雪上の決着
お久しぶりです
めっちゃ忙しくて何も書けてませんでした
「逃げるってのか、てめえら……!!」
「予想外想定外は雨霰とあったが、打つ手は打ったもんでねこっちは。そんで『Q極号』はやればできる子だし、ここは早々に退散させてもらうよ」
段々と上空へ逃れ行くシュロウは、吼えるクロードへ飄々と応えた。やるべきことをやったのだから、後は野となれ山となれ──見事なまでの退却劇である。
空へと逃げられる以上、クロードたちにはもはや彼らを追う手立てがない。クロードの『ストライクドライバー』にしろエルゼターニアの『ルヴァルクレーク"プラズマスライサー"』にしろ、届く範囲に限りはあるのだ。
「させると思ってんのかっ、こらぁああああああっ!!」
為す術なく見逃すのを嫌ったヴァージニアが、轟と雄叫び前進した。両腕手甲の刃にて、周囲にちらほら残っている魔獣を蹴散らしながら進む。
──だが、それも当然ながら天高く立つ魔獣『特A型Q極号』の前には制止せざるを得ない。何しろ不動の要塞もかくやと言った超サイズだ、只人がすんなりと通れるわけもない。
「ぐっ!? 通せこらぁ、退けごるぁあああああっ!!」
「ええ……? 何あの姉ちゃん、めちゃ怖いんだけど」
「手際を見るに、かなりの達人みたいですが……まるでチンピラです。何なんです? 貴女」
「よく聞け悪党どもがぁぁっ!! こちとらS級冒険者は『獅子』ヴァージニアっ! あんたら『オロバ』を殴り潰しに来た戦士だっ、るぁああああああっ!!」
とてつもない、それこそ上空にまで響く音量で叫ぶヴァージニアに、シュロウもミーナも戸惑いを隠せない。
何やらS級冒険者『獅子』らしい彼女は、高らかすぎる名乗りをあげてそのまま果敢にも、『特A型Q極号』へと攻撃を仕掛けていた。刃を走らせ殴打連撃、ダメージこそないが衝撃はかなりのようで、思わぬ魔獣の呻きが周囲に響いた。
『ううううううううぅぅぅぅぅ?』
「クソッ邪魔じゃあぁあああぁっ!! 降りてこいガキどもっ、殴らせろぉおおおぉっ!!」
「何と、まあ凶暴な姉ちゃんだよ……『獅子』なんてのも連邦に来てるのは知ってたが。まさか合流してるとはなあ」
「どうするですかシュロウ、正直本当に最悪の状態です。本懐を目前に、こんなことって」
「……まっ! そこいらは一旦引き下がってから考えようぜミーナ。ムーロルーロも交えてな」
「……分かり、ました。ここに留まってるのは、大分まずいですしね」
眼下、殴りながら殴らせろと叫ぶヴァージニアに冷や汗を垂らして『ミシュナウムチルドレン』の二人は離脱を決行した。
状況は最悪だ。当初予定していた特務執行官をピンポイントで狙い打つ目論みもご破算、虎の子の上級魔獣を起用したがさて、この面子を前に一人二人でも削れるのか否か。悲観的な考えばかりがシュロウとミーナにはある。
かくなれば河岸を移し、更なる強行策に出るのもやむを得ないだろう。ムーロルーロとも打ち合わせをせねば。
ここにいる意味はもうないと、ますます高度をあげる蜥蜴。追い縋るようにクロードは攻勢魔剣を掲げた。瞬間的に迸る星の無限エネルギー。届かずともせめて、一撃くらいは与えんとして彼は大きく振りかぶった。
「待ちやがれ! 『ストライク──」
「クロードくん! まずは目の前の魔獣を!」
「気持ちは分かるけど、こいつ野放しはまずいよクロード!」
「……ちぃっ!!」
起死回生など望むべくもない。届くことすらないだろう。
それでも腹立ち紛れの『ストライクドライバー』を放とうとしていたクロードだったが、エルゼターニアとハーモニに制止されて寸でのところで踏みとどまった。忌々しげに眼前、ヴァージニアが殴りかかっている魔獣を見据える。
「まずはこの、デカブツを殺らねえとってか」
「んの野郎ぉおおっ! いい加減血の一つくらい流せ、ってのぉおおおおあああぁっ!!」
『ううううううううぅぅぅぅぅ? ううううううううぅぅぅぅぅ!』
視線の先、ひたすらに拳を振るう『獅子』の姿に、まったく動じずの『特A型Q極号』。おぞましい姿のまま、どうしたことか反撃もせず聳え立つままだ。
図体と見かけの割に、行動をしない。訝しむクロードに、エルゼターニアとハーモニが合流して横並んだ。
「周囲の魔獣は蹴散らしました! クロードくん……あれ、どう見ますか?」
「どう、ってもな。吐き気のする面構えの割には存外、鈍いとは思うが」
「うーん、何だろう? 防御力はすごいけど、攻撃はそんなでもないとか」
「ただの壁役なら、あの二人が急いで退却した理由には繋がらないっすね。連携して攻撃してくるならともかく──っと?」
ひとまず落ち着いて敵を観察する。丁度ヴァージニアが暴走じみた連撃を繰り出しているので、敵の魔獣がどのような性質を持つのか推し量るには好機と言えた。
よくよく見ればかの魔獣の、三つ首それぞれの顔がヴァージニアに狙いを定めているのが確認できる。単に攻撃されているわけではないのだ……あるいは前進にのめり込ませて、後戻りの利かないところで一撃をいれるつもりなのかも知れない。
感心ともつかぬ声音でクロードが言った。
「罠か。存外頭が回るのか、耐久力に任せてのゴリ押しなのか」
「どのみちまずいっすね、あれでは」
「フォロー入るよ──『ヴァンピーア・クイックフォース』!」
エルゼターニアの呟きにハーモニが動いた。自らを霧へと変じ──亜人種ヴァンパイアが備える特性、『霧化』をより戦闘色に特化させた技だ──ヴァージニアへと直行する。
今のままでは手痛い反撃を受けるだろう彼女に纏わり、動きを止める。普通の『霧化』とは異なり霧の状態でも対象に干渉できる、それが『ヴァンピーア・クイックフォース』だった。
『はいストップ! 一旦引き下がろうねー』
「う、おおおおっ?! え、何、誰!?」
『ハーモニだよー。熱くなりすぎ、返り討ち寸前だったよ? 上見て、上』
「な、あ?」
いきなり全身を封じられ、ヴァージニアは混乱に硬直した。耳元で聞こえる声がハーモニのものだと、理解が追い付かない。
返り討ち? 何が? 誰が? 意味も分からないまま促されて頭上を見上げる。おぞましい肉壁の果て、天を衝く魔獣の頂点にて。
三つ首の蛇の、それぞれの口から波動が照射されようとしていた。
「……っ! やばぁ!?」
「『プラズマスライサー』! せめて軌道を逸らせっ!」
率直に死を予感したヴァージニアを救うべく、エルゼターニアの刃が飛ぶ。魔獣の三つの顔めがけての光輪が、ダメージはなくとも意識を逸らすことには成功していた。
「今です、離脱して!」
『エル、ナイス!』
「うわわわ、わわわ!」
短く叫ぶ少女に応え、ヴァージニアは横飛びに大きく跳ねた。一跳びで、人間の限界を越えた距離を渡る。霧となったハーモニの補助あっての曲芸だ。
どうにか魔獣の懐から離れる。次の瞬間、僅かに遅らせていた敵の波動が、容赦なく地に叩き付けられた。
『ううう──ぅうううううっううっ!!』
炎、雷、風。三種類の異なる厄災がそれぞれの口から放たれ、大地を揺るがす。先程にあったものと同種の振動だ。
同時に一面が火の海に満ち、雷光が走り、まとめて暴風にて拡大される地獄絵図が展開される。雪原が瞬く間に異界へと変わるのを目の当たりにし、危うく巻き込まれかけていたハーモニとヴァージニアが息を呑んでいた。
『ちょっ、無茶苦茶!?』
「うわわわっ、死ぬ、死んじゃう!?」
「くっ……! この規模と威力、まずい!」
『ううううううううぅぅぅぅぅ!!』
ルヴァルクレークを振り回して災害をいなしたエルゼターニアの、焦燥の声。今はやり過ごせてもこのままでは遠からず殺られる、そんな焦りがたしかにあった。
広範囲に強力な攻撃を放つ、極めて防御力の高い怪物。シンプルであるがゆえに正攻法以外での打倒が難しいようにも思え、どうしたものかと考えが纏まりきらない。
かくなる上は多少、無理をしてでも特大の一撃を放つか? あまり選びたくはない方法を思案し始めた折、魔獣の脅威がヴァージニアに届こうとしているのが見えた。
「うああああああっ!?」
「ヴァージニアさん! くっ、『エレクトロキャプチャー』!」
『あぶなぁっ!? た、助かったよエルー!」
咄嗟にルヴァルクレークの柄尻から電磁ネットを射出して、ヴァージニアとハーモニを覆うように展開させる。超強力な捕縛網を逆手に取った防御術だ、魔獣の攻撃さえも今一時は防ぎきれた。
霧から戻ったハーモニとヴァージニアが無事なことにひとまずは安心し、エルゼターニアはふと、クロードの姿が見えないことに気付いた。先程まで近くで何か、見定めていたようだったのだが。
言動から察するに逃げたとも考えられず、少女は周囲に視線を回した。辺り一面の災害、電磁ネットに護られたヴァージニアとハーモニ以外の人影はなし。
ならば。直感的に彼の行動を察知して見上げる。
──果たして彼は、当たり前のように攻勢魔剣を振りかざしていた。
「がら空きだ、化物」
『う?』
「く、クロード!?」
『いつの間に、あんな所に!』
その場にいたすべての生物の、隙を突いての接近。改造された肉体のポテンシャルと卓越した技術、そして類稀なる戦闘への才覚が成し遂げた奇跡的な進撃だった。
炎と雷が風により撒き散らされた戦場の、糸よりか細い敵への道筋を読み取ったのだ。そして速やかに密やかに駆け抜けた。敵を殺すために、殺し尽くすために。
堕ちてもなお色褪せぬもの、鮮やかなりし天賦の才剣。今ここに、渾身の力を以て振り下ろされる──!
「死ね。死人に殺されろ!」
「! 『転移魔眼"ウィー・アー"』!」
「──『ストライクドライバー』ッ!!」
迸る極光。眩く解き放たれた攻勢魔剣の実力が、三つ首の内、中央に直撃した。
凄まじい密度のエネルギーによって無理矢理、極限さえ超えて研ぎ澄まされた刃。叩き付けるように当てられた剣撃は堅牢なる魔獣の皮膚、要塞の壁のように分厚いそれをいとも容易く貫通した。
首と胴とを断ち分かつ。大木の幹よりなお太い首の一つが、見事に宙を舞い消し飛んでいく。
『うううぅうううぅううぅぅぅ!?』
「首一つじゃ足りねえか! だがな」
「外身は固くとも、中身は違うなら!!」
「っ……転移か! 特務執行官!」
返す刃で連撃を。首を一つ断ち斬ったことで生まれた、攻め口かもしれない箇所、断面の生肉。
続け様に攻勢魔剣を振るおうとしたクロードの、まさに目の前に突如として現れた──エルゼターニア。『転移魔眼』にて直接、乗り込んできたのだ。
その手に握るは電磁兵装。既に技のセットアップは済んでいるらしく、尋常でないプラズマが大鎌の刀身を彩る。
即座に意図を読んだクロードが踏み止まって。勢いのままに特務執行官は、渾身の一撃を振り下ろした。
「今ここで、こいつは止める! 『ルヴァルクレーク"エクスキューショナー"』!!」
ルヴァルクレークの出力を50%引き出しての大斬撃。フルパワーを引き出すと使用者すら死に追いやる諸刃の剣ゆえ、事実上この『エクスキューショナー』こそがエルゼターニアの最強技となる。
過去、数多の難敵を打ち倒してきた歴戦の戦士の一撃は、まさしく切断された首の断面にヒットした。そこから流し込まれる星の無限エネルギーが、魔獣へと致死のダメージを与える。
『ううううウウウウウウウウウウッ!?』
痛覚はあるのか、身悶えして苦しげな呻きをあげる怪物。まさしく会心の手応えだ。
すぐさまエルゼターニアは、クロードへと投げ掛ける。
「通った! 中身から崩壊すれば、後は!」
「煮るなり焼くなりか。死人に、殺されろ──!」
悶え苦しむ魔獣へと、今度こそクロードの追撃が疾走する。向かって左の首めがけて攻勢魔剣を放つ。
体内に流し込まれた星の無限エネルギーにて激しく損傷した全身は、以前の頑強さなど見る影もない。当然のごとく、二つ目の首も天高く飛んだ。
そして、残るは一つ。
クロードは静かに、この戦いの決着をエルゼターニアへと委ねた。
「お見事っす! クロードくん!!」
「ふん……後は任せる。やれよ、特務執行官」
「はい! ──我が名はエルゼターニア。『特務執行官』の使命と責務の元に!」
託されたものを背負い、少女は最後の首へと駆けた。ルヴァルクレーク、最初にして最も使い馴染んだ技が放たれる。
共和国を護り抜いた英雄の、救国の一撃。それは祖国から遠く離れた連邦の地でもなお、褪せることなき正義の輝きと共に在る。
『特務執行官』の断罪の鎌が今、放たれた!
「特務執行──『ルヴァルクレーク"リパブリックセイバー"』!!」
『ウウウウウウ、ウウウアアアアアァッー!』
狙い、寸分違わず首を撃ち。あっけなく魔獣のすべては斬り飛ばされて。
わずかな静寂の後……ゆっくりとゆっくりと、魔獣『特A型Q極号』の巨大な体が、燃え盛る炎へと倒れていくのであった。
ちょっとずつ復活していきたいです
よろしくです




