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左遷の鬼──異世界に追いやられたモブ社畜最強説──社内のカスどもを俺は蹴散らすぜ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
7 シュヴァラ王女の秘められた冒険

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7-2 タマゴ亭さんの謎

「それは……」


 タマゴ亭さんの顔色が変わった。


「今のロゴのこと、お父さんは嬉しそうに話してくれましたよ。娘が家業を本気で考えてくれたって」


 額田美琴ぬかたみこと、つまりタマゴ亭さんは、中学入学を機に家業を手伝い始めた。同時に、「額田屋という屋号が今の時代に合わない」と変更を提案し、家族会議を経てタマゴ亭と名付けるとロゴも自らデザインした。一人娘が手伝ってくれる嬉しさから父親はそれを許し、今のロゴができた。


「額田さん、お父さんが作ったんじゃないですよ。あなたです」

「そうだったっけ」


 タマゴ亭さんは、首を傾げた。


「ごめん。勘違いしてた」

「つい六年前、しかも自分が強く主張して取り組み、うんうん唸って考えたはずのロゴの経緯、忘れますかね」

「あたし、あんまり物事にこだわらないからさ」


 それはそうだ。さばさばしててがさつ。それはタマゴ亭さんのキャラだ。しかし、今となってはそれすら、とある事実の反映に思える。


「今になって思い返すと、タマゴ亭さん、あなたにはいろいろひっかかることがあった」

「ひっかかる? なにそれ」

「たしかにあなたは十八歳。平くんと調べたけど、失礼ながら戸籍は確認済みです。十八年前に東京で生まれている。お父さんに聞いて病院も教えてもらったのよ」

「あたし、大きな赤ちゃんだったって」

「らしいね。話を戻すけど、最初に異世界行きを頼んだときから、タマゴ亭さんはどこか変だった。今思うとね」

「変?」

「異世界行きなんて、普通は断る。危険だからね。でもどちらかというとノリノリだった。加えて異世界に着いたときの第一声が、『田舎みたいで落ち着くわー』とか、そんな感じだったし」

「そりゃ、異世界行きなんてわくわくするから。それにあのとき草原でいい香りの風が吹いてたからね。別にあたしの田舎ってわけじゃ――」

「たしかにそう取れる。それだけなら」

「まだあるの?」

「ある。吉野さんがさらわれて、グリーンドラゴンの巣に取り返しに行ったときもそうだ」


 週末潰して吉野さんと思い出したあれこれを、俺は説明した。


「自分も関係しているからって、あなたは危険な戦闘についてきたがった。自分が関係しているってなんだ。王女絡みの案件だったからじゃないのか」

「同じ仲間じゃない。だから平さんだって助けに行ったんでしょ。あたしも行くの当然だし」


 同行の際、革帽子にタマゴ亭のロゴ――例の謎紋章――を縫い付けてあった。正念場だから大事な紋章を掲げると言わんばかりに。


 ドラゴンは、タマゴ亭さんを見るやいなや、なんだか懐かしい匂いがすると看破した。今考えるとそれも不思議だ。タマゴ亭さんは薬草の匂いだろうと言ってたけど。でもグリーンドラゴンはシタルダ王家の王女を代々嫁に迎えていた。王家の人々の匂いは馴染み深いはずだ。


 ドラゴンを前にしても臆せず、堂々と意見を言っていたのも、モンスターなど見たことのない一般人と考えるなら奇妙だ。


 異世界食堂の件でウチの業突く張り社長に引き合わせたときも、なんか変だった。いつもはがさつな下町娘みたいなタマゴ亭さんが、なんかどえらく上品な笑顔であの海千山千社長を圧倒してたし。底に育ちの良さが隠れているというかなんというか。


「それに――」

「まだあんの? 社長に笑いかけたからどうとかいう、怪しい根拠」


 呆れ声だ。


「それに俺と吉野さんが旧都遺跡に向かうと知ったときは、止めたらどうかと主張した」

「それは危険だから。当然でしょ」

「グリーンドラゴンの巣に向かうよりか?」

「遺跡の周囲は魔物がたくさん棲み着いてるって聞いたから。――もういいじゃん。あたしが邪魔ならもう行かないからさ。それでいいでしょ」


 タマゴ亭さんは、茶をぐいっと飲み干した。


「やっぱりタマゴ亭さん、あなたにはどうにも王女の影がちらつく。ただ問題は、あなたが十八年前に生まれたという、厳然たる事実だ」

「王女は一年前、自らが望む世界に去ったと、魔剣の精は言っていたわ。あの世界は、人類の妄想が元になってできたもの。こっちの世界とは強いつながりがある。王女がバスカヴィルの書でこちらの世界を知って向かった可能性は充分にある」

「だから思ったんだ、俺達。俺達は、こっちの世界からあっちの世界に、トンネルを抜けて別の場所に出るように移動してる。だからそれが常識だって思ってたけど、王女は『別の通り方』をしたんじゃないかと」

「別の通り方って?」

「転生とか。あるいは魂だけ抜けたとか」

「転生したなら、今は一歳でしょ。魂だけ抜けて誰かに憑依したんだとしても、一年前。六年前のロゴ作成とは無関係だよね」

「そうは思える。……ただ、もうひとつ可能性があるんだ」

「もうひとつの……可能性?」

「ああ。転生か魂憑依かで、時空がずれてるとすれば、すべて説明できる。王女シュヴァラは、異世界の記憶を保ったまま、十八年前のこっちの世界で誕生した、とね」

「……」

「それがあんただ。額田美琴、ことシタルダ王家王女シュヴァラさん」


 タマゴ亭さんは、ゆっくり、味わうようにお茶を飲んだ。


「……このお茶、おいしいよね。コストダウンで、オフィスのお茶なんてどれも最低限の品なのに、三木本さんの、それもこの子会社だけは違う」

「それ、吉野さんが選んでるからさ。経理はどうせ認めてくれないから、自腹だよ」

「このチームいいよね。あたし、気がすごく合うんだ。……だから平さんや吉野さんと一緒にあっちの世界に行くの好きだった。あっちの……懐かしい世界に」


 俺と吉野さんは、目を見合わせた。


「ならもう全部話すか。あたしも性格柄、あんまりあれこれ隠し事するの、面倒で好きじゃないし」


 そしてタマゴ亭さんは話し始めた。とてつもない事情を。

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