第4話 仇討ちの旅立ち
「小風、そっちの3人は任せたぞ!」
俺は槍を持つ手に力を入れると素早く突く。
まるで風が吹き抜けるかのように、一瞬で3人を倒した。
「よしっ、戦利品を馬車に乗せたら撤収だ!」
柳荘主の号令で皆が素早く動く。
三峡寨で過ごして数年が経ち、俺は20歳になっていた。
さらに、柳荘主に中国語と武芸を習い、今や副荘主の地位にあった。
寨に戻ると、荘主の部屋へ呼び出しを受けた。
「今回の戦利品に、瀝泉槍と言う宝があった。お前にやろう。」
「これは、かの岳飛が使っていたと言われる槍だ。」
「どうして宋軍がこんな物を輸送していたのか分からないが。」
その槍は、6メートル近くもある大槍だ。
「ところで、小風ももう立派な大人だ。」
「どうだ、俺と義兄弟にならないか?」
俺は柳荘主に手を差し伸べてもらえなければ、今頃どうなっていたか分からない。
元より兄と慕っているし兄弟の契りなど必要ないが、それでも嬉しい申し出だ。
「もちろんだ。この場で誓いを立てよう!」
そう言うと、俺たちは盃をかわし義兄弟となった。
略奪成功の祝いも兼ねて、その日は夜更けまで飲み明かした。
翌日、俺は池のほとりに座り考え事をしていた。
ここで暮らす間に、神鷹教と正派の戦いがあり、兄の墨小邪が殺されたと聞いた。
下手人は、どういう訳か正派と手を組んだ、月蛇教の夏教主だと言う。
変わり者ではあったが、実の兄を殺されたのだ。
仇討ちをしなければならない。
「どうした、浮かない顔だな。」
「きっと兄のことだろう。心配するな、俺が力を貸してやる。」
大兄はいつも優しい。
寨内では、俺に甘すぎるという声もあるくらいだ。
しかし、俺と二人がかりでも仇を討てるとは限らない。
夏教主を倒すには百毒邪教を修練したいが、大兄は反対するだろう。
それに、実は仇を討つだけではない。
神鷹教の曹教主も、狐山派の林掌門に殺されたと聞いた。
曹教主のことはどうでも良いが、任霖さんが巻き込まれていないか心配だ。
消息を尋ねるには、一人の方が良いのだ。
「有り難う。でも、まずは俺一人で行動させてくれ。」
「その時が来たら、文で知らせるよ。」
俺の答えに渋い表情を見せるが、仕方ないと言った様子で大兄は頷いた。
「小風がそう言うなら、反対はしない。」
「いいか、いつでも俺を頼るんだぞ。」
数日後、大兄と皆に別れを告げると、俺は三峡寨を出た。
まずは任霖さんを探すため、九鬼宮を目指す。
泉州に入ったあたりで宿をとり食事をしていると、近くの席に数名の僧侶が腰を下ろした。
そのうち一人は飛びぬけて高齢で、黄色の法衣をまとい、見るからに高僧だ。
牛肉麺を牛肉抜き…ただの麺だが、これを旨そうにすすりながら高僧が話し出した。
「月蛇教には約束を反故にされ、神鷹教も壊滅状態。」
「百毒邪教を手に入れるはずが、とんだことになりましたな。」
百毒邪教と言われ、つい体がピクリと反応してしまった。
奴はそれを見逃さなかった。
「施主、どうされたかな?百毒邪教に聞き覚えがあるようですが。」
俺が席を立とうとすると、無理矢理腕を掴まれた。
相当な達人だ。
「ほう、毒を学んでおりますな。」
「しかも、神鷹教にゆかりのある方とお見受けしました。」
「拙僧は鳩摩流と申します。」
「これも何かの縁、物見遊山に是非吐藩までお越しください。」
騒ぎを起こして逃げようとしたが、点穴され声を出せなくなった。
そのまま、俺は吐藩へ拉致されていく。
泉州を出たあたりで点穴を解かれ、廃寺で宿をとることになった。
「施主が懐に入れている書物を拙僧に頂けないですかな。」
「誤解なきよう。」
「これは、曹教主との約束なのです。」
どうして俺が百毒邪教を持っていると分かったんだろう。
それはさておき、これは仇討ちのため、どうあっても渡せない。
「渡さないと言うなら、不本意ですが腕ずくで頂きますぞ。」
本性を出したか。
渡したくないが、今回は乗り切れないかもしれないな。
すぐに僧侶3人が襲い掛かってきた。
「毒砂掌!」
これは俺が持っている唯一の技だ。
大兄の元で内功の基礎は学んだが、技は槍術しか習っていない。
その武器、瀝泉槍は大きすぎるため、三峡寨に置いて来たのだ。
僧侶たちを倒したと思ったその時、
「がはっ!」
鳩摩流の掌を胸に受け、俺は激しく吐血した。