイト、というか怪しいサイトではなく、ウェブ上で投稿小説を公開するウェブサイトへと飛んだ。
なんで飛ぶかって?それは、僕の好きな作家さんの、連載小説があがる時間だからさ。
上がった、つまり投稿されたばかりの最新話の、作中の登場人物の台詞だ。僕はいつもそう、声に出しながら読むんだ。
『』で括ったのが、作中の主人公の台詞であり、()で括ったのは、作中の主人公の心情だ。
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「『アカティル族のカブルよ』」
(オレは、敗将であるアカティル族のカブルに問うた。当人であるカブルを逃がさぬよう、また自身で死ねぬよう厳重に縄で拘束し、身体の自由を奪った上で捕囚としてある。)
(ぐいっ、っと、オレの眼前に引き摺られるように、召し出されたカブルを、オレは自身の忠節な部下に命じて、さらに引っ立てさせ、オレの目の前に座らせたのだ)
「『う、ぐ・・・オテュラン家のアルスランっ・・・!!』」
(ぎしぎし、、、っとカブルがその拘束された身体で暴れるようとするが、それは叶うことはない)
「『なぜ貴公ら大伯父クルトより出でた族は、アカティルの民は我らエヴルの国を攻めたのだ?』」
(まるで咎人のようにカブルは、オレの忠節なる部下達により、地に押さえ付けられているのだ。そのため、その口調もくぐもるというものだ)
「『・・・さ、さて解らぬ・・・・・・父上や兄上達の考えは・・・ワタシの考えの・・・上を行っているのだ・・・。アルスランよ、貴公こそ、我が父上や兄上にひれ伏し、訊いてくればよい』」
「『カブルよ。そのような言質で、オレが納得をするとでも思っているのか?貴公よ、アカティル・ハン国の第四王子カブルよ。オレは貴公と、くだらない問答をするつもりはない。終いにしよう』」
(オレは天幕より、その戦いの勝利の場に相応しい幕営の座から立ち上がる。オレがカブルより聞きたかった言葉は、そのようなカブルの言葉ではないのだ。ピシィっ、っとオレは自身の腰にある革鞭でカブルを打つ)
「『うぐ・・・ッ―――。だ、だが、納得しろ・・・アルスラン・・・っつ』」
「『ッ』」
(ピシィッ、っとオレはさらにカブルを鞭で打つ。)
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「ふうぉっアルスラン王子ってば、ドSだーっ」
ちょうど僕が贔屓にしている小説の内容は、主人公エヴル・ハン国のアルスラン王子が、攻めてきた敵軍の将であるアカティル族の王子の一人であるカブルという者を、戦いで敗かして追い捕らえ、アルスラン王子自らがカブル第四王子に、尋問しているところだった。そこが、それが、今日あがった最新話だった。
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「『まぁまぁ若、それぐらいに致しましょう』」
「『イスィクよ』」
「『はい若。そのようにお急ぎになられずとも、時間はたっぷりとあります故』」
(オレの忠節なるアタ・ベグであるイスィクは、オレへと向けていた視線をカブルのほうに向ける。)
「『うむ。では、こうしようイスィクよ。料理を持てい』」
(オレの命により、イスィクはタルカンという地位に就く者に俺の命を伝え、そのタルカンの地位に就く者より、湯気の立っているほかほかで新鮮で豪華なる羊の肉料理が幕営に持ってこられた。)
(無論まずその豪華な肉料理が運ばれるのは、父王トゥグリルの名代指揮官たるオレが座る豪華な黄金の椅子に、である。先ずオレが一口、二口、三口と肉料理を食む。その残り、まだ暖かみを感じる皿をオレはカブルに差し出したのだ。)