62.揺るがない優位
「……貴様達は、この手で八つ裂きにしてやる。そうしなければ、私の留飲が下がらん」
『色々と言っているようだが、今のお前の状況をわかっているのか? お前は、圧倒的に不利なんだよ』
「ふん……この私を舐めてもらっては困る。未だ私の優位は揺らいでいない」
『何?』
ラムフェグの言葉に、ラフードは驚いた。それは、私も同じである。この状況で、どうしてそんなことが言えるのだろうか。
彼は、跳ね返って来た自分の光線によって傷を負っている。それで有利であるはずはない。
『何か策略があるということか……お嬢ちゃん、フレイグに気をつけろと言っておいてくれ。もちろん、フレイグもわかっているとは思うが……』
「フレイグ様、ラフードが気を付けてと」
「ああ、わかっている」
ラムフェグは、まだ手を残している。恐らく、そういうことなのだろう。
この状況で、どんな手があるのか、戦いに疎い私にはわからない。だが、フレイグ様やラフードならそれも予測できるだろう。
それなら、ラムフェグが完全優位ということはなさそうに思える。もしかしたら、彼特有のはったりである可能性もあるのかもしれない。
「まさか、この手を使うことになるとはな……忌々しいことだが、やはり貴様達の実力は高いようだ」
「むっ……」
ラムフェグは、剣を大きく振り上げた。それは、何かしらの技の予兆だろうか。
フレイグ様もそのように思ったのか、その剣を構えた。恐らく、相手の攻撃を防御するつもりなのだろう。
「ふん!」
「……何?」
次の瞬間、ラムフェグは大きく後退した。
彼はそのまま、廊下の角を曲がる。一瞬の内に、彼はこの場から立ち去ったのだ。
『逃げやがった! あの野郎!』
「逃がす訳にはいかん……」
数秒間を開けてから、フレイグ様とラフードはともにラムフェグが逃げた方向に走り出した。当然のことかもしれないが、彼を追うつもりなのだろう。
どうやら、ラムフェグは案外冷静だったようである。この状況で勝つことはできない。それを判断して、逃げの手を打ったのだ。
確かに、それはこの場において一番有効な手といえるだろう。戦っても勝てない。それなら、一旦態勢を立て直すべきだ。
「フレイグ様、どうか無事に帰って来てください……」
そんなことを考えながら、私は祈っていた。
この戦いが始まる前、私はフレイグ様に不穏な影を見た。それが、杞憂であって欲しい。そう願うのだった。




