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第十一条(新規事業)

1日遅れの更新です!見直し時間が足りないため後ほど一部修正するかもしれません…申し訳ないです。


 その日、ネピアは朝から賑わいを見せていた。

 漸く待ちに待っていた新領主の就任式を民の前で行うとなり、町は活気に溢れていた。

 前領主の存在感は薄く滅多にネピアに滞在する機会もなく、更には町で迷惑扱いしていたルドルフの親類とあって評判は低く、今回の横領に至り評価は最低にまで堕ちていたところでの新領主に対する期待は高い。

 新領主となるレオ・ガーテベルテ子爵と言えば、『ガーテベルテの血の結束』という名で知られているほどに、一族全体の血の繋がりを重視する伝統強い一族でもあった。親類は細部にまで至り、長子による世襲制を独自の規律として定めるほどの家門である。

 その三男であるレオ・ガーテベルテがネピアに就任するということは、即ちガーテベルテの血の結束の一つに加わるということに民の間では一喜一憂の表情が多い。

 だからこそ、ネピアの民は新領主がどのような言葉を放つのか、今から待ち侘びていたのだ。




 そんな賑やかな最中、である。

 寂れた場所の静かな荒屋。レイド傭兵団の拠点地に三人の人影があった。

 座れば軋み音が煩い椅子に掛けるのは商人バックスと、向かいにはヒースとパトリシアが座っていた。

 三人は遠くから微かに聞こえる賑やかな声を気にもせず話を切り出した。


「では、本日が最後の相談日です……バックスさん」

「はい!」


 パトリシアの静かな声色に緊張した面持ちでバックスは返事をした。


「貴方の将来設計内容を拝見し、的確な相談相手に確認した結果、貴方が独立出来る年は凡そこれから七年後でした」

「七年……」

「はい。今の仕事を継続する上で資金を貯め、更に商会組合に加盟するための加入費や運営費用、人脈を考えるに七年は必要です」

「それでは……」


 オールドレに告白するには厳しいと、今のバックスには分かった。

 パトリシアと相談をする内にバックスは現実をより具体的に視野にすることを覚えた。また、想う相手の将来を考えることも覚え始めていた。勢いだけで告白をしていた頃、ただひたすらに想いを文に認めていた頃とは随分と考え方も変わっていた。

 それもひとえに好きな相手と結ばれたいがためだと思うと、パトリシアは応援せずにいられなかった。


「七年の間にオールドレさんは両親や雇い主から嫁ぎ先を紹介されるでしょう。年齢からして婚姻の話が出ることは免れません。そこで貴方の名を出したところで、まだ名も知れぬ収入が不安定であるバックスさんではご両親の許可も下りないと見えます」

「そんな……」

「勿論、オールドレさんがそれでも貴方と添い遂げたいという想いがあれば、結ばれることも出来るでしょう」

「でもそれじゃあきっとダメです……僕は彼女を少しも不幸になんてしたくない……」


 俯いて悩むバックスの姿を、パトリシアはこうして相談に乗っている間に何度も見た。

 今話している内容は、バックス自身が求める将来設計図だった。時々パトリシアは別の方法もあると提案もした。例えばオールドレと結婚し、共に資金を貯めるようにすれば独立も早く出来ると言えば、バックスは首を横に振った。彼女の得た金は彼女が使うべきであると却下した。更に別の案としては、今いる商会でネピアを専属の商人として貰えないか相談をしてみるケースだったが、これはバックスから非現実的な考えだと言われた。彼が加盟している商会は各地を転々と移動して収益を得る働きをしているため、何処かに拠点を据えるという考えはそもそも無いという。

 だからこそ、バックスは自身でネピアを中心にした商会を築きたいという目標を立てた。

 既存の商会が多いネピアの中で、自分が独立してネピアの商人になれる方法を。

 その結果が、七年という数字だったのだ。


「……バックスさん。これから申し上げることは、わたくしとバックスさんと結んだ依頼とはまた別の話となりますが、お聞き頂けますか?」


 少しばかり様子の変わった言い方にバックスは顔を上げた。見ればヒースとパトリシアが揃ってバックスを見つめていた。

 少しばかり疑問を抱きながらもバックスは首を縦に振った。

 その瞬間、パトリシアがふわりと微笑んだ。


「今からわたくしはレイド傭兵団事務官として、バックスさんに仕事の相談を持ちかけます」

「仕事?」

「はい。商人としてのバックスさんに」


 今までは恋愛相談に関する依頼人としての関係だったというのに、商人としての自身に何の用があるのかバックスには全く分からなかった。


「商人としての僕に何か?」

「はい。とても大事な仕事を」


 大事な荷物を運ぶ仕事などであればむしろ傭兵団の仕事である。バックスは益々混乱しながらパトリシアの言葉を待った。

 パトリシアは机に伏せていた紙を捲り、バックスの前に差し出した。

 それは、一枚の契約書だった。

 契約書のタイトルは、『業務委託契約書』。


「バックスさん……もしよろしければ、わたくし達レイド傭兵団の『専属商人』になって頂けませんか?」






 時は遡り数日前のこと。

 モルドレイドの居る事務所部屋でパトリシアとヒースは彼に呼び出され、相談を受けていた。


「遺跡で不要とする真珠を輸出する商人を探して欲しいんです」


 彼はそう告げた。

 発掘した場所から出てきた真珠の欠片の数は相当の量となった。モルドレイドからすれば貴重な歴史的遺跡ではあるものの、あまりにも数が膨大すぎて処理に困るまで至った。

 何せ町で遺跡として扱うには丁重な管理が必要とされる。それが一つや二つ、せめて十ぐらいであれば貴重に保管をするだろう。しかしそれが、千にも亘る数だったら?


「そのまま放置すれば聞いてきた盗賊が遺跡を荒らし兼ねない。ましてや管理するには管理費が嵩みすぎるからね。いっそ歴史的遺跡としての価値をつけて外に出してしまう方が良いのでは、という結論に至ったんだ」

「そこまで発展するとはねぇ」


 ヒースは素直に呟けばモルドレイドも苦笑した。彼としても、ここまで膨大に出てくるとは思わなかったのだろう。


「貝塚の遺跡は貴重だからそのままでも問題ないのだけれど、生憎多少なりとも金銭価値が出てくる物は外に放り出しておけば荒らされることは過去の遺跡から学んでいる。ネピアの町から遠いこの地に常に見張りを置くわけにもいかない。だからこそ、少しばかり丁重に保管した上で、歴史的に重要ではない分は売りに出して遺跡保管のための資金にしたいんだ」

「それは良い考えですわ」


 パトリシアは心から賞賛した。遺跡を丁重に扱うばかりに現在の金銭を奪い兼ねない事態は避けるべきだと分かっていた。その財源は恐らくネピアの税から賄うこととなるのであれば、民からの反感も強まってしまうだろう。


「ありがとう。そこで君達にお願いしたいのが、真珠を外に出して商売をしてくれる商人を紹介して貰いたいんだ。私はこの通り遺跡の調査で忙しくてね」

 

 先日訪れた時よりもより汚さを増した部屋にヒースとパトリシアは無言で頷く。


「かしこまりました……良い方を必ずご紹介してみせますわ」


 この時からパトリシアの頭の中には、バックスの姿が浮かんでいたのだ。





「初めて扱う商品ではありますが、王都や別の地理にも詳しいバックスさんであれば適任でもあると思いました。何より、この仕事を専属でわたくし達レイド傭兵団と個別に契約して頂くことにより、資金をより増すことができるでしょう。この仕事がうまくいった場合、七年で予測されていた独立は短縮して三年で出来るでしょう」

「三年!?」

「はい。わたくし達の契約も三年で締結しております」


 慌ててバックスは書面を読み出す。確かに契約期間は三年と書かれていた。報酬額も相当だった。勿論、仕事の内容はしっかりと明記されている。それに反した場合の違約金まで細かく書かれた文章は、今まで契約をしたどの契約書よりも細かかった。


「とても嬉しいのですが、僕は今商会に雇われていて……」

「そちらにも話をつけてあるよ」


 今まで黙っていたヒースが口を開いた。


「アンタのところの商会長には相談済みだ。アンタの仕事量を減らす分報酬を減らすけど、喜んでたよ」

「そんな……」

「おたくの商会長とは飲み仲間なんでね」


 クイッと飲む仕草をしながら笑うヒースを、パトリシアが睨む。


「ヒースさんは飲み過ぎです」

「貴重な情報交換手段だと思うぞ?」


 経費にしてくれというヒースに対し却下をするパトリシアの姿を眺めながらバックスは笑った。

 突然笑い出したバックスに二人は驚いて見つめる。


「ふふふ……本当に、貴方達には敵わないなぁ……」


 笑いながら眦に涙が浮かぶのは、決して笑いすぎだからではない。


「……この機会、絶対に成功させてみせます」



 その日、バックスはボロついた机の上で。

 この先大きく人生を変える書面に自身の名を刻んだのだった。


 


いつもご覧頂きありがとうございます!

あと1〜2話で次の章の予定です。

次の附則は誰にしようか……

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― 新着の感想 ―
[一言] この世界の真珠って、現代日本人が思い浮かべる養殖もの(丸いやつ)とは別なのかな? あと貝の種類も地球とは違うから劣化もしてないのかな?
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