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桃花神鷹記  作者: 守田
邪教の秘宝編
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第2話 安息の地を探して

神鷹教の本拠地、九鬼宮から無事に脱出することができた。


これも全て、任霖さんのお陰だ。


「よし、奥義書もちゃんと持ってきた。」


懐に手をあて、書物があることを確認する。


実は逃げ出す時に、神鷹教の宝、百毒邪教を盗んでいたのだ。

盗むなど普通に考えれば不可能なことだが、俺など誰も相手にしていない。


保管庫を掃除するフリをすれば、意外にも簡単に宝へ近づけたのだ。


「目指すは河南省、少林寺だ。」

「道のりは長いが、他に選択肢はない。生きるために進もう。」


後ろを振り返れば、九鬼宮の上空に数羽の鷹が飛んでいる。

風にのって雄々しく大空を舞っている様子は、まるで天空の覇者のようだった。


少林寺のことは、事前に九鬼宮で色々と情報を仕入れていた。

孤児を拾ってくれると聞いて、難を逃れるには最適と考えて向かうことにしたのだ。


場所は河南省と言うことしか分からないが、拙い中国語でも方角くらいは尋ねることが出来る。



旅は順調だったが、鄖陽ウンヨウという町に着く頃、任霖さんからもらった銀子も底をついた。

もう少しで河南省に入ると言うのに、進退窮まってしまった。


とりあえず裏通りへ入り座り込むと、百毒邪教を取り出し読み始める。

ここに着くまでにも読んでいたが、言葉が分からずなかなか理解できないのだ。


「おい、それは神鷹教の奥義書ではないか。」

「なぜお前のような若造が持っているのだ?」


男と女が話しかけてきたが、俺が分かる中国語は単語程度。

何を言っているのか分からない。


実はこの二人、江湖に悪名高き五悪鬼だった。

男の方は、二番手の河北魔功こと威破人。

女の方は、三番手の広南隠剣こと呂无花と言う。


どうもこの百毒邪教を狙っているようだ。


「今の俺にはこれしかないんだ。絶対に渡すものか!」


そう言うと、懐に入れて腕を組むようにして守る。


それを見た河北魔功が口を開く。


「異国の者か?言葉が通じないようだな。」


「大方盗んだのだろうが、こんな邪悪な技の修練を黙って見過ごすわけにはいかない。」

「こちらへ渡せ、さもないと痛めつけるぞ!」


そう言って俺の懐へ手を伸ばす。

腕を組んだまま渡さないから、痺れを切らした二人は殴る蹴るの暴行を始めた。


どんなに暴行を受けても、俺は百毒邪教を守った。


すると、今度は無防備の顔を狙ってきた。

見る見るうちに顔が腫れ上がり、もう駄目かと思った時、


「弱い者いじめして、何が楽しいの?」

「私たちが相手よ。」


そう言うと、可愛らしい女性二人が五悪鬼へ向かっていく。


しかし、助けに入ったはずが逆に押し返されてしまった。


「二人とも引きなさい。」


その男は40代だろうか。

浅黒く背は低いが、英雄の風格だ。


彼は桁違いに強く、五悪鬼を簡単に撃退して見せた。


「君、大丈夫か?」


彼とは別の男が俺に話しかけてきた。

なぜかその発音は中国人らしくなく、聞き取ることが出来る。


さらに、男の横にいる美しい女性が話しかけてきた。

聞き取れた単語から、宿、医者と言っているようだ。


助けてくれたとは言え、こいつらも百毒邪教を狙っているかもしれない。

奪われないうちに逃げよう。


「いえ、大丈夫ですから。」


そう言うと、俺は足を引きずりながらこの場を後にした。


町はずれまで来ると、空き家を見つけた。

ここで静養することにしよう。


酷い目にあったが、今日一日を振り返ってみる。


出会った武芸者は7人、どう見ても神鷹教の教徒より強い。

そんな奴らが欲しがるのだから、百毒邪教にはそれだけの価値があると言うことだろう。


「ん?そう言えば、大丈夫かと声をかけてきた男、どこかで…」


「そうだ!」

「白い衣服に、梅の花と龍の刺繍。あれは狐山派の林掌門だ!」


任霖さんから聞いたことがある。


江湖に突然現れた英雄で、裏表のない人物だと言っていたな。

彼は信用して良いのかもしれない。


翌日、林掌門を探して町中を歩いた。


しかし、いくら探しても見つけることは叶わず、日が暮れてしまった。

きっともう、この町にはいないのだろう。


体中が痛いけど、何より腹が減った。

日本にいた時は、飢えるなど考えたこともなかったな。


こうなれば物乞いにでもなって恵んでもらうしかないが、それはどうしてもプライドが許さなかった。



「泥棒だ!皆、そいつを捕まえてくれ!」


結局、俺は盗みを働くことを選択した。


餅をいくつか服に隠した上で、一つ手に取る。

見つかったしても、一つしか盗んでいないように見せるためだ。


この作戦は上手くいった。

それに、捕まったとしても、まだ子供の俺を役所に突き出すまではしない。


最悪でも、殴る蹴るの暴行を我慢すれば良いのだ。


空き家に戻ると、餅にかぶりつく。

餅と言っても、小麦を使って焼いたパンだ。

伸びるどころか硬いし、お世辞にも旨いとは言えない。


「なんで俺がこんな目に合わなければいけない?」

「どうして誰も助けてくれないんだ。」


食べながら、自分の惨めな姿にむせび泣いた。


その後も場所を変えては泥棒を重ね、もう鄖陽にはいられなくなった。


しかし、旅を再開するために必要な銀子は、どうにか手に入れていた。

今度こそ、少林寺を目指して旅の再開だ。

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