第三話 僕の、『おれうざ―俺のカノジョはうざななじみ~うざーい彼女は俺のかわいいカノジョ~―』 二
ふっ、っと、ふと妃紗の脚が止まる。
「『ねぇねぇ、かいとくん、何か言った?』」
「『・・・いや、なにも』」
「『ふ~ん、くすくすっ♪』」
(妃紗は一度だけ振り返ると微笑み、自分の席に戻っていった。)
///
「よしっキリのいいところ!!」
っと、僕はちょうどキリのいいところで、僕は顔を上げた―――。
第三話 僕の、『おれうざ―俺のカノジョはうざななじみ~うざーい彼女は俺のかわいいカノジョ~―』 二
この今、僕の書いている作品は、『おれうざ―俺のカノジョはうざななじみ~うざーい彼女は俺のかわいいカノジョ~―』という題名だ。
この作品を僕は、今夏、八月二十三日に開催される創作系の同人誌即売会に出展するために、大急ぎで執筆しているというわけさ。
お、おふぅ~っ///
僕の中に、心に、急速に気恥ずかしさが込み上げてくる。
「~~~っ///」
じ、じじっ///、実は。この作品の正ヒロイン『妃紗』という人物は、その彼女の名前は、僕の初恋、、、の人っ/// その彼女の名前の一文字を、僕が勝手に拝借し、採ってヒロインの名前につけたんですぅ・・・―――っ///
と、というか昔。そ、そうその女の子は、僕が、大学時代に僕が片想いで、想いを寄せていた女性で、僕より一つ年下の女の子、その子の名前から一文字『妃』という漢字を、僕が勝手に、その当時僕が好きだった女の子に確認せずに、僕が勝手に採った名前なんだぁ、じ、実は・・・っ///。
ぽっ、ぽふぅ~っ///
だから、僕は、僕の家族には、この、僕が書く作品『おれうざ』は見せられないよぉー。いろいろばれちゃうでふぅ~っ///
「~~~っ///」
見られたら、恥ずかしいですぅ僕・・・っ///
ぐぅ―――、っとそのとき―――
「あっ・・・」
―――僕のお腹が鳴いた。
そのことがきっかけで僕は、思考を現実に引き戻された。
パソコンの右下で時間を確認すれば、もう時刻は十九時二分になっている。
そう言えばお腹空いたかも。
「ぶふ?」
僕は自身のでっぱらを摩る。小説を、執筆し始めてもう早二十六年。あれれおかしいよね?とは前から思っていた。二十代の頃の僕はまだスリムで、当時出ていなかったお腹は、三十代半ばを越えた頃よりだいぶ増えたね。
こんこんっ、っと、ちょうどそんなときだ、僕の部屋の扉が叩かれた。
「書。いつもの夕食を置いておくから」
母さんのいつもの声だ。
「分かったー」
僕もいつものように答え、、、しばらく経ったあと―――、五分くらいかな? 僕は机の椅子から立ち上がった。
だ、誰も、家族の誰も、僕を、僕のこの姿を見てないよね、、、?
ごはんを取るとこ、見られたくないんだよねぇ、僕ぅ。
「、、、」
そぉーっと。そろぉーっと。
僕は自分の部屋の扉を十センチほど開けて、、、むふ、、、―――円形の料理が盛られたお皿が通らない。
カチャカチャ、カチャカチャ。
ふんふんっ
「っつ」
もうちょっと、十五センチ、二十センチ、、、お皿は扉を通過―――。続けて白飯が盛られた茶碗と、今は夏だから冷たいお茶が入ったコップ。
「むほーっ通ったーっ!!」
がつがつがつっ!! ごくごくごくっ、むしゃむしゃむしゃっ―――、僕は母さんが持ってきてくれた夕飯にがっついたんだよ。
食べ終わると、僕はさっきと同じ要領で、部屋の扉を開き、食べ終えて空になったお皿を、かちゃかちゃっと重ねて、部屋の外の廊下に置いておくんだ。
カタカタカタ―――、僕はまた、キーボードをタイプし始め、『おれうざ』の執筆に没頭していったんだ―――。
///
「『そんなの幼馴染に関係ないもんっ。・・・それに・・・かいとくんと一緒に登校しようと思って・・・、かいとくん家まで行ったのに、先に学校行ってるなんて―――』」
「『っつ!!』」
(ま、まずいっ!! 妃紗の表情がだんだん不満げなものに曇っていく。)
「『・・・・・・』」
(っつ・・・ミスったな。・・・妃紗の機嫌がこんなことで悪くなんて。あのうざいメールの束にちゃんと返信してやるべきだったか。)
「『家から出てきてくれないからメールもしたのに、返信してくれないし・・・、みんなと先に登校してるし、、、ひょっとしてかいとくん・・・私のこと嫌いになったぁ・・・?』」
「『いや、そんなことはないよ、妃紗』」
「『じゃ、じゃあ、ちゃんと私のメールに返信してくれる・・・?』」
(ちらっ。)
(うっ、かわいいぞ、妃紗のやつ・・・。)
「『・・・―――っ///』」
(妃紗の上目遣いの視線と目が合う。くそ・・・っ///妃紗のやつって、こういうときの表情ってかわいいんだよな・・・。)
「『わ、悪かったよ、妃紗。これからはちゃんとお前にメールの返信するからな? だから』」
(機嫌を直してくれよ、妃紗。俺はお前に嫌われると、そんなお前が機嫌悪かったら俺は―――。)
(俺の言葉を聞いた、うざーい彼女は―――)
「『―――っ♪』」
(―――ぱぁっ、っと、まるで大輪のひまわりの花のようになった。そうさ、妃紗の表情が嬉々として晴れ渡ったんだ。)
(でも、これを妃紗に言い忘れたらいけないな。)
「『でもな、妃紗。一昨日のメールの件だけどな、あんなにもたくさん数十件―――』」
(俺の電話のメールフォルダは、妃紗の催促メールに占拠されたんだ。)
「『わぁーいやったぁかいとくんっ!!じゃあさっそくいっぱいメール送るねっ♪』」
「『・・・おい』」
(ったく毎度毎度のことだけど、妃紗は人の話を聞いているのか、聞いていないのか・・・。)
「『やれやれ』」
(ついついそんな言葉が俺の口から漏れ出すのだった。)
///
「うっ」
カタカタカタ―――、ぴたり、っと僕は。執筆中の、手の指の動きを止める。
うっうぅ、ぶるぶるぶるぶるっ・・・。かたかたかたっ、っと、僕は尿意をごまかすために貧乏ゆすり。でも、ついに気休め程度のそれは通用しなくなってくる!!
「~~~、~~~おのれ~尿意のやつ~っ!!」
っつ、書いているちょうどいいところで!! 書いているのがちょうどいいところだというのにっ!!なんでどうして、僕はトイレに行きたくなるんだ!!
もうちょっと!!もうちょっとだけ書かせろっ!!
「うおぉおおおおっ!!」
僕はキーボードに沿えた両手を、高速ブラインドタッチで―――。