第1話 百仙派の危機
桜梅小侠との戦いが終わると、神鷹教の立て直しを始める。
任霖さん、馬風笛、黒玄を長老として任命した。
と言っても、それ以上は何もしなかった。
任霖さんが陣頭指揮を執り、組織の拡大と弟子の修練を進めたからだ。
そして、なかなか百仙派に戻れないまま一カ月が過ぎた頃のことだった。
「教主、百仙派から書簡が届きました。」
馬長老から手紙を受け取ると、驚愕の事件が記されていた。
「百仙派が倭寇から襲われているとある。」
「どういうことだ?なぜ小国である大理の流派を襲う必要が…」
考え込んでいると、任霖さんが口を開いた。
「倭寇が河北で人狩りをしていると聞いたことはあるけど、南方のしかも大理へ足を運ぶ時点で、何か裏があるわね。」
何はともあれ、掌門の俺が見過ごすわけにはいかない。
急ぎ準備を整えると、後のことは任霖さんに任せ一人大理へ向かうことにした。
着いてみれば、百仙派は壊滅状態だった。
「掌門、私がいながら申し訳ありません。」
血まみれになっている包は、足を引きずりながら俺の元に来ると頭を下げた。
「300人の弟子が、今やここにいる者だけになってしまいました。」
「倭寇は2倍以上いようかという兵力で、あっという間のことでした。」
見渡してみれば、生き残っているのは20人程度である。
そこへ、息つく間もなく再び倭寇が攻め寄せてきた。
俺は奴らを知っている。
いわゆる武士、同郷の日本人だ。
「ここに残党がいたぞ!」
「百仙姑が死んだと分かったのだ、全員殺して帰るのだ。」
そう言うと、多数の倭寇がなだれ込むように襲い掛かってきた。
「ここは俺が食い止める、皆先に逃げろ!」
俺は百毒邪教の内功を全開にすると、右腕、左腕と振るう。
すると、紫色の煙と共に瞬時に敵が倒れていく。
とは言え数が多すぎる、逃げながら内力の続く限り攻撃を放った。
恐らく100人は倒しただろう、追っ手を振り切ると石林まで来ていた。
「掌門、ご無事でしたか。」
「皆離散しました、ここにいるのは私だけです。」
声を掛けてきたのは、包だった。
「無事で良かった。」
「実は、師父からこの石林に百仙功を隠したと聞いている。」
「俺は技を会得するから、包殿は残った者を集めて九鬼宮へ向かってくれ。」
「神鷹教が受け入れてくれるはずだ。」
そう言うと、百仙功を探して歩きだした。
しばらく探すと、怪しい場所を見つけた。
石柱に彫刻が施されているのだ。
詳しく観察すると、へこんでいる部分がある。
「ちょうど、掌門の指輪の石と同じ形をしているな。」
試しに合わせてみると、上手くへこみにはまった。
そして指輪を回転させると、目の前に道が現れた。
そう、隠し扉があったのだ。
中に入り、しばらく通路を進んでいくと大きな広間に着いた。
どうやら、ここで行き止まりのようだ。
中央には机と椅子がある。
「机の上にあるのは、干し肉か、それに水も。」
「しばらく暮らせるだけの備蓄はあるな。」
周りを見渡すと、壁には武芸の型を示す絵が描かれていた。
「これが百仙功か。」
「せっかくここまで来たんだ。師父、俺がこの技を完成させますよ。」
そう言うと、早速修練を始めた。
百仙姑は説明しなかったが、壁画を見れば軽功の技とすぐに分かった。
それから3日もすれば、この技に足りないところが見えてきた。
さらに一週間後、
「よしっ、百仙功の完成だ!これで師父の遺言を果たせたな。」
修練はいつでもできるからと、石林を出て九鬼宮へ向かうことにした。
「包殿、なぜ百仙派が標的にされたか、知っていることがあれば教えてくれ。」
今回の戦いに至った原因を知っておく必要がある。
九鬼宮に着くなり、早速質問を投げかけたのだ。
「実は、以前に河北へ旅した際のことです。」
「こともあろうに、倭寇の者が前掌門をさらおうとしたのです。」
「それで、その場にいた全員を殺されてしまったのです。あとは想像に難くないかと。」
そうか、倭寇は仇討ちに来ていたと言うわけか。
しかし、俺が奴らを撃退したのだから、いずれまた攻めてくるだろう。
再び戦いとなることは避けられそうにないな。