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第十三条(救出)

 早朝に昇り始めた太陽の光はまだ弱く、木々に隠れた小屋には木漏れ日が差し込んでくる。

 バルトは身支度をしてから最後にパトリシアを部屋から出した。

 周囲に家や人の気配は無いが、誰も喋ることはしない。

 パトリシアは拘束されたが猿轡はされなかった。

 既に人里離れたことと、抵抗を見せる様子のないパトリシアを見て必要ないと判断したのだろう。

 パトリシアの乗っていた馬に歩いていた部下が相乗る。パトリシアの腕は拘束されたままのため手綱を引くことは出来ないため、男が代わりに操る。揺れる度にバランスを崩さないため、手綱と共に男はパトリシアを拘束している縄も同時に持っていた。


 言葉を交わさず部下達はそれぞれの配置通りに馬を歩かせた。

 前方に男が二人、中央にパトリシアとバルト、そして後ろに一人の五名体制で動いているらしかった。

 舗装されているとは言いづらい山道を歩む足取りは静かだった。

 

 歩いている間に前後の距離が離れ出す。あまりに近づきすぎては馬同士が牽制し合うようになってきたからだ。

 パトリシアの連れてきた馬は盗賊団の馬とは別のグループであったためか、周囲の馬がパトリシアの馬にちょっかいをかけてきたのだ。

 嫌がるように暴れるパトリシアの馬を見かね、前後と広めに距離を取る。


 馬一頭分ほど離れた頃、前方を歩いていた部下がバルトを呼んだ。

 パトリシアの隣に居たバルトの馬が駆け出す。


「どうした」


 遠くで何かを発見したらしく、移動が止まる。

 パトリシアを乗せた男も黙ってその場に止まり、一休みとばかりに水を飲み出す。

 そういえば喉が渇いたと気づいたのはその時だった。

 男はパトリシアを気にせず水を飲み終えると、交代とばかりに後ろの男にも渡そうとして、気づいた。


 背後に居た筈の仲間が居らず、馬だけが歩いていることに。


「なんだ?」


 訝しげに言い、パトリシアと相乗りしていた男が馬の方へ向かう。

 近くを見回しても仲間の姿はなく、何もおかしい様子のない馬の表情も特に変わりはない。

 男は警戒心を抱き口を開けて頭の名を呼ぼうとした時、気配なく現れた何者かによって口を塞がれた。

 何者かの姿がパトリシアには見えず、ただ馬の鞍片側に足をかけ、賊の男の口を塞いだままその大きな身体を馬から落としたらしい。

 パトリシアの縄を持っていた男が倒れることでパトリシアの姿勢も崩れた。

 落馬するー……そう思い目を閉じたけれど、衝撃は訪れなかった。

 何かがパトリシアを余裕で受け止めていた。

 

「……え?」


 懐かしい香りがした。

 煙草の匂い、それは嫌ではなくむしろ、愛しいとさえ思う懐かしい匂い。


 ヒースがパトリシアを見つめていた。


「ヒー……」


 パトリシアはそっと口元をヒースに隠された。

 そうして姿勢を戻すと、少し興奮した愛馬を手で宥めてから、パトリシアを拘束していた縄を短剣で外した。

 よく見れば地に賊の男が倒れている。

 パトリシアは後ろを見られず分からなかったが、先ほどまで意識もあったはずの男が何の声も出さずに地に伏していることが不思議でならなかった。

 ただ分かることは、その全てを目の前にいるヒースが行ったということ。


(現実……?)


 実感が湧かなかった。

 たったさっきまで決別することに悲しみ絶望していたパトリシアの心が、まだ現実を受け入れ切れていなかった。

 それに、再会の感動に酔いしれる時間すら無かったからだ。


 前方から怒声が上がった。

 バルトと共に部下の男が二人、共にパトリシアとヒースに向かい駆けてくる。


「パトリシア、馬を連れて離れてろ」

「ヒース」

「少し距離を保つだけでいい。離れすぎると追われる。人質にならないよう気をつけろ。分かるか?」


 いつもと違い冷静なヒースの声にパトリシアは黙って頷いた。

 パトリシアと乗っていた馬から降りるとヒースは軽く馬の腹を叩く。馬は命令されたように黙って後ろへと駆けていく。

 ヒースが剣を抜いた。

 見たことのない刀身だった。長く輝いたそれはパトリシアでも目にしたことのない剣だった。


「…………おい、嘘だろ?」


 その声が聞こえたのは、襲い掛かりにきたバルトの口からだった。

 あれほどパトリシアに対して優勢な態度をとっていたバルトは見違えるほど青褪めていた。

 信じられないものを見ているような目をしてヒースを見つめていた。


「……久し振りじゃないか、バルト。また会うなんて……ついてないなぁ」

「てめぇ……何でこんなところにいやがる……!」

「それはお互い様だよ。よくまあ、リーグス収監所から抜け出せたもんだ」


 彼らの会話から二人が顔見知りであることが分かったものの、パトリシアには未だに理解が追いつかなかった。

 怯えるような様子を見せるバルトから、ヒースに対し恐怖を抱いていることがわかった。

 あの盗賊団の頭であるバルトが怯えるのは、どう考えても普通のことではない。

 バルトを脅かすような存在など、あるとすればそれは……


 パトリシアは思い出した。

 ヴィアンズ盗賊団を捕縛し、その組織を壊滅させた傭兵団の名を。

 その、英雄の名を。


「エストゥーリ……?」


 小さな声だったはずなのに、パトリシアの唇から溢れるその名が聞こえたヒースが振り返り。

 小さな笑みを浮かべた。


 それが全ての答えだった。


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