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夢見人リンク

農民の僕が王女様の騎士になるまで 〜何故か周りが成り上がらせようと押し上げてくる〜

作者: さいぼ

「はっ」


目が覚めるような感覚。


そしてコツンと木剣が頭部に当たる。


「いてっ」


大して痛くはなかったんだけど、思わず声が出た。


「おいおい、昨日で見習い騎士を卒業したのだろう?訓練中に上の空になるやつがあるか!」


「す、すいません。団長」


俺――いや、僕、オネイロスはここノクス王国の王国騎士団の団長を相手に模擬戦による訓練をしていた。

正式な叙任式は明日だけど今日から僕は騎士だ。


本来なら騎士になるというのは誉れ高いことであってワクワクこそすれ呆けることじゃないんだろう。


そもそもなんで僕がそんな誉れ高い騎士なんかに・・・。

身の丈に合ってないというか。


農村生まれの僕は両親と畑を耕して野菜を育てているのが好きだった。


軟弱に聞こえるからやめろと"僕"と言うのを"俺"と言うように矯正もされて・・・。




始まりは今思えば10年以上前、僕が10歳になったとき。

父さんから村の近くにたまに出る害獣は男が狩るものだと教えられ、その為にこれからは稽古もつけてやると剣と弓を教わり始めたこと。


重労働が多い畑仕事でそれなりに鍛えられていた身体は稽古によって更に磨きがかかった。

それから数ヶ月が経つ頃に父さんから、


「お前は筋がいい。畑のことは父さんと母さんに任せて自警団に入るんだ」


と、いきなり自警団に放り込まれ、成人前だというのに害獣駆除に駆り出されることになった。

自警団に入るのは普通早くても成人の15歳になってからで、当然そこには同年代の子供はいない。


僕がそれを不安がっていると、


「お前がみんなのために働くのは誇らしいわ!」


と、母さんは褒め称え、自慢の息子と胸を張る。


僕の身を案じてくれないわけではないんだけど、それより僕が怪我なんてするわけがないとばかりに謎の信頼を寄せてくる。


まぁ、今でこそ疑問に思うところなんだけど、当時の僕は子供ながらに頼られる自分に酔ってしまったところもあったと思う。


そして入った自警団で、害獣を狩ったり、害獣よりも頻度の多い盗賊を捕らえたり、何もない日は見回りと訓練を積んで過ごしていた。


気が付けば剣も弓も自警団一の使い手と呼ばれるようになり、成人すると同時に領主様の専属警備隊に推薦されていた。


なんでも村での害獣出現や犯罪発生とその解決は逐一報告されていて、僕は既に領主様に見染められていたらしい。


送り出してくれた自警団のみんなの真剣な目も後押しになって僕の警備隊に入ることへの迷いはなくなった。


でも、村の自警団と違って、そこは代々警備隊を務めている人たちばかりで、農村出身の僕には正直居心地が悪かった。


何か僕の知らないことがあれば「これだから農民は」と馬鹿にされる。

何より僕は字の読み書きができない。


だから僕は二度同じ質問をしないように覚え、なるべく知識を得るよう努力した。

領主様に教師をつけて貰えたのもありがたかった。

読み書きを習得する頃には書庫の閲覧許可も得られ、僕の世界は広がった。



そんなある日――。


僕の故郷の村の近くに大型の害獣、熊が出たという知らせを受けた。

熊は普通の人には対処できない害獣とされている。

そして、その"普通の人"には自警団も含まれる。


そういう時に動くのが僕たち警備隊――のはずだった。


「誰も向かわないってどういうことですか!?」


僕は立場を忘れて警備隊長に叫んでいた。


「言葉通りの意味だ。熊は割に合わん。どこにも被害が出ないことを祈るんだな」


確かに警備隊でも楽に倒せるわけじゃない。

それにまだ村の近くに出たというだけで襲われると決まったわけでもない。


それでも!それでも僕にはなにもしないなんて我慢が出来なかった。


「なら、僕が行きます!領主様にも直訴してきます!」


僕は隊長の脇を抜けて屋敷の中へ向かおうとする。


「待て!」


背後から隊長に呼び止められる。


「なんでしょう?」


再び隊長のほうに振り返り、これでもかと真剣な目で見つめる。


「わかった、お前一人だけで行くのなら許可しよう。ただし、失敗したときはお前が責任を負うんだぞ?」


思い返すと腹が立ってくるけど、当時の僕はむしろ向かえるということが大事だった。


「ありがとうございます!」


最大の皮肉だったな、と今ならわかる。


ともかく、僕はすぐさま準備に取り掛かり、故郷の村に向けて出発した。



――結果だけ報告しようと思う。圧勝だった。


遠くから弓を射って目を潰し、手足の先も射って抵抗も逃走も許さず剣で仕留めた。



正直それ以外はよく覚えていない。

無我夢中で走って村を目指し、村の手前の森で熊に遭遇したまでは辛うじて覚えているけど、自分がどうしてあんなに正確に矢を放てたのか、冷静に狙えたのか今でもわからない。


今でも弓の精度は高いままだ。

確かに訓練も実践も経験はある。

それでもあれだけ危険と隣り合わせ、というのは初めてだったにも関わらず、経験通りの動きができていた。


この時初めて自分の立ち位置というものに疑問を持った。

なぜ、僕はこんなことをしているんだろう、と。



その日、久しぶりに村に帰り、両親とも会った。

二人とも相変わらず褒め称えてくれる。

でも変な話だけど、僕が戻ってくるなんて考えてもいないような感じだ。

その目を見れば、追い出したいとかじゃなくて、純粋に応援してくれてるのがわかるから嬉しい反面、戻りたいとも言い出し難い。


結局僕は村を後にした。

残ろうと思えば残れたかもしれないのに。


熊の首を持って領主様の屋敷に戻ると、驚愕と共に迎えられた。


どうやら死んだことにされていたようだ。

しかも、僕は隊長の制止を振り切って飛び出したらしい。


だけど、有事の際にしか着ない隊服をしっかりと身に纏って出て行っていた僕を見たことで、領主様は僕の報告の方を信じてくれた。


そして、隊長はクビ。後任は副隊長が昇格した。


僕はというと、なんと王都へと行くことになった。


副隊長が昇格しようが僕への態度は変わらなかった。

寧ろ、隊長がクビになった原因扱いされていた。

それを見かねた領主様から王国騎士団へ推薦されたのだ。


僕自身は村に帰りたかったんだけど、領主様の顔を立てる必要もあったし、何より領主様が真剣に僕のことを考えてくれたことが嬉しかった。


そして、王都での一年の見習い騎士期間を終えて今日から正式に騎士団の一員となったわけなんだけど・・・



見習い期間中にもちょっとした出来事があった。

いや、僕的にはちょっとしたどころじゃなかったんだけど。


王女様の護衛任務への同行。

今回は森への散策が目的らしい。


王族の護衛への同行は見習いの通過儀礼みたいなもので、全員が経験するんだけど、普通はなんのトラブルもないらしい。

今回行くのも比較的安全な森だ。

だから、本来は「ちょっとした出来事」で終わるはずだった。



僕の時もトラブルがあったわけじゃないんだけど。


僕の弓の腕をどこかで聞いていた王女様がそれを見たいと言い出したんだ。

それも的に射つんじゃなく、動物を仕留めるところを、と。


拒否権もないし、仕方なく指示された近くにいる野ウサギを仕留めたんだけど・・・


僕よりちょっと年下の王女ミネルヴァ様は目を輝かせてガッツリ見ていた。

そして、次なる獲物を所望する。


ミネルヴァ様が満足されるまで続き、八人いる護衛騎士が一人一体の獲物を運ぶ程になったところでようやく終わった。


「今夜はご馳走ですわね!」


とテンションを上げるミネルヴァ様だったけど、僕は内心「王女様にこんなもの食べさせるわけないだろう」と思っていた。


今回の隊のリーダーも同じ思いだったようで直接諫めるが、


「何を言っていますの!わたくしの指示で仕留めたのです。わたくしが食べなければ奪った命に申し訳がありませんわ。全部をわたくしだけで、というのは無理としても父を含めた皆で頂きます。必ず厨房へ届けてくださいまし!」


その言葉には衝撃を受けた。

年下といってももう子供という歳でもないのに次々と仕留めさせるミネルヴァ様に僕は命を軽視しているんじゃないかと誤解をしてしまっていた。


王族に出す料理には毒味も必要なことを考えると、確かにこの量は多いように見えて適量かもしれない。

それに、仕留めた獲物は全て市場に出回る種類のものだ。


もしかして、それもちゃんと考えて――?



「貴方、オネイロスと言いましたわね?」


ミネルヴァ様を見つめながら考え込んでしまっていた僕は、突然呼ばれてビクッとしてしまう。


しまった。不敬だと言われるかもしれない。


「は、はいっ!」


とにかく声を掛けられたからには返事するしかない。


「貴方は見習い期間が終わったらわたくしの直属騎士に指名致します。精進なさい」


――は?


「これは光栄なことだぞ!ホラ、宣誓の言葉は知っているだろう?」


呆けていると、リーダーが背中を叩いて呼び起こしてくれる。

そ、そうだ。そもそも拒否する理由もない。

ミネルヴァ様に恥をかかせるわけにもいかない。


「この剣はこの国と王女様の為に」


剣を水平に両手で持ち、ミネルヴァ様に向けて捧げながら宣誓の言葉を述べる。


ミネルヴァ様はその剣を手に取り僕に向ける。


「ふふっ、ソレは正式に騎士となったときで構いません。ですが、そうですね。本番ではわたくしだけに誓って頂けませんかしら?」


普通、王国騎士が忠誠を誓うのは国だ。

直属となった者はそのあるじと国の両方に誓いを立てる。


「ミネルヴァ様がそうお望みであれば」


僕がそう答えると、ミネルヴァ様は満足したようで剣を返してきた。



――これがこの出来事の顛末だ。


僕が上の空で訓練していた理由をわかってもらえただろうか。


僕は騎士となった。

明日、謁見の間にて正式にミネルヴァ様の直属騎士に指名される。



僕の正直な気持ちとしては、王女様が僕を選んでくれたことが嬉しい。


ただ、やっぱり戸惑ってしまう。

ここまで成り上がってしまうとは思ってもみなかった。

確かに自分でも驚くくらい強くはなれてると思う。

それでも元農民の僕なんかが王女様の騎士になるなんて・・・。



「――――だ。おい、聞いているのか?」


「はっ!すいません、なんでしょう?」


団長の話を全く聞いておらず、ビクッとする。

団長はやれやれと頭を掻きながらもう一度話してくれる。

明日の流れのことだった。


「まぁ、叙任前の見習い騎士が直属に指名されることが決まっているなど前代未聞だからそうなるのは仕方ないとは思う。だが、お前がこれまで普通の見習い以上に頑張っていたことは皆知っているし、異論も出ないだろう」


そこまで言って一旦切った団長は改めて真剣な目で僕の目を見つめる。


「私が褒めると皆調子に乗ってしまうが、お前ならば大丈夫だな」


「え?」


「私もお前のことは高く評価している。腕前もだが、謙虚な姿勢もだ。だが、騎士になる以上は謙虚すぎるのも敵を作る。それを自覚し自信にしろ。なに、それで傲慢になるようなら私が叩き直してやる」


「はは、それは勘弁してもらいたいですね。わかりました。騎士の務め、しっかりと果たします」


団長の目をしっかりと見つめ返して宣言する。


「それでこそ私が認めた男だ」


嬉しそうにそう言うと、団長は踵を返して離れていこうとする。


「あの、団長?」


「なんだ?」


僕が呼び止めると、不思議そうな顔で振り返る団長。


「いや、訓練途中では?」


「あっ・・・」



――それからめちゃくちゃしごかれた。




「オネイロス、貴方を騎士に叙任すると共にわたくしの直属騎士に指名致します」


「この剣はミネルヴァ様の為に」


指名すると言われたときに交わした約束を果たす。


僕だけが他の新人騎士とは別に後から宣誓の儀式を行ったんだけど、その誓いの対象のことでざわつきが起こる。

当然といえば当然だ。

何せ国へは忠誠を誓っていないことになる。


なんとなく予想はしていたからそれを気にすることはなかった。

それよりも、僕がそう言うと知っていたはずのミネルヴァ様すら目を見開いていることに驚く。


僕、何か間違ったのかな?


ただ、ミネルヴァ様が驚いていたのは一瞬で、すぐに嬉しそうな顔をすると、僕の剣を受け取り儀式を進める。


そして――


「お父様、お聞きの通り、オネイロスはわたくしの騎士となりました。騎士団からは除名させて頂きますわ」


そう宣言した。



――は?


予想外だったのは僕だけじゃないようだ。

団長すら動揺しているのがわかる。

謁見の間のざわつきも更に広がっている。


だが、それらは全て王の言葉によって収められる。


「わかった。ミネルヴァとその騎士の選択を尊重しよう。王として、親として願う。ミネルヴァを頼む」


「はっ!」


返事こそまともにできたものの、僕の頭は混乱していた。


え?え?僕の選択?何か選んだっけ?


僕の疑問には答えが与えられることはなく叙任式は終わった。



「さぁ、わたくしの騎士様、参りますわよ」


ミネルヴァ様が嬉しそうに僕を急かす。


「ま、参りますとはどちらへ?」


その問いにミネルヴァ様は力強く答えた。



わたくしの部屋ですわ!」




落ち着かない。

初めて入る女性の私室。

そもそもなぜ僕が連れてこられたんだろう?

騎士になったこれからの話かな?

そんなことを考えてなんとか落ち着こうとする。



「あの――」


「あの宣誓の言葉、感動致しましたわ!」


ほぼ同時に口を開き、ミネルヴァ様が最後まで言い切る。


「え?」


「まさか、わたくしを王女としてではなく、一人の女として見て頂いたなんて」


その言葉でようやく気付いた。


僕は「ミネルヴァ"王女殿下"」にではなく、「"ミネルヴァ様"」に忠誠を誓ったことに。


僕は王女であるミネルヴァ様に愛の誓い(プロポーズ)に等しい行為をしていたのだ。


全てに合点がいくと同時に新たな混乱が生まれる。


え?なんで認められてるの?

ミネルヴァ様も喜んでいるってことは――!?


「ミネルヴァ様、あの――」


「ミネルヴァとお呼びくださいまし」


え、呼び捨て!?無理無理。

――と思っても、有無を言わせぬ圧がある。


「ミネルヴァは、その、ぼ・・・いや、俺と、なんて平気なんですか?俺は元々農民なんですよ?」


「当たり前です!生まれなどこの気持ちの前では些細なことですわ!それと、敬語も今後は結構でしてよ」


これは本気の目だ。

これまで幾度となく僕を押し上げてくれた人達が見せていた目だ。


なら、僕はその目に応えようと思う。

今までそうしてきたように。


「わかった。ミネルヴァは何があっても俺が守る」


改めて俺はそう誓った。


「はい!」


ミネルヴァはそう言うと抱きついてくる。

俺はそれを受け止め、抱きしめる。



その後、何度か誓いの通りにミネルヴァを救うことになるのだが、それはまた別の機会に。


お読み頂きありがとうございます。


この話には主人公の強さの理由がほぼ出ないのですが、それ抜きで物語として書き切れないかと書いてみた結果です。


また、この話のエピソード0とも言える話を考えており、そちらもそれ単体で完結した話になります。


合わせても読めるように書いているつもりなので、その話を投稿できた際にはそちらを読んでからまたこちらもお読み頂ければと思います。


※投稿しました!所謂バッドエンド注意です。

「騎士を夢見る夢見人の最期 〜洗礼で得たスキルの発動条件はあまりに単純で、気付けなかった俺を狂わせた~」

https://ncode.syosetu.com/n9300gj/


よければ評価・感想お聞かせください〜

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