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継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。  作者: 木山楽斗


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38.宙に浮かぶのは

『……お嬢ちゃん、フレイグに見惚れたのか?』


 私が色々と考えていると、横にいたラフードがそんなことを言ってきた。

 彼は、ずっとこんな感じである。ことある毎に、私がフレイグ様に惚れているのではないかと言ってくるのだ。

 そんな彼に、私は思わず呆れてしまう。だが、だんだんとそのからかいに対して、あまり怒りが湧いて来なくなっている自分に気づいた。

 それは、どうしてなのだろうか。そんなことを考えつつ、私は再度フレイグ様の方を見る。


「……え?」

「……先程から、どうしたんだ?」

「い、いえ……すみません」

「顔色が悪いぞ?」


 そこで、私は思わず混乱してしまった。フレイグ様の隣に、何かが浮かんでいたからだ。

 もちろん、彼の隣にはいつもラフードが浮かんでいる。今更、彼を見た所で私は驚かないので、困惑してしまったのは別の存在の姿が見えたからだ。

 それは、人間の女性のような姿をしている。ただ、その下半身は魚のようだ。上半身は人間、下半身は魚の生物。要するに人魚が、ラフードの隣にいたのである。


『うわあっ!』


 ラフードも、自分の隣にいる存在に気づいて、大きく声をあげた。どうやら、彼にとっても、その存在は驚くべきものだったようだ。


『ラフード、そんなに驚かなくてもいいではありませんか?』


 そんなラフードに対して、人魚は穏やかにそう語りかけた。

 その口振りからして、彼女はラフードの知り合いのようだ。驚いたのは、いきなり隣にいたからということなのだろう。


『ク、クーリアか? 驚かすなよ、まったく……』

『別に驚かしたつもりはありません。あなたが私のことに気付かなかっただけです』

『いや、いきなり横に現れたら、驚くだろうが……』


 どうやら、あの人魚はクーリアというらしい。

 恐らく、彼女も精霊なのだろう。フレイグ様には見えていないようだし、ラフードの知り合いということなら、そういうことであるはずだ。


「アーティア、どうしたんだ?」

「え、えっと……少し、疲れてしまったのかもしれません」

「……疲れたのなら、そろそろ屋敷に帰るか? 思えば、随分と長い時間歩いていたものだ」

「えっと……は、はい。それで、よろしくお願いします」


 とりあえず、フレイグ様には私が疲れているということにしておいた。

 精霊のことは言う訳にもいかないので、それくらいしか言い訳が思いつかなかったのである。


『すみません……私のせいで、ややこしいことになってしまったようですね。あ、答えなくていいですからね』


 そんな私に対して、クーリアは頭を下げてきた。

 どうやら、彼女も悪い人という訳ではないようだ。そんなことを思いながら、私は屋敷に帰るための馬車に、フレイグ様に気遣ってもらいながら向かうのだった。

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