美食のサイズ
宇宙人の帝王がいて、彼は美食家だった。
帝国を持っていて、相当な権力がある。
人民からは慕われていたが、彼には唯一の趣味があった。
うまいものには目がないのである。
そこへ目をつけた悪党がいた。
今度、宇宙の帝王が千回目のバースデイを迎える。
その催しは盛大に行われるはずだった。
「余の誕生日を祝う? そんなものに金を使うのは帝国の私物化だ」
今まで帝王はそう言って、盛大な行事などはすべて断っていたものの、人民の熱心な薦めに、ついに折れた。
帝王の種族に千年を越えて生きるものはまずいない。
帝国の歴史に名を刻む彼が、そんな長命に恵まれたことは、何よりも喜ぶべきことである。
その誕生日を記念して、帝王のこれまでの働きに感謝し、彼に喜びの限りを尽くさせてあげようではないか。
「ならば、うまいものがいい」
催しの相談に来た人民に、帝王はそういった。
「余が今までの長い人生で一番うまいと思えるものを食したい。それを用意したものには、あたう限りの褒美を与えよう。無論、君たちがよいというのならば、だが」
人民はよしとした。
帝王のためならば、そのものが望むものを、何でも与えよう。
そうして料理人の募集がかかった。
言うまでもなく、その星で料理できる者はすべて色めきたった。
そこへ現れたのが悪党だった。
一つのルールを、彼は破った。
料理人は帝国内のものでなければならない。
そのルールは明文化されており、破ったものには厳罰が与えられるはずだった。
だが彼は料理の呼び出しに用いる転送ポッドの認証チェックパターンを解読し、全宇宙の料理を呼び出す権限を手にいれた。
これでこの帝国は俺のものだ。
悪党はほくそえんでいた。
彼は帝国そのものを望むつもりだったのだ。
そして料理人のあてはあった。
宇宙の端にある『地球』という星。
調べつくしたあげく、そこにいた料理人の一人が、この宇宙で誰よりもうまいものを作るという……。
※※※
帝王の千回目のバースディは帝王の望みどおりに行われた。
帝国中の腕自慢が料理を考案し、毎食毎食、帝王は様々な美味を食べ続けた。
すぐに終わるものではない。
何年もの時が過ぎ、まだまだ審査は続いていた。
何しろ食べるのは帝王一人であって、そうして、料理の出品者は帝国内に何百万人といたのだから。
そしてやっと、悪党の番が巡ってきた。
彼は帝王を前にして、堂々と立ち振舞っていた。
やがて、帝王の側近が転送ポッドを携えて現れた。
そこに、出品者が提出したコードを打ち込む。
するとその中に、料理が転送されるという仕組みである。
悪党は自信満々に、先ごろ調べておいた、例の地球人の料理のコードを述べた。
それは悪党にとっては緊張の一瞬だった。
セキュリティは破っていたはずだ。
まさか引っ掛かるわけがない。
それでも、……。
転送が完了したチャイムが鳴り、悪党はほっと一息をついた。
これで俺の勝ちだ。
転送ポッドが開かれた。
その途端、帝王は顔をしかめ、悪党を怒鳴りつけた。
「出された料理がうまかろうとまずかろうと、余は文句はいわん。真剣に作られたものであればな。だが、これはどういうつもりだ。お前は余を愚弄しているのか」
それまで上機嫌だった反動もあるのだろう。
帝王の怒りは並大抵のものではなかった。
それで悪党はすごすごと帰らざるを得なかった。
転送ポッドの中の料理に目をやり、舌打ちをしながら。
それは確かに美味なものであるはずだった。
宇宙の中でも、他に比類するものはないもののはずだった。
だが彼は一つ、見落としていたものがあった。
それは、彼ら自身のサイズだ。
地球人は、彼らの種族からすれば指先ほどの大きさでしかなかった。
そんな地球人の作る料理は、彼らからしてみると、砂粒のごときものでしかなかった。
そんなもの、実際はどれだけうまかろうと、味なんてわかるはずもないのだ。