第4話 青城派を救援せよ(前半)
翌日、皆で集まり対策を練ることになった。
まず、林掌門が口火を切った。
「さて、どうやって墨殿の誤解を解くかだ。」
「今のままでは、青城派が命をつけ狙ってくるだろう。」
間髪入れず、林友侠が口を開く。
「墨教主の護衛は俺たちに任せてください。」
「必ず守って見せます。」
15年以上の歳月をかけ、ようやく狐山派の誤解は解けたわけだが、正派に認めてもらえることがこれほど嬉しいとは思わなかった。
おかしな話しだが、たったこれだけの会話で俺は涙ぐんでいた。
「墨殿…」
そう言って、俺の肩にそっと手を置いたのは夏教主だ。
考えてみれば、彼女も邪教の教主として意に反した苦しい人生を歩んできたはず。
仇であったとは言え、俺の気持ちを最も深く理解してくれているだろう。
気持ちを切り替えて、対策の意見を述べる。
「俺の考えですが、断掌門が死んでいれば倭寇との約定が果たされることはない。」
「そうなれば、今こうしている間にも倭寇が青城派のせん滅に動いているかもしれません。」
「我らは、青城派の救援に向かうべきです。」
「俺に対する誤解は、そこで解けば良いのではないでしょうか。」
皆、神妙な表情で頷く。
すると今度は、雪梅夫人が口を開いた。
「でも、青城派の拠点は四川よ。そんなところまで倭寇が出向くとは思えないわ。」
彼女の意見に皆が考え込み、沈黙が流れた。
「以前の俺なら、同じ意見だったでしょう。」
「しかし、我が百仙派は大理にありながら、倭寇により壊滅的な危機に陥ったのです。」
「奴らはどこにいても追ってくる、そう思っておいた方が良いでしょう。」
林掌門は茶を飲み干すと、再び話し出した。
「なるほど、分かった。」
「ここは墨殿が言う通り、青城派を助けに向かうことにしよう。」
彼の言葉に、皆が頷き同意した。
「まずは、墨殿、友児、无児で青城山へ向かってくれ。」
「倭寇の襲来に備え、俺は狐山派の弟子を集めてから向かおう。」
ここで、馬長老には九鬼宮へ戻るよう指示する。
そして青城派の拠点、青城山に着くと、林友侠が救援に来たことを青城派掌門に説明した。
「桜梅小侠にお越し頂き光栄だが、倭寇が攻めてくるなどにわかには信じがたいですな。」
そう返事をしたのは姜永だ。
断虹子の後、彼が掌門の座についている。
「しかも、隣にいるのは我らの仇敵、墨教主じゃないか。」
「桜梅小侠に免じて手は下さぬ、せっかくだが下山頂きたい。」
そう言われ、やむなく山の中腹まで引き返す。
「やはり、断掌門は亡くなっていた。」
「そうなると、いつ倭寇の襲来があってもおかしくない。ここで野宿して備えよう。」
林友侠の提案に従い待機していると、数日で事件が起こることとなった。
「なんだか騒がしいね。」
孫无仇が異変を察知し、様子を見に出掛ける。
しばらくすると、息を切らせて戻ってきた。
「大変だ、倭寇が来た!青城派の弟子が慌ただしく動いてるよ。」
いよいよ来たかと、俺たちは急いで青城山を駆け上がっていく。
「桜梅小侠か。まさか本当に倭寇が攻めてくるとは。」
「ここにいる狄勿暴を除く弟子は、迎撃のため下山させたところだ。」
狄勿暴とは、青城十人の一人である。
そこへ林掌門が到着した。
「姜掌門、狐山派が助太刀に参りました。」
「青城派の弟子と、我が弟子たちが梅花剣陣で倭寇を迎え撃っているところです。」
「我らもすぐに引き返し、奴らを迎え撃ちます。」
姜掌門は一礼すると、彼の挨拶に応える。
「これは林掌門、助太刀に感謝します。」
「青城十人と弟子たちは、林掌門の指示に従わせます。」
それから、俺たちはここで様子を見ることにした。
しかし、戦局が変わるまでに長い時間はかからなかった。
「姜掌門、敵方の10名が戦場を突破し、こちらへ向かっているようです!」
弟子の報告に、彼は驚愕の表情を浮かべる。
「一体どうやって突破したと言うのだ!」
「分かりませんが、状況から推察するに正面を避け、回り込んできたようです。」
姜掌門と弟子のやり取りから、敵はもう目前まで迫っているだろう。




