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左遷の鬼──異世界に追いやられたモブ社畜最強説──社内のカスどもを俺は蹴散らすぜ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
5 現実の嵐、異世界の嵐

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5-2 ムカつく野郎に酒をぶっかける

「平から言わすんすね。川岸さんのところと一緒にやりたいって。……内部からの提案なら、社長の面子も潰さずに済みます。――さすがは川岸さん。社内一の戦略家だ」


 山本、ヨイショしすぎだお前w やりすぎておべんちゃら丸出しになってるぞ。


「そうっすねー……」


 しばらく考えているふりをした。十分タメを作ってから――。


「それは、川岸さんだけのお考えですか。いや俺も、あの社長に睨まれるのは嫌っすから。ワンマンで怖いし。昇格したばっかりなのに、また肩書剥がされたりしたらと思うと」


 社長なんかなんとも思ってない。好き勝手ができなくなったら俺、いつ辞めたっていいし。でも今はまだ、意気地のない男を演じておく。馬鹿から情報を引き出すためだ。


「ねえ川岸さん。社長に意見する以上、ケツ持ってくれる人がいるかどうかは重要なんすよ。川岸さんはもちろん超エリートっすけど、肩書だけで言うならただの課長補佐。俺より下なくらいだ」

「失礼だろ平。川岸さんに対して」

「抑えろ山本」

「でも」

「平の言うことももっともだ」


 ここぞとばかり、手ずから俺に酒をついできた。


「安心してほしい。誰とは言えないが、俺には太いバックがいる。平のことは絶対に守る」

「金属資源事業部の事業部長っすか? 川岸さんのライン上司だし。まさかもっと下の部長クラスってことはないでしょ」

「はっきりとは言えない」


 俺は、奴の目をじっと見つめた。


「事業部長は、たしかに社長レースの有力候補だ。とはいえ、今すぐ社長に圧力かける人材としては、まだちょっと心もとない気が。畑違いの俺の助命を嘆願するってのも、ヘンに社内で目立つし」

「明言できないと言ったろ。心配すんな。社内にまんべんなく力を発揮できる人だ」

「はあそうすか……」


 まんべんなくということは、人事を押さえてる奴か、予算策定にそれなりの力を持つ野郎だ。ということはやはり、最高財務責任者の石元か。執行役員どころか取締役だし。それにメインバンクの三猫銀行出身だから、そっちを通して社内に圧力をかけることも可能だ。


 ――それに山本の奴もこないだ、川岸は石元と仲がいいとか、お洩らししたしな。


「まあ川岸さんのご希望もわかるんすけど、社長の首に鈴ぶら下げるのは、俺には荷が重いというか……」

「そう言うな」

「難しいっすねー」

「ならこれはどうだ。今すぐの提言は無理でも、異世界マッピングプロジェクトの進行状況を、俺に教えてくれ。異世界での鉱山有力地帯の情報を共有して、それでふたりで頃合いを見ようや。有望な鉱山が見つかれば、平だって、金属資源事業部とのコラボを社長に推薦する、いい口実になるだろ」

「協力したいのは山々ですが、機密情報を流すのは職務倫理に反するんで。この間も言ったように」


 のらりくらりとかわす。


「そうだ」


 なにを思いついたのか、山本が、酒のグラスを、タンとテーブルに置いた。


「吉野部長に進言してもらったらどうすか、川岸さん。彼女は部長だ。金属資源事業部と共同事業にしたいと言えば、社長だって無視できないはず」

「それはなあ……」


 斜め上を見て言い淀んでから、自分のグラスに目を落とした。そのまま――。


「あれはただの飾りだろ。異世界マッピングプロジェクトは平がすべてと、俺は考えている」

「そんなことないすよ。吉野さんは――」

「たまたま運良く勃興事業にいただけの凡人だろ、あんなの」


 鼻で笑っている。


「それが証拠に、社内で評判ぼろぼろだったからな。だからこそ社員実質ふたりなんて子会社に飛ばされたんだし」


 この野郎……。社内で浮いて左遷されたのは、俺だって同じだw つまり俺のこともクソだと思ってるってことだろ。自分が異世界マッピングプロジェクトに食い込んで利権を握るまで、形だけつるんで利用しようって腹だ。もちろんその後は俺も捨てるつもりに違いない。


「いや、吉野さんは実力派ですね。これまでは社内で足を引っ張られてただけで」

「そうですよ川岸さん。吉野部長、昔から仕事はできるけど、出る杭は打たれる式でいじめられてきたって噂ですし」


 山本はなんだな、吉野さんに気があるな多分。こないだもやたらと一緒に飲みたがったし。


「あんな女」


 やっと俺を見ると、あざけるような笑みを浮かべた。


「いいとこ育ちかなんか知らないが、面接で媚売ってウチに入れただけの、ただのゴミだろ。その点、お前は違う。無事、俺が役員になった折には、お前も絶対取り巻きの末席に加えてやる。そうだな、孫会社の社長あたりとかどう――」


 反射的に、俺はグラスの酒を野郎の顔面にぶち撒けた。


「な……な……」


 山本が口をぱくぱくしている。


「失礼なことを抜かすな、カス」


 俺は立ち上がった。


「お前に吉野さんのなにがわかる。彼女はなあ、俺がこの三木元商事に入社してから出会った、最高の上司だぞ。ええ、てめえ。殺す気で迫ってくるどでかいモンスターに、てめえなんか立ち向かえやしないだろ。俺と吉野さんはなあ、何度も死線を乗り越えてきた戦友だ。てめえのような陰謀しかできないチンピラとはわけが違う」


 そう、しかも今やドラゴンライダーだからな。俺だってなれてない。異世界ではどこに行っても最高に尊敬される存在だ。会社の看板背負ってないと商売できないこんな野郎とは、レベルが圧倒的に違う。


「おい平。お前、なにやってんだ。気が狂ったのか」


 山本にネクタイを掴まれたので、振り払った。


「山本、お前もケツ舐める相手はもっと選べ」

「この野郎」

「よせ、山本!」


 座ったまま、川岸が制止した。


「……あーあ、ずぶ濡れだよ」


 酒が垂れている髪を、おしぼりで拭っている。それからシャツ。俺を見もせずに呟く。


「平。お前は今日、自分の人生をドブに捨てたんだ。後で後悔しても遅いからな」

「はあ? なんだ俺を潰すってのか。ええ、ただの『課長補佐』さんよ」


 じろっと睨んできた。


「まあせいぜい、負け組でつるんで今だけの課長職を楽しんでろや」


 酷薄そうな表情を丸出しにしやがったな、川岸の野郎。化けの皮が剥がれてるぜ。


「俺はお前らみたいな甘ちゃんじゃない。学生時代は馬鹿な女騙して金貢がせて遊んでたからな。言ってみれば人間商社だ。俺こそ、三木本のトップにふさわしい。なにからでも金をむしり取れるからな。え? 商社の鑑だろ?」

「ただのクズ野郎自慢だな」

「へっ。俺のバックを知ったら、お前なんかしょんべん漏らすぞ」

「漏らすのはそっちだ。俺の言葉、忘れるなよ。カス」


 両手でグラスを掴むと俺は、どっちも野郎の面にぶっかけた。

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