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左遷の鬼──異世界に追いやられたモブ社畜最強説──社内のカスどもを俺は蹴散らすぜ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
3 社内陰謀の嵐を蹴散らして回る

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3-5 「平くん課長就任祝賀」緊急同期会

「では、同期出世頭にして我が社期待のホープ、平くんの課長就任を祝って」


 居酒屋の個室。立ち上がった幹事の山本が、ビアジョッキを掲げた。


「かんぱーい!」

「乾杯っ」

「かんぱーいっ」

「乾杯」


 三々五々声がして、ジョッキが打ち鳴らされた。


「いやおめでとう」

「おめでとう平」


 ビールを飲む無言の瞬間が過ぎると、拍手が巻き起こった。なんでも俺の課長就任を祝う、緊急同期会だとさ。俺の同期は二十人ちょい。地方に飛ばされた奴や出張中の奴もいるから、今ここにいるのは十五人ほどだな。さんざっぱら馬鹿にしてきた俺の出世に嫉妬して欠席してる奴もいるってよ。


 これまで同期会からハブにしてきた俺を中心に飲みたいなんて図々しい打診をしてきたのは、山本だ。嫌でたまらなかったが、社内の怪しい動向を探るべく、やむなく応じたわけさ。


「いやーでも、これまで社内辺境をたらい回しされてきた平が同期の出世頭になるとはな。苦労はしてみるもんだな、平」


 調子のいい野郎が、俺の肩を叩いた。なにが苦労はしてみるもんだだよ、クソ野郎が。こいつ、入社時に商社花形の営業に回されて天狗になり、同期を見下してた奴だ。今は成績が上がらないで愚痴ばかりって噂だがな。


「平、迫力あったからな。ウチに来てさ、こうバサーっと発注書の束を部長に叩きつけたりして」


 これは例の資材部の同期だ。異世界食堂建設のとき暴れたの見られてるからなー。まあ嘘じゃあない。


「やっぱり、出世する人は、どこか違うのよ。あたし、平くんは昔からなにかやる男だと思ってたもん」


 地味な部署に回されてむくれてると評判の女だ。俺の腕を取ってくる。


「平くん、なんだかたくましくなったよねー。すてき」

「ちょっとゆかり。あんた抜け駆けするんじゃないよ」


 別の女が腕を振り払った。


「ゆかりあんた、こないだまで営業の吉岡さんのこと追いかけ回してたじゃん」

「そうそう。自分がつまんない仕事だからできる男をひっかけて花の専業主婦狙ってるって、みんな噂してるし」

「そんなことないでしょ。あんたたちこそ、でたらめ言いながら、平くんの側に座り直してるし」

「平くん、ビールないでしょ。注文するねっ」


 なんだよこいつら、プライドもないのか。ついこないだまで俺のことなんか、鼻にもかけなかったくせによ。なんだか悪酔いしそうだ。


「なあ平。出世の秘訣を教えてくれよ。お前らはどけ」


 女どもを邪険に押しのけて、柔道部出身、ガタイのいい体育会系営業タンク役の野郎が俺の向かいに座った。


「そうそう。俺も知りたい。なんたって、二十五歳での課長就任は、我が社の歴史上、戦後では初めてらしいからな」

「それも子会社だけじゃなく、本社経営企画室の課長級フェローまで兼務でな。経企って営業と並び、出世を約束されたエリートルートじゃん」

「しかも上司の吉野さんは部長級フェローだ。……あの人、まだ三十前だろ。それで部長とか、どう考えてもあり得ないしな。ウチはベンチャーじゃないぞ。歴史ある売上千五百億円の大商社だ」


 大商社w 商社の末席だろ、ウチなんか。


「ほら、秘訣を話せよ、平。なんか政治的に動いたのか?」


 急かされて、俺はやむなく口を開いた。


「秘訣なんかないさ。俺はどの部署に行ったって、やってることは同じ。給料分働いてるだけさ。みんな知ってるだろ。俺の『給料分の働き』ってのがどの部署でも顰蹙買って、次々叩き出されたこと」

「まーた謙遜ばっか」

「そうそう。平はああして社内の各部署を幅広くリサーチしてたんだと俺は思ってる。だからこそ、今回その経験がものを言ったんだとな」


 はあそうすか。なんでもいいように考えてくれるもんだ。


「俺が底辺這いずり回ってたから、お前らだって俺のこと邪険にしてきたじゃないか」

「そ、そんなことないわよ」

「そうそう」

「嘘。ゆかりあんたが平くんを同期会に誘うのやめようって言ったんじゃない。私は反対したのに。ねっ平くん。本当だからね」

「はあ? あんたこそ山本くんとつるんで平くんの嫌な噂流しまくってたくせに」

「俺は違うぞ平」


 あわてたように、山本が入ってきた。


「――お前ら、女の戦いに俺を巻き込むなよな」

「それより秘訣を話せって。フツーに仕事してるだけで、こんなに出世できるわけないだろ。いくら新規プロジェクトを成功させたって言ったってさあ。お前と吉野部長の大抜擢は、異例中の異例だぞ」

「そうそう。社内でどえらい噂になってるしな」

「じゃあ話すか……」


 なにかあるとべたべたくっついてくる横の女が鬱陶しかったんで、俺は立ち上がった。知恵のないキャバ嬢かよ、まったく。話題を出せずにエロに頼るしかないってか。


「グローバルジャンプ21で成功したのが異世界マッピングプロジェクトだけだってのが、まずあるよな、当然。グローバルジャンプ21は、社長肝いりの特大プロジェクト群だったし、全部失敗じゃあ社長の面目丸潰れだ」

「そりゃそうだ。言ってみれば社長の窮地を救ったわけだからな。評価されるのは当然だろうさ。――でも、プロジェクト開始わずか数か月で課長まで出世とか、あり得ないだろ」

「お前らどうせ、俺が社長の弱みを握ったとかなんとか、そんな話が聞きたいんだろ」

「おっマジか」


 みんな色めき立った。


「残念ながら、そういうことはない」

「なんだよ、期待持たせやがって」

「業績以外に要因がひとつあるとしたら、俺は出世に興味がないことだな」


 ざわめきが巻き起こった。みんな飲むのも忘れて俺を食い入るように見つめている。

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