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桃花神鷹記  作者: 守田
仇討ちと義侠編
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第4話 大理国の公主

大理国に入り初めに感じたことは、宋と比べれば小さく貧しい国ということ。

しかし、民はそんなことは気に留めず、のんびりと楽しそうに暮らしている印象だ。


王宮が見えてくると、光り輝く建築物に圧倒されることになった。


「王宮周辺の発展ぶりと言ったら、民から搾取しているようにしか見えないな。」


呟きながら大通りを歩いていくと、王宮前に到着した。


何やら人だかりが出来ている。


「私は宋から来た旅の者ですが、ここで何かあるのですか?」


近くにいた商人風の男に聞いてみる。


「それは良い時に来ましたね。」


「これから陛下がご挨拶されるのです。」

「旅の方ではご存じないかもしれませんが、現陛下は段智祥様です。」


「小さな国ですから、宋とは違い皇帝と民の距離が近いのですよ。」


礼を言うと、俺は王宮の方へ視線を移す。


確かに彼が言う通り、皇帝が民に直接話しかけるなど、宋では考えられないことだ。

搾取しているなどと、先ほどの発言は撤回しなければいけないだろう。


ぼーっと眺めていると、居並ぶ皇族の末席に驚くべき人物がいた。


「えっ!?あれは、桂州で山賊から救った、美しい女性じゃないか。」


「彼女は公主だったんだな。」


どうやっても手が届かない人だけど、一度で良いから彼女と話してみたい。


そんなことを考えているうちに、段陛下の挨拶は終わった。

いくら考えても皇族と接する機会などないのに、散会しても俺は立ち尽くしていた。


しかし、この地に滞在していると、その機会は数日で訪れることになった。


大通りの屋台で買い物をしている時だ。


「段紫月公主だな、我らと一緒に来てもらおう!」


声を掛けたのは、20人程度の弟子を連れ、輿に乗った老婆だ。


年寄りではあるが、相当な達人。

この国にこれほどの人物がいるとは。


それよりも、変装していたから気付かなかったが、段柴月と呼ばれた公主はあの美しい人だった。


「百仙派の百仙姑か。卑怯な輩め、この孟丹心が相手になろう。」


公主の隣にいた男だ。

孟がどれほどの達人か知らないが、百仙姑に加えて弟子までいるのだ。

さすがに逃げることすら容易ではないだろう。


俺は段公主と一度話してみたいと思っていたし、ここは助けることにしよう。


孟が戦っている横をすり抜けると、彼女の腕をつかむ。


「八法殺法!」


俺は戦わず敵の間をすり抜け、百仙派の包囲から脱出することに成功した。


彼女と馬に乗ると、とにかく遠くへ駆けていく。


すると、無数の石が切り立っている不思議な場所に迷い込んだ。


「あなたは、山賊から救ってくださった方ですね。」


話す様子も声も、これほど美しい人には出会ったことがない。

心が洗われるようだ。


「はい。墨小風と申します。」

「公主をお助けするためとは言え、このような奇怪な場所にお連れして申し訳ありません。」


段公主は微笑みながら口を開く。

俺は今、彼女と話している。これは現実なのだろうか。


「旅の方だからご存じないのですね。」


「ここは石林と呼ばれる場所です。大理国の領内ですから、ご心配には及びません。」

「それよりも…」


段公主は、続きを言い難そうにうつむいている。


「どうされましたか?」

「あなたの力になりたいのです。何でも言ってください。」


俺の言葉に、意を決したように話しを続ける。


「ニ度もお救い頂いたのです。」

「あなたのことを信じて、お願いを申し上げます。」


「私を宋へ連れて行って頂けませんか?」

「公主としての毎日はつまらなくて、もっと世界を知りたいのです。」


公主を連れ出すことは大罪だ、希望を叶えるには命を懸けることになる。


でも、承諾すればこれからも彼女と一緒にいられる。

もしものことを心配するのはやめておこう。


「分かりました。それでは、このまま大理国を出ます。」

「行きたいところはありますか?」


段公主は任せると言うと、腰に回した手に力を入れる。

俺の背には彼女がいる。

何と幸せなのだろうか、この時間が永遠に続いて欲しい。


そのまま馬を駆け大理国を出ようかというところで、彼女が口を開く。


「公主と呼ばれるのも困りますし、お互いの呼び方を決めておきましょう。」

「あなたのことは墨公子とお呼びしますね。」


「そうですね。じゃあ、俺は段姑娘と呼びます。」


普通に名前を呼んでいるだけなのだが、なぜだか恥ずかしい。


さて、目的地はどうするか、鄖陽はよく知っているが悪い思い出しかないし、臨安府では林掌門に出くわすかもしれない。


いっそ知らないところが良い、俺も楽しめるし。


それなら、開封府にしよう。

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