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力が導く魔法使いによる復讐

作者: 留野洸希

 ミトンという街の門の前。

 門の前には英雄が帰ってくるのかのように、大きな人だかりが出来ている。

 人だかりの中央には、武器を持っている衛兵が並んで道を作っていた。


「ジュン、もう少しで予言者マーリン様が来るから急ぐぞ」

「ユトン、止めようよ。どうせ、この人だかりじゃあ見られないよ」


 青年ジュンは、青年ユトンに手を引っ張られながら、何度も相方に話しかけているが無視されている。

 二人とも、少し薄汚れたシャツとズボンを着ていた。

 ジュンとユトンは兄弟でもないのに、同じような顔で顔立ちも似ている。


 ジュンは、旅の途中でユトンと出会い、仲良くなっただけの関係。

 会ったばかりなのに、こそばゆいが兄弟のように仲がいいと言われたことがある。


 最初に会ったことを思い出していると、ファンファーレが響いて人々の歓声が沸いた。

 人々は“マーリン様”という声を上げ、大きく手を振っている。

 人込みの最前線に行き、予言者マーリンの姿を見るのは至難の業。

 ましてや、ユトンとジュンの青年でも到底見えるはずがない。


「おい、ジュン。肩車してくるか?」

「え……? ボクも見たいよ」

「バカッ! お前の故郷の飢饉を救った人だから見たいのは解るよ。だけど、お前だったら他の人に遠慮してマーリン様のお姿が見られるはずがないだろうが……」

「だって……」


 ジュンが躊躇っていると、ユトンが後ろに回り込みながら言った。


「とやかく言わずにさっさと肩車をしろ。どんな姿だったか、後で教えてやるからさ。な?」


 ジュンは仲良くなったばかりなのか分からないが、すぐに姿勢を低くした。

 ユトンは肩車をされた途端に、激しく体を動かす。

 ジュンは必死に堪えていたが、時間が経つにつてユトンの動きに耐えきれず、バランスを崩してしまいそうになる。


「おい、元に戻せよ」


 後ろに倒れそうなとき、誰かが後ろからジュンの体を支えてくれた。

 ジュンは後ろを向いて感謝の言葉を言おうとしたが、誰もいなかった。

 ユトンに頭を叩かれて、門の方向を指さしている。

 首を傾げながら体の向きを戻そうとした。

 刹那、何処かで見たことがある格好の人が目の前にいた。


「え……、誰?」


 ジュンは驚き、再び重心が後ろに逸れてしまいそうになったが、一瞬強風が吹きジュンの体を支えてくれた。

 目の前にいる人は、純白のマントとフードで身を隠して、上から下まで見えない状態になっている。


「大丈夫かい?」


 ジュンは動揺して声が出ず、辺りを見渡した。

 しばらくすると、男の声を聴いて思い出したことがある。

 男の声は、ジュンの両親を殺したときに聞こえてきたもの。

 ジュンは殺意を押さえながら、マントを掴もうとした。

 掴もうとするが、マントの人に手を弾かれる。


「今はマントに触れないでくれ。魔法が解けてしまう」


 ジュンは首を傾げていると、続けて言の葉を告げる。


「このパレードが終わったら、予言者マーリンが行く屋敷に来てくれ」


 親の仇が去ろうとした。

 ジュンは仇が目の前にいるので、勇気を振り絞って声を出した。


「お、おい……! ボクを覚えていないのか……?」

「覚えているもなにも会ったことがないだろう」


 ジュンは驚き、空いた口が塞がらなくなり殺意が更に湧く。


「まぁ、とにかく君の力が必要なんだ。すぐにマーリンが行く屋敷に来てくれるね?」


 ジュンの返事を待たずにマントを拡げた瞬間、止まっていた時間が動き出したように、周りから歓声が聞こえてきた。


 ジュンはパレードが終わった直後、バックの中から両親が作ってくれたナイフを出し尻ポケットにしまうと、マーリンがいる屋敷に向かった。

 屋敷の周りには、マーリンの姿を一目見ようと人だかりが出来ている。

 ジュンは屋敷の玄関に向かおうとすると、ユトンが訊いてきた。


「ジュン、どうしたんだよ? いきなりマーリン様のお屋敷に行こうってどうしたんだよ。それにしても、さっきから様子がおかしくないか?」

「……ううん、なんでもないよ。ユトンだけ、マーリン様の姿を見たから、ボクも一目見たいんだ……」


 ユトンはジュンの肩に手を置き、笑った。


「なんだよ、初めからそう言えよ。一回家帰ったから、そのまま解散かと思っちまったかもしれないだろう? 俺も、マーリン様をもう一度見たいけどさ……」


 ユトンは、嬉しそうな顔をして横を向く。

 ジュンから視線を外すと、ユトンは笑みを浮かべた気がした。

 ジュンは首を傾げていた瞬間、歓声が上がった。

 歓声から察するに、マーリンが屋敷から出てきたのだろう。

 ユトンはジュンのことを無視して、人込みの中に入り込む。


「おい、さっさと行くぞ!」


 ジュンもすぐに向かおうとすると、再び時間の流れが止まったかのようになったように人の動きが止まった。

 ジュンは後ろを振り向くと、両親の仇がいた。


「勝手で申し訳ないけど、記憶を探らせてもらうね」


 ジュンは仇が目の前にいると解ると、家から持ってきたナイフで刺そうとした。

 しかし、仇はジュンが動く前に後ろを回り込み、勝手に頭を無理矢理掴んできた。


 掴まれた瞬間、ジュンは走馬灯を見ているかのように、自身の記憶が今から過去に逆再生してくる。

 記憶がよみがえると同時に、幼い仇の記憶も流れてきた。



 昔、仇は剣術や勉強などをやっても失敗する人間だった。

 故に、親に認められようと血が滲むような努力をしてきた。

 彼にも、転機が現れる。


 “魔法”という超常現象を、行えるようになってしまった。

 “魔法”は想像することで、何でも思いのままに操ることができた。


 魔法にも種類があり、属性にあっていないと使えない代物。

 例えば、炎をよくイメージをする人は氷をあまり作ることができない、ものなのだ。


 力の代わり、代償もあった。

 “一般人と関われなくなってしまった”こと。

 もし、一般人と関わりを持ってしまうと、関わった人の存在自体が次の日には消えてしまう。


 故に、何かしらの力を持つ、あるいは同じく魔法の力を持つものとしか話せなくなってしまった。

 いわゆる、力の代償として呪いの類のものを身に宿ってしまったのだ。



 ジュンは記憶が流れるにつれ、仇の名前も知ることに。


「え? あなたの名前も、マーリン……?」

「ああ、そうだ。細かい話は、中でしよう。とにかく、今は時間が惜しい」


 ジュンは記憶を読み取ってしまうと、呆気に取られている。

 自身を指さすと、マーリンが真実を告げた。


「そうだ。君も、私と同じ“魔法”を使えるんだよ。だから、私の過去を覗けたんだ。とにかく、今は屋敷の中に入ろう。私の力も、もう長くは持たなくなっているんだ。君も、氷の魔法を使ったことがあるんだろう?」


 ジュンは“力”の話を聞きたくなり、ナイフを持ちながらマーリンが行く屋敷に入った。


 ―ボクも、マーリン様と同じ力を持っているの?

 ―だったら、どうしてボクはユトンやこの街の人と関われるの?

 疑問に思っていると、どこかの個室の部屋の前にいる。

 ジュンは部屋の扉が開くと、花のキツイ臭いがすると感じていた。


「何、このキツイ臭いは……?」


 部屋に視野を広げると、目に入ったのが剣や槍などの武器が大量にあったことと、強烈な鉄の臭いがした。

 武器をよく見てみると、中には刀身には血のような赤黒い色になっている。

 ジュンは予言者の想像とかけ離れていたので、帰る手立てを考えていた。


「ジュン君、勘違いをしないでくれ。これは正当防衛なんだ。私を襲ってきたものの、ね」


 ジュンはマーリンに突進した。

 勢いのまま押し倒し、ポケットに入れていたナイフで脅した。


「どうして……。どうして、ボクのお父さんとお母さんまでも……殺したんだよ! この殺人鬼!」


 すると、マーリンが叫び返す。


「ジュン君、話だけでも聞いてくれ! 頼む!」


 マーリンのことを全く信用できなくなり、ナイフで首元を刺した。

 何度も手を動かすと、マーリンは動かなくなった。

 ジュンが人を殺したと考えた矢先、目の前の景色が変わる。

 ジュンの目の前にはマーリンの姿が見え、キスをされている。

 急いで離れると、マーリンは吐き気がするような声で訊いてくる。


「どんな幻覚を見せられたんだか知らないが、話を聞いていたかい?」


 辺りを見渡すと、武器が大量にある部屋にいたが、鉄の臭いがしてこない。

 目の前にはソファーと机があり、気が付くとソファーの一角に座っている。

 ジュンは首を傾げていると、マーリンが続けて口を動かす。


「どうやら君は他の連中にも目を付けられていたようだね。流石に危ないからナイフは没収ね。後、私のことを信じるまで首から下の自由を奪っておくね」

「え……? さっきのは……?」


 ジュンは体を動かそうとするが、顔以外の部位が石のように動かない。

 マーリンは、ジュンの様子を見ながら判断した。


「その様子じゃあ、最初から話を聞いていなかったね」


 ジュンは渋々頷いた。


「私の話が聞く前に、君は幻覚を見せられていたんだ。その意味は分かるかい?」


 ジュンは、首を振る。

 マーリンが机に肘を置くと、話し始めた。


「いくつか憶測は立つが、一番は敵が私と君を関わらせたくないのだろう」

「どうしてそんなこと、を……?」

「理由は簡単。今から話す内容が、予言者と名乗っている偽マーリンにとって、有害なんだろう」


 ジュンは、首を傾げていると続けた。


「君にお願いしたいのは、その予言者と名乗っているマーリンを捕まえて欲しいんだ」

「……え、あ、はい……」


 ジュンは、少しずつ状況を整理した。

 整理し終えると、質問をした。


「そんなの、ほうっておけば……いいのではないでしょう……?」

「このままでは、全て帝国ポーズのものになってしまうんだぞ。もしそうなってしまうと、この世は地獄と化すだろう」

「ふ、ふざけるな! ボクの目の前でお父さんとお母さんを殺したのに、どうしてそんなことを言えるんだよ!」


 すると、マーリンは首を横に振った。

 ジュンは徐々に動けるようになり、マーリンの態度に腹が立ち胸蔵を掴もうとした。

 掴もうとすると、マーリンが手をかざして――


「“止まれ”」


 言い終わると、ジュンの体が再び重い石にでもなったかのように固まる。


「とにかく問題があるんだ」


 ジュンは何とか口を動かそうとすると、マーリンは具体的に指摘してきた。


「君も私の過去を見えただろう? 過去視ができるということは、未来視もできるんだよ、君も私も。だから、いつか君もできるようになるよ」


 ジュンは話について行けず、本当に目が点になっている。

 しばらくお互い黙っていると、マーリンは大きな溜め息をつき大声で叫んだ。


「出て来い! 私の名前を語っている予言者マーリン」

「チェッ! 気付いていたんだ。だけど、なんで俺の邪魔をするんだよ? 本物のマーリン」


 ジュンが振り向くと、ユトンがいた。


 ジュンは動けずにいると、ユトンに助けを求めようとした。

 ユトンも、こちらに来ようとした時、マーリンが危険を察知したように、すぐに飛び膝蹴りを彼にくらわす。


「な、なにするんですか!」

「逃げるぞ」

「え……? どうし……」

「今言うことじゃないが、ジュン君!」


 マーリンはジュンの方に走ってきた。

 ジュンは友の元に行こうとするが、動けないのであっさり捕まってしまう。

 マーリンはジュンを捕まえると、続けて叫んだ。


「あの魔法使いはユトンとかいうのか? アイツは帝国の犬なんだ。それで、力が弱まっている私の力ではどうにかならないだろう。だから、君が彼を殺るんだ」


 ジュンはユトンに手を伸ばしながら、必死に抜け出そうとする。

 しかし、マーリンの力は子供が抜け出すほど弱くはない。

 マーリンは、ユトンと距離を取りながら喋る。


「さっき記憶を探らせてもらったが、君の両親が殺したのは私じゃない! あれは、あそこにいるユトンという名の魔法使いが殺したんだ」

「え? ボクの親友を殺しておいて、そんなでたらめを信じられるかよ!」


 マーリンがボクの額を置いて、説明してきた。


「君が見たのは私ではなく、私の姿を見たアイツだ。その証拠に、君には魔法がかけられていたんだ。今、それを解除したから過去を振り返るんだ」


 ジュンは、マーリンの言葉の勢いに飲まれ、過去を振り返る。

 すると、ユトンが両親を殺しているのを鮮明に思い出してしまう。

 直後、ジュンは吐き気が襲ってきて戻しそうになってしまった。


 マーリンが指さす方向を見てみると、ユトンがいた場所に泥でできた大型の人がいる。

 顔立ちも何もかも変わっていて、別人であった。

 次の瞬間、ユトンの体になる。

 ユトンは、すぐにマーリンの後ろに瞬間移動して彼の首を掴んだ。


「ジュン。お前はこっち側にいる人間なんだ。だから、こっちに来い。お前の力は帝国にとって必要なんだ」


 ユトンがマーリンを窓の方に投げ、ジュンの手を掴んで逃げようとする。

 すると、固まっていた体が動くようになる。

 しかし、ジュンは首を振りながら手を振り払った。


 ジュンは、ユトンを固める想像をして“力”を使った。

 すると、目の前にいるユトンが氷像のように足元から徐々に顔以外を固めてしまう。


「君が、ボクの親を殺したの?」

「そんなことより、これを解いてくれないか? 俺たちの元に来い、そうすれば何もかもお前の自由に頼んでやるぞ」

「今は! ボクが質問しているんだ。答えろよ!」


 ユトンは舌打ちをする。

 横を向いて、白を切るみたいな態度を取った。

 ジュンは腹が立ったのか、頭だけを凍らせては解凍する作業を何回もした。

 すると、ユトンが叫ぶ。


「……止めてくれよ、俺たちは親友だろう? 俺はお前の両親から“魔法”の力を奪っただけなんだよ」

「そのためにボクの親を殺したの?」


 ジュンにとって、馬鹿げた内容だったので腹を立てる。

 ユトンはべらべらと喋ってくれた。


「ああ、そうだ。お前はまだ帝国のことを知らないから、こっち側にとって好都合だと思ったから、マーリンが殺したことにしたんだ。どうせ、アイツも殺さないといけなかったからな。あわよくば、相打ちがいいと思ったが人がいい事を知ったんでな。計画を変えたんだ」


 ジュンは、ユトンが話した事実を信じられなかった。

 次第に、マーリンの発言していたことに信憑性が出てきたので、殺意の矛先が変わる。


「確かにボクたちは親友だった。だけど、君が親の仇だ。だから、君には死んで償ってもらうよ。マーリン、いいよね?」


 ジュンは訊くと、マーリンはユトンの後ろにいて頷いた。

 マーリンが手に幾何学模様で何かをすると、ユトンが鬼気迫る勢いような顔になっていた。


「待っ……!!」

「さようなら、ユトン。君との時間は楽しかったよ」


 ジュンは氷が砕ける想像をしながら、広げていた手を拳に換えた。

 すると、ユトンの氷像は粉々になる。

 ジュンは何も考えなくなり、上を向いた。


「お父さん、お母さん、ボクやったよ」


 ジュンは氷のカケラを震える手で掴むと、涙を流しながら呟いた。


「仇を取ったよ。……なのに、どうして……どうしてこんなに虚しいのかな……?」

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