8.友からの頼み
「……あれ? そういえば、ラフードは精霊になってから、ずっとフレイグ様の傍にいるの?」
『うん? ああ、そうだぜ』
そこで、私はそんなことを思った。
彼はその体になってから、ずっとフレイグ様の傍にいる。それもまた彼のことを大切に思っているからだろう。
ただ、そんな彼を見ていて、私は少しだけあることを思った。ずっと傍で見守ってくれている。それは心強いようにも思えるが、いいことばかりではないように感じるのだ。
「プライベートとか、ないの?」
『プライベート?』
「だって、四六時中見られているなんて、嫌じゃない? 自分だけの時間って、人には見られたくないものだと思うんだけど……』
『……まあ、それは確かにそうだな』
私の指摘に、ラフードは苦い顔をしていた。もしも自分が見られていたら、そう考えてくれたのだろう。
しかし、そんなことは見守っていたら自ずと気づくことではないだろうか。ラフードは軽い感じだが、そういう面は気遣えそうな気がするのだが。
『あいつ……プライベートな時間なんて、ほぼないな』
「え?」
『いや……朝起きて、仕事をして寝る。それがあいつの毎日だ。考えてみれば、趣味に没頭するとか、そういう時間が一切ない』
ラフードは驚いたような表情をしながら、そんなことを言ってきた。
どうやら、フレイグ様は仕事人間のようである。ラフードが気づかないくらい、一人の時間というものがなかったのだ。
『……ああ、一応、風呂とか着替えとか、そういう時は離れているぞ?』
「あ、そこはちゃんと気を遣えているんだね。まあ、でも同性だから、問題はないのかもしれないけど……」
『もちろん、お嬢ちゃんのことを覗いたりもしねぇよ。まあ、種族は違っても、その辺りの分別は弁えるさ』
ラフードの言葉に、私は少し安心する。そういうことをするような魔族ではなくて、本当によかった。
だが、問題はフレイグ様のことである。話を聞いていると、彼はなんだかとても寂しい毎日を送っているように思えるのだが。
『……お嬢ちゃん、こんなことを頼んでいいのかはわからないが、もしよかったらあいつのことを頼めないか?』
「え? フレイグ様のことを?」
『ああ……大変かもしれないが、あいつの心を開いて欲しいんだ。別に好き合うようになるとか、そういうことではないんだ。単純に、あいつが心許せるような人になって欲しいんだよ』
ラフードは、私に対してそんなことを頼んできた。
フレイグ様にとって、心許せる人になる。そうすることで、彼を助けて欲しいとラフードは願っているのだろう。
「うん、わかった。私にどこまでできるかはわからないけど、頑張ってみるよ」
『お嬢ちゃん……ありがとう』
私は、ラフードの提案を受け入れることにした。
フレイグ様には、助けてもらった恩がある。彼が不器用だけどいい人であることも、既にわかっている。
そんな彼と、私はいい関係を築きたいと思った。これから私は彼の妻になるのだし、それはきっと必要なことだろう。




