表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃花神鷹記  作者: 守田
邪教の秘宝編
1/45

第1話 宋の時代へ

気が付くと、そこは牢の中だった。


辺りを見回すと岩壁に囲まれているようだから、どうやら洞窟にいるようだ。


そして、俺の横には兄が座っている。

どういうことか聞こうとした時、


「中国、宋の時代へようこそ。」

「俺は神鷹教教主、曹无求だ。」


フードをかぶった男は、こちらに目を合わせず話しを続ける。


「お前たちはタイムスリップしたのだ。」


「現代へ戻る方法はひとつ、一日以内に起きたトラブルを解決することだ。」


ここで、白衣の男が曹教主に話しかける。


男が話している言葉は外国語だ、と言うことは本当にタイムスリップしたのか。


「しかし、お前たちを監禁して既に一日経った。」


「これでもう帰ることはできない、神鷹教に入信してもらうぞ。」


どういう訳か、兄は何も話さない。

代わりに俺が口を開くことにした。


「全く話しに付いて行けないけど、どうしてこんなことをする?」

「俺たちなんて、何の役にも立たないだろ。」


曹教主は、面倒だと感じている雰囲気を出しつつも質問に答える。


「タイムスリップすると、生き物と契約することができる能力を得られる。」

「ごく稀な変異種に出会い、自分の力で倒すことで契約は成立する。」

「契約した生き物の能力は、強力な武器になるというわけだ。」


「これでお前たちを必要とする理由が分かっただろう。」


一気に話されても理解が追い付かない。


だが、冗談にしてはたちが悪すぎる。

もうひと言、言ってやろうと思ったその時、


「それで、その生き物はどうやって見つけるんだ?」


ここで、兄が質問した。

彼は変わり者ではあるが、こんな滅茶苦茶な話しを信じた上に協力しようと言うのか?


「そう焦るな、探して簡単に見付かるものではない。」

「しっかり戦えるように、神鷹教の内功を授けてやろう。」


曹教主は教徒に目配せすると、牢の鍵を開けさせた。


「努力次第では、幹部にもしてやる。」

「お前たち、歳は?」


また兄が口を開く。


「俺が14歳、こいつが13歳だ。」


曹教主は頷くと、少し考える素振りを見せる。


「やはり、まだ子供だな。」


「長老の任霖を付けるから、後のことは彼女に聞くと良い。」

「彼女はこの時代の日本人と付き合いがあったから、言葉は心配いらない。」


そして彼は去って行った。


牢を出ると、白髪交じりの美しい女性が待っていた。


「私は任霖、可愛い坊やたちね。」


「ここは洞窟の中だけど、なかなか楽しい暮らしよ。」

「明日から毒砂掌という技も教えてあげるわ。」


兄は、どうにも気に入らないと言った様子だ。


「技も教えて欲しいけど、契約できる生き物を探したい。」

「洞窟を出て歩いても良いか?」


彼女は困ったような表情を浮かべると同時に、兄へ疑いの視線を向ける。


「分かった。その代わり、私も同行するから。」


「それから、曹教主からあなたたちの名前を聞いているの。」

「お兄さんの方は墨小邪、弟さんの方は墨小風と名乗ると良いわ。」


兄は名前などどうでも良いと言った様子で、早速外へ出て行く。



その後、俺たちが宋の時代へ来て1年が経つ頃には、兄は中国語も上達、毒砂掌を会得していた。

さらに、毒の知識も豊富に持っているからと、長老に任命されていた。


教主の言っていたことは、たちの悪い冗談ではなかったわけだ。


一方、俺の方はと言えば毒砂掌は道半ばで、扱える毒も少なかった。


愚鈍と言われたらその通りだ。

しかし、どう見ても悪人にしか見えない奴らに加担することは抵抗があったから、真剣に取り組んではいなかったのだ。


「小風、なかなか修練の成果が出ないわね。」

「でも、まだ若いのだから気にすることないのよ。」


任霖さんは、こちらに来てからずっと優しくしてくれた。

挨拶程度しか中国語の分からない俺にとっては、唯一の話し相手だ。


そんな彼女に、思い切って相談することにした。


「神鷹教は悪事を働いているんでしょ。」


「俺は今すぐここから出て行きたい。手助けしてくれないかな。」


彼女は、俺の決意に応えるように頷いた。

その様子から、俺が出て行くと言い出すことを予測していたようにも見える。


「小風の言う通りよ、曹教主は何を考えているのか分からない。」


「でも、皆行き場を無くして、教主に助けてもらったから。」

「その恩があるから従うの。」


ため息をつき俺の服へ視線を移すと、手を伸ばして襟を直してくれる。


「ここを出て行くなら、江湖を生きる辛さを味わうことになるわよ。」

「手引きしてあげるけど、無茶しないで。命を大切にしてね。」


そう言うと、俺の懐に銀子を入れる。

任霖さんの瞳からは、涙がこぼれ落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ