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継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。  作者: 木山楽斗


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63.思い出す言葉(フレイグ視点)

 俺は、ラムフェグを追って荒野まで辿り着いていた。

 ここは、町からも外れた場所だ。奴がこちらに逃げてくれてよかった。町に逃げられていれば、大惨事になっていた可能性もある。


「……だが」


 しかし、ラムフェグがこちらに逃げてきたことには何かしらの意味があるはずだ。

 恐らく、ここには罠が仕掛けられているのだろう。長い経験から、俺はそれを察知していた。

 だが、町に被害が及ぶくらいなら、俺が罠にはまった方がいい。そう思いながら、俺は歩みを進める。


「例え、どんな罠があっても……」


 俺の父と母は、俺や他の子供達を助けるために犠牲になった。

 そんな両親のことを、俺は尊敬している。だから、この町を守ると決めた。この身を賭けて、俺は戦うのだ。

 故に、俺はラムフェグの罠も恐れない。刺し違えてでも、奴は葬り去るつもりだ。


(明日、フレイグ様は戦いに向かわれます。そんなあなたに、一つだけ覚えておいて欲しいことがあるのです)


 そんな時に俺の頭に過ってきたのは、アーティアの言葉だった。

 俺は、彼女が何を言っていたかを改めて思い出す。


(帰って来て下さいね)


 その言葉に、俺は足を止めることになった。

 彼女の俺を思いやるその言葉に、俺はなんと返答しただろうか。


「帰って来る、か……」


 俺は、両親が亡くなった時のことを思い出していた。

 あの時、俺は深い悲しみの中にいた。大切な人が帰って来ない。それは、絶望的なものだった。

 アーティアが俺のことをどう思っているかはわからない。しかし、少なくとも悪い感情を抱いていないだろう。あの言葉から考えて、それは確実だ。

 つまり、俺が帰らなければ、彼女は深い悲しみを覚えるということである。それで、本当にいいのだろうか。


「あの悲しみを……他の誰かに味合わせていいはずはない、か」


 俺は、考えを改めた。刺し違える覚悟、そんな覚悟をするべきではない。

 俺は、ラムフェグを倒して帰る。そう考えなければならない。


「さて……どうするべきか」


 今後の方針は決まった。だが、それで目の前の出来事が解決するという訳ではない。

 この先、ラムフェグは罠を構えているはずだ。俺はなんとかして、それを切り抜けなければならない。


「……困っているようだな。手を貸した方がいいか?」

「……何?」


 そんなことを考えている俺の耳に、声が聞こえてきた。

 その声には、聞き覚えがある。

 しかし、そいつがここにいるはずはない。いや、ここにはいるかもしれない。だが、その声が俺に聞こえるはずはないのである。

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