70.裁きの時
私は、フレイグ様とともにとある人物の元にやって来ていた。
ここは、マルネイド侯爵家の屋敷である。私達は、継母の罪を暴きに来たのだ。
「忌々しいことね……また、あなたの顔を見ることになるなんて」
やって来た私達に対して、継母は本当に忌々しそうな顔をしていた。
彼女の罪は、既に暴かれている。フレイグ様が、野盗達を利用して、彼女の悪行を白日の元に晒したのだ。
私の暗殺を失敗したという報告を受けた継母は、野盗達と再び接触した。そこでの会話は、フレイグ様が呼んだ王国の警察によって記録されており、その証拠で継母は追い詰められているのだ。
「よくものこのこと帰って来られたわね……」
継母は、私に向かって悪態をつく。
だが、その態度は今までと比べるとかなり弱々しい。流石に、その悪事が白日の元に晒されている今強がれる程の気概は、彼女にもなかったのだろう。
「言いたいことはそれだけか?」
「なんですって?」
そんな継母に向かって、フレイグ様は冷たい目を向けていた。
彼は、明らかに怒っている。雰囲気だけで、それが伝わってくる程だ。
それはもしかしたら、私のために怒ってくれているのだろうか。それは、嬉しいことである。
ただ、彼は元々正義感の強い人だ。例え私のことではなくとも、怒りをあらわにしていたかもしれない。
「お前は、自分の罪がどれ程重たいものかわかっているのか?」
「偉そうに、私に説教しようとでもいうの?」
「……お前の心の中に、反省という気持ちは微塵もないということか」
「黙れ!」
継母は、フレイグ様に対しても怒りを向けていた。
そういえば、彼女は彼のことを冷酷無慈悲な辺境伯だと勘違いしていた。思えば、彼がそんな人間ではなかったということが、継母にとって最大の誤算だったのかもしれない。
「お前のような貴族は、排除されなければならない……この国の未来、いや人類の未来のためにも……」
「ふん! 仰々しいことを語って、浸っているんじゃないわよ。わかっているの? 私が裁かれるということは、あなたにも悪評が流れるということなのよ? その女は、このマルネイド侯爵家の娘なのだから」
「些細なことだ。それに、俺は悪評など気にしない」
激昂する継母に対して、フレイグ様は冷静だった。
彼は、今までたくさんの修羅場を潜り抜けてきた。そんな彼にとって、継母という存在は恐れるに足りない存在なのだろう。
そんな二人のやり取りを見て、私も少しだけスッキリとした。長年積もりに積もっていた継母への恨みが、少しだけ晴らせたような気がしたのだ。




