第6話 百毒邪教の謎
段公主を大理へ送り届けると、三峡寨へ戻ることにした。
思ったより路銀を使ってしまったからだ。
しかし、そこへ行く手を阻む者が現れた。
「私から逃げ切れるとでも思ったか?」
百仙姑だ。
本当にしつこい奴。
「段公主なら、もう宮殿にお連れしましたよ。」
「俺に用はないでしょう。」
彼女はため息をつくと、首を横に振り話し出す。
「いや、今となってはお前に用がある。」
「どうやって神鷹教から百毒邪教を盗んだ?」
何故それが分かったのだ?
「俺が盗んだという証拠でもあるのですか?」
百仙姑は、ニヤリと笑いながら話しを続ける。
「百毒邪教は私が生み出した絶技だ。そして、奥義書は随分前に盗まれたままだ。」
「それだけではない、毒砂掌も百仙派の技。それらを神鷹教の教主が盗んだことは分かっているのだ。」
「調べによれば、お前は神鷹教の教徒だったそうだな。」
「奥義を会得したからには弟子になってもらうぞ。さぁ、跪かぬか。」
何と、全て曹教主の仕業だったか。
だが、だからと言ってこんな悪党の弟子になってたまるか。
「あなたの技と知らずに会得したのです。」
「弟子にはなりませんよ。」
笑いながら話していた百仙姑は、怒りの表情に変わっていく。
「何だと!?」
「大理で最強の私に弟子入りできると言うのに…それを断ると言うなら、敵となる前に殺すしかないな。」
一か八か、ここは挑んでみるしかない。
「百毒邪教!」
俺は修練不足だから、様子を見ている余裕はない。
いきなり内功全開で百仙姑に襲い掛かる。
彼女は三手かわすと、反撃を仕掛けてきた。
実はこれを待っていた。
「八法殺法!」
百仙姑が攻撃する一瞬の隙を狙い、彼女の向こう側へすり抜けた。
よしっ、このまま軽功で逃げようと思ったその時、
「その技は先日見たぞ。」
彼女は目の前に回り込んでいた。
「それにしても、このような難しい天地自然の理を理解しているとは。」
「やはり殺すのはもったいないか。」
そう言うと、弟子に目配せする。
すると、弟子が鉄製の箱を運んできた。
「お前の百毒邪教を完成させてやろう。」
「私が授けるのだから、今度こそ弟子になってもらうぞ。」
百仙姑が箱から取り出したのは、毒々しい色の大きな蝦蟇だった。
「これは百年蝦蟇と言ってな、お前が修練に使った虫より毒性ははるかに強いぞ。」
彼女は俺を点穴すると、口を開けさせる。
おいおい、まさか…
「ちと惜しいが、これを食わせてやろう。」
そのまさかだった。
やめてくれっ!そんなものを直接腹に入れるなど、俺には到底できない。
しかし、百仙姑は躊躇なく俺の口に押し込んだ。
「ゲロッ、ゲロッ…」
百年蝦蟇が俺の腹に入ると、その鳴き声は聞こえなくなった。
その直後、俺の全身に猛烈な痛みが走る。
そして、体が熱いと思ったら、全身から紫色の熱気が噴き出してきた。
そのまま、意識が遠のいていった。
目覚めると、俺は屋敷にいた。
屋敷と言っても、宮廷のような贅沢感はなく質素だ。
「気が付いたか。」
「お前は奥義書を理解できていなかったせいで、修練の毒が足りていなかったのだ。」
「しかし、私の助けで百毒邪教の修練が完成したぞ。」
椅子に腰かけながら、百仙姑が話しかける。
こいつは悪党だが、奥義を授けてくれたことは感謝しなければならない。
これで、兄の仇討ちができるのだから。
「分かっているな。さぁ、私に叩頭しなさい。」
ここにきて殺されるわけにはいかない。
実際のところ彼女に感謝しなければならないのだから、不本意だが弟子入りしよう。




