第4話 同僚のお姉さん
東京の会社では遠距離恋愛の彼女のことを皆フィアンセと呼んでいた。彼女の何を話したのかまるで覚えていないのだけど、調子にのって後先考えずにありのまま全部お話したのだろうと思う。でも、そのフィアンセと別れたのだから、ここから先取繕うのが大変だった。
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同僚にとても綺麗なお姉さんがいた。スタイルが良く背も高くて、顔立ちも美形。きつい言い方をされるので僕にとっては怖い存在でしかなく、あまりお話をしたいお姉さんではなかった。
でもいつの頃だったか、そのお姉さんの発言を文字にしてみたら、とても女性らしいいいまわしで、驚いたことがあった。怖い印象は言い方に迫力があるためと、性格がハッキリしているからだったのだろうと思う。そのことに気付いてからというもの、このお姉さんに対するイメージが大きく変わってしまい、とても気になる存在になってしまっていった。でもとてもじゃないけど、僕とは釣り合わないだろうなとも思っていた。大人の男として何か魅力的な部分があるのかというと、どこにもそんな要素があるように思えなかったからだ。料理が上手とか、釣りが好きとか、車に詳しいとか、文学に造詣が深いとか、そうした部分は一切ないし、努力しようと思ったことすらない、そんな僕に魅力を感じてもらえるとは到底思えなかった。だからただ素敵なお姉さんだなと思うだけにしておこうと思った。
そう思い始めてからどれほど経った頃だったか、そのお姉さんから見たことも聞いたこともない物を渡された。
「これお風呂に入れて使ってみるといいよ!」
「えっなんですかこれっ・・・・」
お風呂に入れて入浴することで痩せられるという代物だった。自分で自分を分析するのはなかなか難しいものだけど、それほど太っているというわけではなかった。ただ少しお腹がでているという認識はあった。それをこの同僚のお姉さんが気にしてくれているようだった。実際太っているという表現は使ってはいなくて、お腹のことばかり言われていた。
それからいくらもたたないある日、僕がひとり給湯室にいるところに、そのお姉さんが後から入ってきて、いつものように、たわいもない話を二人でしていた。
「今度布施君の家に食事作りにいってあげようか・・・・」
「えっ・・・・」
動揺して話をはぐらかして給湯室から退散してしまった。
この出来事をきっかけに東京で彼女をつくるということの意味を深く考えるようになってしまった。
東京で彼女をつくるということは、かなりの高確率で他県出身の女性とおつきあいすることを意味する。おつきあいしたその先で結婚するとなると、夫婦の間の会話は標準語ということになる。
超絶不器用な僕にそんな生き方はできない。
この頃から後、このお姉さんは僕が僕の婚約者とどうなっているのかとしきりに聞いてくるようになっていた。実際この頃には別れた後だったのだから、怪しまれるのも仕方ない。
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同僚の独身男女10人ほどで、1泊2日の旅行をしたことがあった。河口湖湖畔のバンガローに宿泊したその日、お風呂から上がって食事が終わった後、僕はひとり先に床についた。といっても実際は眠たいわけでもなく、ただ、色々聞かれることが嫌だったので、寝たふりをしていただけだった。寝たふりだから、皆の会話も聞こえてくる。
「布施君寝たの?本当に寝たの?・・・ところで、布施君はフィアンセとどうなっているの?知らない?」
お姉さんのこの発言にはヒヤヒヤした。起こされたらどうしようかと冷や汗がでてきた。場合によっては無理やり起こされるのではないかと怖くて仕方がなかったのを覚えている。
当時はそこまでだとは思わなかったのだけど、帰郷してだいぶ経ってから、このお姉さんと付き合いが続いていた男性の元同僚経由で質問があった。その後婚約者とはどうなったのかという質問だった。お姉さんはかなり真剣に僕とのお付き合いを考えていてくれていたのだと思う。