第6話 揺るぎなき信念
山中の竹林で百毒邪教を修練していた。
今の実力では夏教主に勝てるかどうか、しかも彼女には林掌門も付いている。
二人が相手となれば敵わないだろうから、さらなる力を手に入れる必要があるのだ。
「随分と、人の道を外れた内功を修練されていますね。」
声の主を見てみれば、まだ10代前半くらいか。
子供の僧侶だった。
どういう訳か、これだけ近くにいて全く気配を感じなかったな。
「小和尚、この修練は他人に見せられないんだ。」
「用がないなら、立ち去ってもらえないかな。」
俺の言葉など聞いていないかのように、彼は話しを続けた。
「拙僧は無学祖元と申します。」
「若輩者ではございますが、邪派の者を放っておくことはできません。」
「どうか、今すぐにでも修練をやめて頂きたい。」
突然現れて何を言っているのか。
そんな説得に応じるわけがない。
「小和尚に何が分かると言うのだ。」
「どうしてもと言うなら、腕ずくでやってみれば良いだろう。」
俺の言葉に、残念そうな表情を見せながらも頷く。
「仕方がありませんね。」
「それでは、九星臨剣法をお見せしましょう。参られよ!」
生意気な坊主だな。
ならばどうなっても知らないぞ、と攻撃を仕掛ける。
とは言え、何の怨恨もないのだ。
百毒邪教は使わない。
「それは毒砂掌ですか?」
「そんな技で、拙僧は倒せませんよ。」
どういう訳か、俺の攻撃はかすりもしない。
剣法と言うわりに徒手で戦っていることも気になるが、この坊主の技は隙が無い。
軽功もこの若さで達人の域だ。
「そうか、どうなっても知らないぞ。」
「百毒邪教!」
俺の両手は紫色に染まる。
しかし、先ほどまでと同じくかわされる。
いかに必殺の一撃でも、当たらなければ意味はない。
修練不足と言うこともあるが、そもそもこの坊主が強い。
江湖で指折りの達人と言っても、過言ではないだろう。
「遊んでいるのか?何故攻撃してこない。」
「俺が負けを認めることはないぞ。」
坊主が攻撃を仕掛けてこないのだ。
数十手を交えた頃、とうとう坊主が攻撃を繰り出してきた。
しかし、必殺技ではなく点穴だ。
徒手では剣法が成立しないのか、やはり決着はつかない。
休んでは戦うことを繰り返し3日間が過ぎた頃、とうとうこの剣法を破る方法が分かった。
「小和尚、お前の技は見切ったぞ。俺の勝ちだ。」
「そうだな、今から見せる技を八法殺法とでも名付けよう。」
そう言うと、俺は攻撃を仕掛ける。
当然坊主はかわすのだが、彼が攻撃に転じるタイミングが俺の好機だ。
その隙に乗じて、毒砂掌をお見舞いした。
「ぐはっ!」
坊主は吹き飛ばされ、大きな岩に叩きつけられた。
「そんな馬鹿な。九星陣を見破ったと?」
彼の驚きようは尋常ではない。
「3日間も戦えば、少しは見えてくるさ。」
「まるで、俺に陣法を教えてくれているようなものだったよ。」
俺を見る表情は、悔しくて仕方ないといった様子だ。
「小和尚の陣を逆手にとったのが八法殺法だ。」
「それは随分と貴重な陣法なんだろう?感謝しなければいけないな。」
俺は毒消しを坊主へ投げる。
それを飲み終えると、彼は口を開いた。
「なるほど、聡明な方ですね。」
「拙僧はこれから倭国へ行きますが、もう帰ってくることはないでしょう。」
「どうか、施主が魔道に落ちないことを祈るばかりです。」
そう言うと、彼は去って行った。
こいつも勝手に決めつけて勘違いしている。
俺は何も悪いことなどしていない。
やはり、この世界で信用できるのは任霖さんと三峡寨の皆だけだ。
しかし、これ以上ここにいては任霖さんを危険に巻き込んでしまうかもしれないな。
無事は確認できたのだから、別れを告げて立ち去ることにしよう。
百毒邪教は道半ばだが、修練しながら夏教主の元へ向かえば良い。