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左遷の鬼──異世界に追いやられたモブ社畜最強説──社内のカスどもを俺は蹴散らすぜ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
6 旧都ニルヴァーナ遺跡、王宮ダンジョン攻略

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6-3 地下書物庫に王女の痕跡

「見ろっ!」


 王宮地下、暗い書物庫の床に落ちていた小さななにかを、アーサーが目ざとく拾い上げた。

「シュヴァラ様のアクセサリーだ。間違いない」

「見せろ」


 奪うように受け取ると、ミフネが、天井高くに設けられた明かり取りの窓からの光にかざした。


「うん……。シタルダ王朝の紋章がある」

「やはり王女は王宮に来ていたな」

「ああ。そうとしか思えない」


 ミフネは、俺にも見せてくれた。親指くらいの大きさしかないのに、やたらと重い金属製。チタンのような鈍色で、なにかの羽飾りがついている。


「これはミスリル製だよ、ご主人様」


 俺の胸から、レナが解説してくれた。


「それに超貴重なコカトリスの羽飾りがある。――幸運のお守りだね」

「ミスリルだってかなり貴重だ。その大きさなら、蛮地では奴隷百人分の価値だな」


 ひと目見て、タマがつぶやいた。


「奴隷? この世界に奴隷なんているのか」

「はるか遠くの蛮地ではな。シタルダ王家領は治安がいい。こっちの世界では天国のようなところだぞ」

「モンスターがこんなにポップアップしてもか」

「それでもだ。他はもっと酷い」

「そうか……」

「だから私達の地図作りも、ここから始まったのね。平くん。比較的安全だから」

「そうですね。吉野さん」


 無能に見えるウチの開発部だが、できる奴もいるってことだ。まあ謎スマホやら異世界転送装置やら開発したんだから、当然とは言えるか。そういやひとり、とんでもない天才がいるって噂だったが。


「こいつはな、シュヴァラ王女が大事にしていた品だ。まだお小さい頃、お側に付く俺達近衛兵に、よく自慢していたよ」


 いかついミフネが頬を緩める様は、なんかかわいい。


「紐が切れて落ちたのか。……幸運のお守りが落ちるとは」

「姫様の身に、なにもなければいいが……」

「姫様が消えたのは二十年前だ。今さら気にしても仕方ない。いずれにしても探索だ」

「それもそうだな」


 溜息をつくと、アーサーは俺を振り返った。


「どうする、平」

「そうだな。ちょうどいい機会だから、休憩方々、ここでちょっと整理しよう」


 埃まみれの床に車座になって、俺達はお茶にした。


「王宮に入ると俺達は、まず最上階の玉座や王家の居室を調べた」

「王女が失踪したんだ。王家ゆかりの場所を最初に探すのは当然だ」

「そうだな。実際、はるか古代でなく、最近、誰かが部屋を巡っていた痕跡は見て取れた」


 荒らしたというより、なにかを探していた感じさ。盗賊が家探しするなら、調度品の扉などは壊して回る。そうでなく、どれも丁寧に開けて中を調べた痕跡があった。埃の積もり具合からも、それは何百年も前ではなく、近年でだ。


「王宮は荒らされていなかった。ここ旧都の街並み同様に」

「戦乱の痕跡はなかったな」

「ねえ」


 お茶のボトルを置くと、吉野さんが首を傾げた。


「こうなると、破壊されてた城壁が、むしろ異質な感じね」

「それは俺も感じてました。吉野さん」

「あれもしかして、攻撃されたんじゃなくて、内側から破壊されたんじゃないの」

「どうしてそう思うんですか」

「今思うと、崩れた石は、外側にしかなかった気がするの」

「そういえば……」


 思い出そうとしたが、がさつな俺じゃあ無理な話だったW


「どうだったかな。レナ」

「うーん……。たしかにそうだったよ。ご主人様」

「それは俺も考えたんだが、奇妙な点がある」


 ミフネが話を受けた。


「あれだけの破壊だ。かなり強力な火薬でもないと無理だ。なんせ城壁自体が魔法でエンチャントされてるからな」

「だから?」

「火薬の痕跡はなかった。きれいなもんだ」

「魔法じゃないのか、ミフネ」

「それは考えられる。だが、誰が内側から城壁を崩す。自分たちの命を守ってくれる城壁を」


 話しながら、俺は王宮の構造を思い出そうとしていた。


 古い時代のせいか、現王宮よりはるかに素朴な造り。各部屋の造作もそうだし、そもそも造り自体が素朴だ。


 入り口脇には衛兵の詰め所がある。入り口を入るとすぐ大きな広間があり、ところどころにテーブルや椅子などが配置されている。そこから奥への扉と階上へと通じる狭い階段があり、階段脇にはまた詰め所が設けられている。


 階段が狭いのは、いざというとき敵兵が多数一気に駆け上がれないようにするためだと、ミフネが解説してくれた。


 最上階から慎重に調べながら、とうとう地下まで来た。地下は基本的には籠城の際の食料や武具など、多くの部屋が貯蔵庫だ。この書物庫もそのひとつだった。書物はあらかた持ち出されており、空っぽの部屋は古い紙や革装、それに埃の匂いが漂っていた。


「あの破壊は、王女が来たことと、なにか関係があるかもしれんな」

「実際、王女が王宮に入ったのはたしかだ」

「みんな聞いてくれ」


 俺の言葉に、全員がこっちを向いた。


「いずれにしろここ地下は詳しく調べる必要がある。アクセサリーが見つかったということは、王女は特にこの地下に関心があったはずだ。なぜなら普通は来る場所じゃないからな。言ってみればただの倉庫――それも空っぽの――だし」

「まあそうだな」


 アーサーは溜息をついた。


「ただまあ、理由がわからん。退去済みの王宮だ。見ての通り本なんか残ってないし、武具や食料の類などなおさらだろう。空っぽの倉庫を王女が調べて回ったなんておかしいじゃないか」

「だからこそ、ここには王女失踪の理由が隠されてるんだよ」


 レナが叫んだ。


「……えーとただの思いつきだけど」


 大声を出して恥ずかしそうだ。


「かわいい使い魔の言葉にも一理ある。注意深く調べよう」


 ミフネが立ち上がった。


「なんせここは暗い。なにか秘密が隠されているとするなら、なおのこと見つけづらいはずだからな」

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