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連邦魔獣戦役クロード-よみがえる刃-  作者: てんたくろー
第一章・錆び付いた刃
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共闘関係

「昨日は可愛らしい女の子を連れてきて、今日は美しい姉妹? クロード、貴方ずいぶん女誑しなのね。私のことも狙ってるのかしら」

「首ならいくらでも狙ってやっても良いぜ、ババア」

 

 すげなく切って捨てるクロードに、ドクター・マッスルは肩を竦めた。そのまま彼と、一緒に付いてきたリムルヘヴン、リムルヘルを室内に招く。

 魔獣との戦闘が終わり、三人はすぐさま彼女の家を訪ねていた。状況の報告と今後の相談、及び『攻勢魔剣』について問い質したいことがあるためだ。

 

 相も変わらず散らかりきった乱雑な部屋の、ソファにどうにか並んで座る。初見のリムルヘヴンがあまりの汚さに眉をしかめるレベルではあったが、とはいえどうでも良い話、今は優先して聞くべきことがあった。

 

「貴様がドクター・マッスルか。半年前にこの負け犬を助け、『攻勢魔剣』なる魔剣を与えた女」

「ええ。しがない科学者です、よろしく……かくいう貴女はどちら様かしら? 見たところ、その剣は恐らく魔剣よね。魔剣騒動の関係者と見るけれど」

「……リムルヘヴンだ。半年前、『焔魔豪剣』と共に虫けらを負け犬にしてやった」

「! そう、貴女が……」

 

 身の上を明かすリムルヘヴンに、ドクター・マッスルはそれなりに驚いたようだった。目を見開いてクロードと彼女を見比べて、何やら納得したように頷いている。

 次いでリムルヘルが、誰にも何も言われていないが名乗りを上げた。

 

「ヘルちゃんはー、リムルヘルだよー? 三号さんお初ー、よろよろー!」

「……三号? ええと、クロードのお妾さん的な話かしら。貴女たちの次に?」

「怖気の走る誤解をするな。ヘルも、今は大事な話をするのだから変な混ぜ返しをするなよ」

「ういうーい。お口閉じまーすぴったりペタペタ、むふーん」

「妙な子ねえ……」

 

 突拍子のないリムルヘルの言動に、常から冷静なドクター・マッスルも困惑気味だ。リムルヘヴンはさしあたり会話の主導権を握られることはこれで避けられたかと内心、リムルヘルを褒めながら単刀直入に問うた。

 

「どうでも良いことはさておき、聞かせてもらおうか。貴様『オロバ』にいたな?」

「……」

「何故負け犬に『攻勢魔剣』など渡した。目的は何だ。奴らや『オペレーション・魔獣』について知っていることを話せ……貴様の正体と共にな」

「それを尋ねるということは、貴女も『オロバ』を追っているのね?」

「そうだ。そして先刻、魔獣らしき怪生物に出くわし、『攻勢魔剣』が力を発揮するのを見た。ゆえに問うのだ、言え。虚偽も韜晦も断じて認めん」

 

 有無を言わさぬ少女の詰問に、ドクター・マッスルは少しばかり考え込むように瞳を閉じた。数秒してから、開く。

 覚悟を決めた眼差しで彼女は、静かに語り始めた。

 

「いかにも、私はかつて『オロバ』にいたわ。『攻勢魔剣』は彼らの技術によって製作された兵器よ」

「やはりか……」

「そして今の私の目的は、『オペレーション・魔獣』の壊滅。首謀者ミシュナウムを……打ち倒すこと。そのためにクロードという、私が知る限り最強の戦士に『攻勢魔剣』を託しました」

 

 辛そうに、血を吐くように目的を語る。何やらミシュナウムとの間に因縁があるような素振りで、リムルヘヴンにはそこが気になった。

 だが更に問わんとした少女を遮るように、ドクター・マッスルの言葉が続く。

 

「『オペレーション・魔獣』とは魔獣、すなわち様々な生物を組み合わせた新種生命体を創造する計画。そして最終的な目標は魔獣創造の果てに完全なる生命体、『天命魔獣』を造り上げること。そのために彼らは、おぞましい実験を繰り返してきた」

「『天命魔獣』だと? 何だそれは、具体的にどういうのだ」

「子細は何とも。ミシュナウムに問い質すしかないわね……すべては彼女の頭の中に収まっているのだもの」

「ちっ……それでは迷宮入りではないか。奴なら死んだぞ、魔剣騒動の折にな」

「!」

 

 絶句。ミシュナウムの死を知らされて、ドクター・マッスルはこれまでになく驚愕し動揺を見せていた。普段の冷静さを知っているクロードも片眉を少し上げ、物珍しそうに眺める。

 反応しがたくも数秒、硬直してから。彼女は神妙に、悼むように呟いた。

 

「そう。そう……なのね。彼女が、そう……」

「まあしかし、となれば後は魔獣を叩けば良いと言うだけの話ではあるか。魔剣騒動の折に『オペレーション・魔獣』も頓挫していたとは、奴らも中々に間抜けな話だ」

「そう、ね……ただ、あるいはもし、あの子が既に……」

「……何だ。何か懸念でもあるのか」

 

 何か勘づいているような素振りを見せる女史に、リムルヘヴンはすかさず問い掛ける。そうでなくともこの女はどこか、重大なことを隠している予感がある……あるいは『オロバ』においても大変な地位にいたのではないか、そう思わせる程に。

 そうした直感からの質問に対してドクター・マッスルは、けれど首を横に振った。

 

「ごめんなさい。推論や推測、いえそれ以前の段階……ほとんど妄想めいたつまらない想像なの。混乱させてしまったわね」

「妄想でも想像でも何でも良い、言え。貴様の都合の良いことだけ話そうとするな。元『オロバ』というだけでも、貴様に斬りかかるだけの理由としては十分なんだぞ」

 

 脅しつける言葉。実際に水の魔剣に手を添わせている辺り、断じて口先だけではないことが窺える。この際本気でリムルヘヴンは、ドクター・マッスルを敵と認識することに躊躇がなかった。

 それでもなお女史は首を横に振る。ひどく申しわけなさげに、けれど凛とした表情で相対して言う。

 

「本当に申しわけないけれど、私はこれでも科学者なの。推論ですらないものをいたずらに口にして、私の信じる学問に背を向けたくはない」

「……つまり?」

「『オペレーション・魔獣』を阻止する中で私の予想が当たりか外れか、必ず分かるわ。だからどうか、それまで待ってください。私を倒すべき敵と認識するには、そこからでも遅くはないはずです」

 

 白衣の研究者はそして、頭を深々と下げた。決して己の道を違えまいとする、信念の嘆願である。

 実際ドクター・マッスル自身、ミシュナウムの『オペレーション・魔獣』について理解していることは少ない。けれどもかの老婆が何を目的としてきたかは多少、理解しているつもりではある。ゆえに、組織の陰謀を追う中できっと確証が得られるだろうと考えていた。

 

 だからこそ、今一時の猶予を乞う。リムルヘヴンの危惧が当然のものであり、自分の主張が中々に無茶なものであることを理解しながら、それでも時間を欲したのだ。

 そして……リムルヘヴンはため息混じりに答えた。

 

「……ある程度で良い、推論が成立した段階で話せ。それまでは待ってやる」

「ありがとう、リムルヘヴン」

「ふん、貴様は多少痛い目を見せたところで易々と吐きはすまいと、判断しただけのことだ」

 

 そう言って、興味をなくしたかのようにヴァンパイアの少女は目を閉じた。未だ不明な点は多いがひとまず、『オペレーション・魔獣』の概要と目的は知ることができた。おそらくは魔獣であろう生物とも接触したのだから、間違いなく『オロバ』は連邦の、それもそこまで遠くないところにいるのだろう。

 であれば話は早い。しらみ潰しにでも探して回り、魔獣を倒していくまでだ。ミシュナウム亡き今、統制を失っているのだろう化け物どもを仕留めるなど今のリムルヘヴンならば造作もないことだ。

 

 判断して目標を設定した彼女を尻目に、今度はクロードがドクター・マッスルに問うた。机の上に『ストライクドライバー』にて両断した怪生物を放り投げる。

 

「ババア。魔獣ってのはこういうののことで良いんだな?」

「……これは、そうね。まさしく魔獣だわ。どこでこれを?」

「町から村までの道中、隊商が襲われ失踪したってんで今朝方探ったらいやがった。そうか、やっぱり魔獣か……」

 

 死んだ瞳で魔獣の死骸を見下ろす。血の流れきった後には、蛇らしい肉に虫らしい体液の跡がべったりと付着してひどく汚ならしい。

 異臭さえ放つそれこそが魔獣なのだ。ふむと考え、彼は呟いた。

 

「堅さは中々だった。スピードもまあ、及第だ……後は威力だな。おい、コレよりヤバイのは当然、出てくるんだろうな」

「どうして私に聞くのかしらね……分かるわけないでしょう? むしろこの程度のもので頭打ちでいてくれた方が、助かるくらいなのに」

「それじゃ俺が殺される目が出ないだろうが。亜人で足りねえならもう、魔獣とやらにでも期待するしかねえんだよ俺なんか」

「貴方ね……!」

「どれだけ死にたいのだ貴様……」

 

 あんまりな発言をするクロードに、もはや呆れを通り越して怒りすら湧くドクター・マッスルとひたすら引き気味のリムルヘヴン。ベクトルは違えど二人揃って、彼の自殺願望に苦言を呈している。

 そんなに死にたければ勝手にすれば良い、と言ってしまうのは簡単だ。だが今クロードに何らかの形で離脱されてしまうと、ようやく始まらんとしている『オペレーション・魔獣』との戦いにおいて重大な損失となりかねない。それはドクター・マッスルは元より『ストライクドライバー』を目撃したリムルヘヴンでさえも認めざるを得ないところであり、だからこそ彼女らも極端なことは言わずにいた。

 

「これより厄介な魔獣がいるかは、貴方がその目でたしかめてみなさい。そして手に負えないような化物に出会って、その時に死ぬかどうか決めたら良いわ」

「言っておくがな負け犬。死ぬつもりで戦ったところで、また無様に生き延びるだけだぞ。望む方に上手くいくことなど往々ないことだ、この世は」

「俺はとっくの昔に死んでる。殺されてねえだけの死人だ……だから殺されて辻褄合わせてえんだよ。上手くいくも何も関係ねえんだ、放っとけ」

「……ここまで舐めたことをほざいても実力は本物か。あの勇者めといい、腹立たしい奴らだまったくっ」

 

 憎々しく吐き捨てる。これまでリムルヘヴンにとって最も嫌いな男は紛れもなく『勇者』セーマだった──親代わりの尊敬する存在が、彼にすっかり惚れきってしまったがゆえだ──のだが、今やクロードはそれに匹敵する程に忌々しい存在になりつつある。ここまで高い実力を誇りながらこうまで落ちぶれやさぐれているその姿が、どうにも苛ついて仕方がないのだ。

 

 強者には強者として、強者らしい振る舞いをする義務がある。そう信じる彼女には、隠居して滅多に力を振るわないセーマも、落ちぶれて死ぬことだけを望んでいるクロードも、まったく理解し難い。

 腹の内からこみ上げる罵詈雑言をどうにか堪えて、彼女は立ち上がった。もう良いと言わんばかりにリムルヘルを伴い、クロードに告げる。

 

「来い、負け犬! 貴様の死にたがりなど心底どうでも良いがその腕前だけは利用してやる。『オペレーション・魔獣』、魔獣が現れた付近に痕跡があるはずだ、探すぞ!」

「利害の一致か……良いだろう。俺が殺されるまでの間、魔獣探しはてめえらとしてやる。勝手に利用するなり何なりとしろ、邪魔さえしなけりゃ気にしないでやる」

 

 男も立ち上がり、短くも鋭く視線を交わす。決して友好的ではない、むしろ敵対的ですらある彼と彼女──けれどたしかにこの時ばかりは、共同戦線が実現していた。

 かつて王国にて相対した三人の魔剣士の内の二人、クロードとリムルヘヴン。何の因果か遠く離れた連邦で今、一応の共闘関係と相成ったのである。

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