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継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。  作者: 木山楽斗


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19.呟いたのは

『こっちだ。お嬢ちゃん』


 私は、ラフードとともに屋敷の庭を歩いていた。

 前方に漂う彼の案内に従い、私は屋敷の裏手に回っている。どうやら、そこにフレイグ様がいるらしい。


『……ここからなら、見えるか?』

「あ、うん……」


 ラフードの指示に従って、私は丁度角になっている所に背をつける。そして、そこから、屋敷の裏の様子を窺う。

 すると、そこにはフレイグ様がいる。彼は、目の前にあるとあるものをじっと見つめて、悲しそうな顔をしていた。

 彼が見つめている先にあるものは、お墓のように見える。フレイグ様の表情からもそのように思えるし、多分そうなのだろう。


「……あれは、誰かのお墓だよね?」

『ああ……俺の墓だ』

「え?」


 ラフードに聞いてみると、驚くべき答えが返ってきた。それがお墓であることは間違っていなかった訳だが、まさか彼のお墓とは思っていなかった。

 ただ、別にそのようなものがあってもおかしくはない。

 フレイグ様の様子や、ラフードの話から考えれば、それはむしろ自然なことだ。ラフードは肉体を失って今の精霊の姿になった。その過程において、フレイグ様は彼が亡くなったと思っている。そういうことなのだろう。


「……ラフード」


 フレイグ様は、切ない表情を浮かべながら、ラフードの名前をゆっくりと呟いていた。

 それは、今まで見たことがない表情だ。その表情で、私は理解する。

 ラフードにとって、フレイグ様は親友ともいえる存在だった。それは、逆も同じだったのだろうと。


『……お嬢ちゃん、あのさ』

「ラフード、少し待って」

『うん?』

「……多分、ラフードは事情を話そうとしているんだよね? でも、それは必要ないよ」

『な、なんでだよ? 知りたくないのか?』

「知りたいとは思っているよ。でも、それをラフードから聞くべきじゃないって、私は思うんだ。これはきっと……フレイグ様から、聞くべきことだよ」

『お、お嬢ちゃん?』


 驚くラフードを置いて、私はゆっくりと歩き始めた。

 二人の過去に何があったのか、それをラフードから聞くのは簡単なことだ。

 だが、それでは駄目な気がした。フレイグ様と真に向き合うためには、今あそこであんな表情をしている彼から話を聞かなければならないと思うのだ。

 そのため、私はゆっくりと彼の元に向かって行った。すると、すぐに彼は視線をこちらに向けてくる。


「……お前は」

「すみません、フレイグ様。部屋から、フレイグ様がこちらに向かっているのが見えて……」

「……そうか」


 フレイグ様は、特に怒ったりはしなかった。秘密にしておきたいようなことなのかと思っていたが、そういう訳ではないらしい。

 彼は、ゆっくりとお墓の方に視線を戻した。それを見てから、私もお墓の方を見る。

 そのお墓には、確かにラフードの名が刻まれていた。本当に、ここは彼のお墓であるようだ。

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