40.気にならないこと
『おっと、お嬢ちゃん。そんな深刻な顔をしないでくれよ。別に、俺達にとってそのことは全然気にならないことなんだ』
「え?」
私が色々と悩んでいると、ラフードがそう声をかけてきた。
その声色は、呆気からんとしている。本当に、なんてことのないような口振りなのだ。
『ラフードの言う通りです。多少特別な出自でありますが、そんなに深刻なものではありません。まあ、それは人間と魔族の認識の差なのかもしれませんが』
『魔族には、よくあること……という訳でもないがな』
『そうですね……私達が特別なのは、確かなことです』
ラフードとクーリアさんは、私の前でそんな会話をしていた。
その口調は、日常会話をするかのように穏やかだ。二人にとって、その出自は本当にどうでもいいことなのだろう。
「そっか……ごめんね、私、なんか勝手に思い悩んでしまったみたいで……」
『いや、気にするな。まあ、そりゃあ、そんなことを聞かされて、普通に流せる訳もないんだし……』
『はい。ラフードの言う通りです』
二人の言葉に、私は考えを改めることにした。
よく考えてみれば、ラフードとクーリアさんが特別な出自であろうと、今目の前にいる二人と接するにあたって、それはまったく関係がないことである。
というか、そもそもラフードとクーリアさんは精霊という特別な状態だ。それを思い出すと、出自とかそういうことは、なんだか気にするべきことではないと思えてくる。
『さて、話を戻すことにしましょうか。つまり、私はラフードの兄弟……まあ、私達は同胞と呼んでいますが、そういう存在なのです』
『まあ、そんな所だな』
ラフードとクーリアさんは、お互いに笑い合っていた。
その様子を見ていて、私は改めて理解する。二人は、良好な関係なのだと。
「……そういえば、クーリアさんも精霊の状態になっているんですね?」
『ああ、そうですね……私も、普通の人には認識されない状態になっています』
『というか、クーリアは俺より先にこの状態になっていたのさ』
「そうなんですか?」
『ええ、実はそうなのです』
私の質問に、クーリアさんは少し落ち込んでいるような気がする。
もしかしたら、これは聞かない方がいいことなのかもしれない。彼女にとって、それはきっと悲しいことなのだ。
「えっと、話したくないなら……」
『あ、いえ、別に話したくないことという訳ではないのです。ラフードもいいですよね?』
『ああ、別にいいぜ。まあ、もう終わったことだからな……』
私の言葉に応えながら、クーリアさんはラフードに話を振った。どうやら、彼女がこの姿になったことに関して、彼も少なからず関わっているようだ。
二人は同胞である。それは恐らく、兄弟であり仲間であったということなのだろう。
ということは、二人は関わり深かったということだ。そのため、彼女が精霊になったことにも関わっていたのだろう。




