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桃花神鷹記  作者: 守田
仇討ちと義侠編
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第9話 正義の選択(前半)

百仙姑を大理へ連れ帰ったが、重症の彼女は虫の息だった。


「小風、私はどうやらここまでのようだ。」


「お前が百仙派の掌門になるのだ。」


とんでもない。

こんな邪派の掌門など、どうあっても断らねば。


しかし、俺が口を開くより先に百仙姑が吐血した。


「いずれ江湖を統一することが夢だったが、小風が私のやり方を嫌っていることも分かっている。」

「どうしても嫌なら、お前の好きなようにやれば良い。」


「しかし、掌門だけは引き受けて欲しい。私の最後の頼みだと思って…」


話しながらも口からは血が流れ続け、体は痙攣している。

彼女の命は、風前の灯火だ。


死にゆく者の願いとなれば、聞かない訳にもいかない。


「俺のやり方で良いなら。」


「それなら掌門を引き受けますから、まだ死なないでください。」


悪党と言っても俺の師父。

しかも、俺を必要としてくれる数少ない一人なのだ。


気が付けば、涙があふれ出ていた。


「私のために泣いてくれるのか。」

「まさか、そんな人間がこの世にいようとはな。」


百仙姑は懐から指輪を取り出す。


「これは掌門の証だ。」

「せ、石林の中に百仙功という技を隠した。」

「この指輪を使えば、目にすることが出来る。」


「ま、まだ完成していないが、そ、聡明な小風なら…完成させることができるはずだ。」


そして、苦しいはずなのに彼女は笑顔を浮かべた。

消え入るような声で「ありがとう」と言うと、静かに息を引き取った。


百仙姑の最後を見ていると、もしかすると根っからの悪人などいないのではないか。

むせび泣きながら、俺はそう感じたのだった。


彼女を埋葬すると、俺は百仙派ですぐに集まれる者を招集することにした。

呼びかけに応じ、100人が集まった。


「今日より、この墨小風が掌門の大任を任された。」


「今後は、少しずつ俺のやり方に変えていく。皆、力を貸してくれ!」


俺の挨拶に、皆が恭しく礼をする。


「早速だが、皆の体から毒を取り除く。」

「百仙丸を渡すから、順番にこちらへ来てくれ。」


しかし、どういう訳か誰も前に出ない。


しばらく静寂に包まれた後、最前列の男が振り返り、皆へ話しかける。


「誰も必要としないなら、今日はこれまでとする。解散だ。」


皆、もう一度礼をすると、散り散りに去って行く。


「私は包不想と申します。百仙派の実務を取り仕切っております。」


「墨掌門の人柄は前掌門から伺っていましたが、なるほど聞いた通りのお人だ。」


ため息をつくと、包は話を続ける。


「弟子は皆、恐怖により支配されてきました。」

「百仙丸を渡すと言われても、誰も信用などしていません。」


「掌門に殺す気がなければ悪さをする毒でもありませんし、ひとまずこのままにしましょう。」


やり切れない気持ちだが、俺は彼の言葉に頷き提案に従うことにした。


「それはそうと、掌門に神鷹教から書簡が届いています。」


渡された手紙を読んでみれば、送り主は任霖さんだった。


どうやら、桜梅小侠が神鷹教の残党狩りに出立したとのことだ。

神鷹教などどうでも良いが、任霖さんを放っておくことはできない。


「包殿。早速で申し訳ないが、俺は神鷹教の本拠地に向かう。」

「戻るまで百仙派を頼む。」


俺の表情から、ただ事ではないと悟ったのだろう。

彼は二つ返事で引き受けると、早く向かうよう促す。


馬を乗りつぶす寸前まで走らせては乗り換え、最短で九鬼宮へ向かった。


桜梅小侠は寄り道をしていたのか、俺の方が先に到着した。


「小風、来てくれたのね。あなたがいれば安心だわ。」


出迎えてくれたのは任霖さんだ。

すっかり歳をとって、髪は白く染まっていた。


彼女の横には、正派との戦いで生き残った長老、馬風笛と黒玄もいた。

ただ、黒玄は完全に俺を見下している様子だが。



その数日後、桜梅小侠がやってきた。


「どういうこと?」

「毒の陣を破った上に、黒玄も馬風笛もいながら、教徒たちがたった二人にやられるなんて…。」


弟子の報告に、任霖さんは驚愕の表情を浮かべている。


それから程無く、二人は最後の広間までやってきた。


「俺は梅家荘の林友侠、こいつは桜家荘の孫无仇だ。」

「お前たちで最後だな、命までは取らないから安心しろ。」

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