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継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。  作者: 木山楽斗


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56.謎の足音

 私は、自室に向かって屋敷の廊下をゆっくりと歩いていた。

 考えるのは、フレイグ様のことだ。私は、彼のこれからの戦いに不安を抱いている。その不安が一体何なのか、私はずっと考えているのだ。


「……あれ?」


 そこで、私は足音が聞こえてくることに気づいた。

 フレイグ様は部屋に留まっていたので、シャルドさんかエリーナさんだろうか。

 ただ、少しおかしいことがある。その足音と同時に、何か金属音のようなものが響いているのだ。

 もしかして、何か運んだりしているのだろうか


「……え?」


 そんなことを思っていた私の目に入ってきたのは、二人ではなかった。真っ白な鎧が、廊下の角を曲がって現れたのである。


「な、何……あれ?」

「……」


 私の目の前に現れた鎧は、ゆっくりとこちらに近づいて来た。その足取りは、非常にゆっくりだ。

 そんな鎧に対して、私は頭を回転させる。それが、一体何者なのか、必死に考えているのだ。

 だが、答えは出て来ない。まさか、執事やメイドがあんな鎧を着ている訳ではないだろうし、賊にしてもおかしな格好だ。


『アーティア! 逃げろ!』

「え?」


 次の瞬間、聞こえてきたのはラフードの声だった。

 その声に、私は冷静になる。よく考えてみれば、あの鎧が何者かなどと考えるよりも先に、逃げるべきだったのだ。 

 あれは、明らかに普通ではない。訳はわからないが、逃げるにこしたことはないだろう。


「……逃がさん」

「なっ……」


 という訳で、私は逃げようと身を翻した。

 すると、声が聞こえてきた。その声は、鎧から響いてきている。


『お嬢ちゃん、振り返るな……とにかく、フレイグの部屋まで戻れ!』

「ラフード!」


 突然聞こえてきた声に驚いていた私の横に、ラフードが現れた。どうやら、屋敷の壁を突き抜けてここまでやって来たようだ。

 とりあえず、私は彼の指示に従うことにする。振り返らないで、フレイグ様の執務室まで向かうのだ。


「ラフード、あれは一体なんなの?」

『……あいつが、ラムフェグだ!』

「え?」


 ラフードの言葉に、私は驚いた。

 後ろから迫っているあの鎧がラムフェグ。その事実は衝撃的なものである。まさか、諸悪の根源そのものが目の前に現れたなんて、信じられないことだ。

 どうして、彼がこの屋敷にいるのだろうか。その意味がわからない。一体、何が起こっているのだろうか。


『事情の説明は後だ! とにかく、あいつから逃げろ!』

「う、うん……!」


 気になることは、色々とあった。

 だが、一つだけわかっているのは、彼から逃げなければ大変なことになるということである。

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