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第二章(私語厳禁)

いつもより少し短めです

 アルトとパトリシアが心底不快な顔をしたところで、どうやら失言だったかとモンドは思った。

 

「何だ、違ったか? 変に気を回しすぎたかな」

「団長も勘が鈍ったんじゃないですか? 引退もそろそろかな」


 嫌味吐くアルトの上司に対する態度にパトリシアは改めて驚いた。彼等を見ていると職場の上司と部下以上の繋がりが見えたからだ。


「引退したいのにお前がさっさと世帯を持たないからできんだろうが。その点パトリシアさんなら適任と思ったんだがな」

「何でそうなる」

「そりゃあ、お前が喋れる数少ない女性だからだよ」


 数少ない女性。

 その言葉の意味が知りたくてパトリシアはアルトを見た。秀麗な顔立ちに金色の髪が透き通るようで、傭兵ではなく役者にでもなれそうな美貌の持ち主は気不味そうにパトリシアから視線を外した。


「……こいつを案内すればいいんでしょ? おい、行くぞ!」


 会話を終わらせるためなのか、アルトがさっさと入ってきた扉から出て行ってしまった。

 パトリシアは慌てて彼の後を追う。扉から出る前にモンドに軽く頭を下げれば、モンドはにこやかに手を振ってそれに応えた。

 姿を見せなくなった二人の足音も無くなったところで。


「似合いだとは思うんだがなぁ……」


 と、小さくボヤいた。






「ここが食堂。奥に休憩所。あと、そっから外に出られる扉がある」


 丁寧な説明とはかけ離れたアルトの説明にパトリシアは黙ってついて行った。広い建物の中を案内されるものの一日ではとても覚えきれない。

 

「建物は仕事によって階層が変わってくる。一階が事務官専用、その上の階がヴドゥー内の犯罪や窃盗といった刑罰に準ずる仕事を預かっているところ。その上は喧嘩の仲裁やら頼まれごととか人に関する相談事が多いな。最上階が主に外部との仕事だ。この階の仕事が最も人数が多い。ヴドゥー以外にも各地に拠点があるが、どこも階層は同じ形にしている」

「はい」


 ドレイク傭兵団の名を持つ傭兵団は何もヴドゥーだけに拠点を置いていない。東西南北、各地に大小様々に拠点が存在するという。

 中でも最も大きく本部と呼ばれる拠点地がヴドゥーの傭兵団である。


「わたくしの勤め場所は一階ということでしょうか」

「そうだな。一階には傭兵団の仕事を受けるための受付と相談スペースが用意されている。事務官が話を聞き、必要な傭兵団の担当を振り分ける。そこから傭兵団の実力によって仕事を細分化するってところだ」


 ネピアでいくつかの仕事場を見てきたパトリシアだったが、ここまでシステムがうまく構築出来ている組織は見た事がなかった。前世のパトリシアがよく知る会社の構造によく似ている。

 階ごとの中を見てみれば、事務官や仕事をしている傭兵の姿がチラホラ見える。ただ、傭兵の姿はそこまで多くない。彼等は外で仕事をする機会の方が多く、それ以外の事務処理などは全て事務官が行っているようだった。

 事務官の姿も多い。特に女性が目立つ。


「とても女性が多いのですね」


 素直に思ったことを口にしたのだが、アルトからの反応は無かった。


「アルトさん?」

「…………そうだな」


 横目で見たアルトの表情は曇っていた。そして。


「多すぎてうんざりする」


 とだけ吐いた。




 ひと通りの場所を案内された最後、パトリシアは自身が勤める場所となる一階の事務官の執務室へと案内された。


「失礼する」


 アルトが入り口で声を放つと、中にいた多くの女性が動きを止め、一斉にアルトを見た。

 それから隣に立つパトリシアの姿を。

 女性達は皆華やかな雰囲気があった。若く、パトリシアと歳も近い。平民出身の者ばかりだと思うのだが、着飾って仕事をする女性もいる。中には珍しくも化粧をした者まで。


(窓口仕事だからかしら?)


 受付をする者は愛想良く、清潔感を見せなければいけない。そんな前世の知識を思い出す。だとすれば納得できる。


「今日から一時的とはいえ入団するパトリシアだ」

「パトリシアと申します。よろしくお願いいたします」


 紹介され深々と頭を下げた。

 特に反応は無い。拍手も響めきも非難も何も。


(こんなものかしら)


 顔を上げ、改めて周囲を見回した時に。

 

(…………?)


 何故だろう。

 パトリシアは理由も分からないが、何故か睨まれていた。それも、この執務室にいる女性達から。


(えっ何で?)


 理由が全く分からなかった。

 が、直ぐに分かることになる。


「初めまして〜パトリシアさん! 私、カトラって言います」


 赤髪の女性が近づきニコニコしながら挨拶してきてくれた。安堵してカトラという女性に顔を向けた。


「カトラさん。よろしくお願いしま……」

「それでアルトさん! この方とお知り合いなんですかぁ?」


 挨拶もそこそこにカトラはアルトに視線を上げて話しかけていた。その視界にはもはやパトリシアは存在していない。


(ろ……露骨……!)


 パトリシアは衝撃を受けた。受けたまま、カトラとアルトのやりとりを見た。


「顔見知りだ」

「そうなんですか? なんか、仲良しに見えたから気になっちゃって……」

「そうですよね!」


 カトラに続いて茶色の髪の女性が近寄ってきた。続くように何名かぞろぞろと近づいてくる。その先はパトリシアではなくアルトに。


「アルトさんが直接案内するなんて珍しいです!」

「そうそう! アルトさんとお隣にいられるなんていいなあ〜」

「アルトさん! 私、アルトさんのためにお菓子を焼いてきたんですけど食べていきませんか?」


 次第にエスカレートしていくアルトへのアプローチを、段々と後退りして見ていたパトリシア。

 その光景に何処か既視感を感じていた。


(何だったかしら……そう! 前世で読んでいた本によくあった展開だわ……!)


 前世のパトリシアが好んでいた娯楽に読書があった。時々絵が描かれていた漫画というものを読んでいた。その時の描画によく似ている。

 顔立ち良い男性の周囲に取り巻く女性達。困惑する男性。

 そして。


(これは……まずいわね)


 取り巻きの女性達に目の敵にされる女性の主人公。すなわち今のパトリシア。


 パトリシアは初日早々、職場の女性を敵に回してしまったらしい。

 パトリシアは溜め息を吐きつつ、今後の身の振り方を考える。勿論、本に描かれた女主人公のように男性と恋愛をすることではなく。

 仕事場でのうまい人間関係の構築を。


いつも読んで頂きありがとうございます!誤字指摘もありがとうございます!(多すぎてすみません…)


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