表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃花神鷹記  作者: 守田
仇討ちと義侠編
8/45

第1話 臨安府へ

数日の間、三峡寨に滞在していると、大兄が息を切らして走ってきた。


「小風、夏教主の行方を掴んだぞ。」


「しばらくは、臨安府の屋敷に滞在しているらしい。」


寨の力を使い、大兄が足取りを追っていたのだ。


林掌門の本拠地、臨安府の屋敷は警備が少ないと聞く。

これはチャンスと言って良いだろう。


「俺も一緒に行こう。今こそ、仇を討つ時だ!」


大兄の申し出は嬉しい。


しかし、勝てる保証はないし、そもそも俺は百毒邪教で仇を討つつもりだ。

それは彼が許すはずがない。


「気持ちは嬉しいが、三峡寨はどうする?」

「寨主も副寨主も不在では、楊文広のようなことがあれば対処できないぞ。」


俺の言葉に、渋い表情で頷く。


「そうだな、分かった。」


「俺に出来ることがあれば、何でも言ってくれ。」


感謝の言葉を伝え一礼すると、臨安府へ向かい出発した。


道中、百毒邪教を修練するが、どうしても壁を突破できずにいた。

達人の域にはあるが、江湖でも屈指の内功とするには、どうしてもこの殻を破る必要がある。


そんな状況のまま屋敷に着くと、軽功で屋根に上り様子をうかがうことにした。


「どういうことだ?狐山派掌門の屋敷と言うのに、無名の者ばかりが出入りしているな。」


油売りの夫婦や、女性ばかりが連なった一行など、風変りの者ばかりが屋敷に入っていくのである。

特に、油売りの夫婦など武芸すらできないようだった。


「しかし、簡単には進入できそうにないな。」

「警備はいないようだが、住人は達人ばかりではないか。」


せわしなく働いている侍女2人だけ見ても相当な腕前、どうやら甘く見ていた。

簡単には夏教主に会えないだろう。


しばらく考え、行商人のふりをして正面から入ることにした。

油売りの夫婦が堂々と入っていくのだから、門をくぐることは造作ないだろう。


後のことは、様子を見ながら動くことにしよう。


「ドン、ドン、ドン!」


門を叩くが、誰も出てこない。

どういうことかと門を押してみれば、施錠もされていなかった。


中に入ると、庭には先ほど見た女性の一行と、夫人が談笑していた。

夫人の方は刀を持っているから、恐らく雪梅という人だろう。


話しを聞いてみれば、今日は夫妻で梅家荘へ出掛けるらしい。

林掌門が不在になるとは、ちょうど良い時に来たようだ。


「鄖陽の名酒を売っております。ご主人はどちらでしょうか?」


雪梅夫人が微笑みながら対応する。


「あら、それは父上が喜ぶわね。」

「主人なら、その屋敷の中にいるわ。」


夏教主も、そこにいるかもしれない。

礼を言うと、荷車を引いていく。


しかし、どういう訳か後ろから鋭い視線を感じる。

気付かれないようちらりと振り向くと、夫人が怪訝そうな表情でこちらを見つめていた。


まさか、感づかれたか?

とにかく視線を無視して、そのまま屋敷に入っていく。


「これはご主人、私は鄖陽の名酒を売っております。」


「ひと口、味見などいかがですか?」


彼の横にいるのは、端正な顔立ちに憂いを帯びた表情の美しい女性。

噂に聞いた通り。間違いない、夏教主だ。


この部屋には侍女が2人。

どちらも使い手だから、4人を相手にすることになるな。


残念ながらそれは無理だろうから、しばらく様子を見よう。


「行商人の方か、是非ひと口頂こう。」


林掌門は優しく微笑みながら近づいてくると、酒ではなく俺の手を取った。


しまった、脈を診られた。


「禍々しいな、この毒は…神鷹教の者か?」


気付けば、部屋の入り口には雪梅夫人が立ちはだかっている。

やはり感づかれていたか。


何なんだ、こいつらは。


「あなた、漢陽で助けた若者ね。」


「随分と体つきがたくましくなったから、危うく気付かないところだったわ。」


いや、普通は気付かないよ。

あれから5年は経ってるし、あの時は痛めつけられて、顔も分からなかったはずなのだから。


そして、2人の侍女も彼女に続いて声を上げる。


「あぁ、あの時の!」


「あなた覚えてる?私たちが助けに入ったのよ。」


この人たちは良い人なのかもしれない。


だが俺は信じない、沢山の偽善者を見てきたからだ。

林掌門だけは、任霖さんが英雄と言っていたから信じるが。


「漢陽で命を救って頂いた方でしたか。」

「あの時は、まだほんの子供でお礼もせず、どうかお許しください。」


やはり、夏教主を倒す時期はあらためるべきだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ