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左遷の鬼──異世界に追いやられたモブ社畜最強説──社内のカスどもを俺は蹴散らすぜ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
■第二部 「王都の謎」編   1 マハーラー王の依頼

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1-6 派遣隊には弁当か、それとも兵糧丸か

「あれね。王に変な要求されてるんでしょ?」


 朝の異世界子会社。俺達の分の弁当持参で登場したタマゴ亭額田さんが、いきなり口を開いた。


「まあね。王女捜索に協力しろって話。……昨日戻るとき話したっけ」

「うん。吉野さんに聞いた」

「そっか」


 弁当をテーブルに置くと、跳ね鯉村に向かうために、自分も身支度を始める。配達用の上着を脱いでそこらに放り投げ、食堂に持ち込む調味料なんかを吟味して。


 親の仕事を手伝うついでに異世界で食堂経営とか、十八歳にしてはしっかりしてるよな、この娘。ついこないだまで高校生だったくせにさ。


「どうするの、結局」

「形だけは協力しようかと」

「へえ意外。――サボりと関係ないんで絶対断る――と言うかと思ってたのに」


 サボり願望、もうタマゴ亭さんにもバレてるな。まあいいけど。


 昨日あれから図書館で情報をいろいろ集め、それから吉野さんやレナ、タマと、対応を協議した。結論は俺に一任してもらい、定時に現実に戻ってからは、半額弁当かっこみながらレナと再検討。ひと晩寝ながら考えて、なんとか心が決まったわけさ。


 あーちなみにバスカヴィルのことや魔剣に関しては、館長ヴェーダ、なにも知らなかったな。


「私も気になる」


 タマゴ亭さんの服を手に取ると、吉野さんはハンガーに掛けてあげている。


「すみません吉野さん。あたしガサツで」

「いいのいいの。ねえ平くん、どうしてそう決めたの」

「ええ。要は俺達、楽して地図が作れればいい」(サボりながらとも言うがw)

「うん」

「探索に協力して王に貸しを作れば情報をもらえるから、今後はるかに楽になる。なので受けたほうがいいんだが、問題もある。探索が面倒なことだ」

「危険だしね。有毒ガスとか」

「モンスターだって出るかもしれないよね」


 おまけのお茶のペットボトルを、額田さんが俺と吉野さんに渡してくれた。


「ありがとう。とはいえ別に命懸けでとか王に頼まれたわけじゃない」


 俺は解説した。遺跡に向かえば、それ自体が地図作りにもなるんで、こっちには損がない。国王配下の精鋭を引き連れて向かうんだから、俺達だけで地図作製するより、圧倒的に俺達パーティーの戦闘リスクを減らせる。もう戦い任せたっていいくらい。


 それでいよいよ遺跡に近づけない、ないし危険すぎるとなれば、「残念だが」とか言いながら戻っちゃえばいい。なんせ王の部下が同行して全部見てるんだから、でたらめじゃないって王にも説明がつく。


 それでも協力はしたんだから、褒美として情報を得られるのは間違いないし。


「まとめちゃうと、こっちに損はない。そう思うんだ」

「ふーん……」


 自分もペットのお茶を飲みながら、タマゴさんはしばらく考えていた。


「止めちゃったら? たしかに戦略として筋は通ってるけど、予想外の危険があるかもしれないし」

「ないと思うけど」

「なら言うけど、遺跡自体に危険性があるかもしれない」

「遺跡に?」

「うん。だって、王女失踪後すぐ、大規模な天変地異があったんでしょ。王女が遺跡に行って、なにか古代の罠かなんかに引っかかって死んだせいかもしれないじゃない」


 だから俺達が二の舞になるかもってことか。


「まあ、そりゃないとは言えないけど」

「でしょ」

「でもそれ言うなら、俺達の旅自体、予想外の危険に満ちてるからなあ」

「平くんの言うとおり。楽な道を辿るとはいえ、戦闘で怪我することもあるしね」

「吉野さん、わかってるじゃないすか。そうそう。ヘンな蔓草野郎に毒のムチで打たれたり」

「治療でタマちゃんに体をナメナメしてもらったり」

「ネクロマンサーに死霊術を掛けられそうになったり」

「マッサージでタマちゃんに抱き抱きしてもらったり」

「ちょっと吉野さん。止めてくださいよ。俺なんだかショタみたいじゃないすか」

「ショタってなに?」

「甘えっ子みたいなもんですよ」


 レナがいたら、「おねショタのエロ展開はねえ――」とかサキュバス薀蓄うんちくを語り始めそうだ。今日はまだ出てきてないのが良かったかもな。


「あらそう。でも全部本当のことだし」


 吉野さんは、横を向いてしまった。


「まあいいか」


 額田さんは笑い出した。


「なんかもう、どうでも良くなった。まあ危なくなったら、すぐに中止することですね。それだけ約束して」

「う、うん」


 なんで仕出し屋さんがそこまで踏み込んでくるのか微妙だが、よく考えたら俺がタマゴ亭さんを異世界に巻き込んだんだもんな。リスクを共有するのはタマゴ亭さんも――特に額田さんは――同じだ。ならひとこと口を挟みたくもなるだろうさ。


「ところで、王の派遣隊が同行するんだったら、これからは彼らの分のお弁当も持ってきたほうがいいのかな。何人前くらい?」

「それがあったか」


 そこまで考えてなかった。弁当代増えると、またウチの細かい社長がなんか言いそうだけど……。まあまたゴリ押しで説得すりゃいいか。タマゴ亭異世界跳ね鯉村支店は、黒字事業だしな。本社の社長ごときに文句は言わさん。この事業を仕切ってるのは俺だ。


「でも平くん。アーサーさんとかのスカウト職でしょ、同行するの。自分達でなにか調達するか持参するんじゃない。ほら、昔の忍者だったら、携行食として軽量で栄養豊富な兵糧丸ひょうろうがんとか持ち歩いてたし」

「なんでそんなの知ってるんすか、吉野さん」

「常識じゃない」


 でもないと思うけどなあ。まあいいか。まさか吉野さん、レベルアップするとニンジャにジョブチェンジできるとか……。ないな。


「いずれにしろ、王と会ってそのへんも詰めましょう」

「わかった」

「もう十時だ。そろそろ異世界に出勤しますか」

「そうね。今日の業務目標は、王宮で遺跡探索の詳細を詰めること。早め――そう三時くらいにはこっちに戻って、社長に報告書を書くわ」

「そうしましょう」

「あたしはいつもどおり村で食堂ね」

「悪いけど、俺達に合わせて、今日は早めに戻る段取りでお願いします」

「了解です。平気へいきーっ」


 タマゴ亭さんは、ふざけて敬礼してきた。


「そろそろ村の奥さん連中がだいぶ段取り覚えたから、あたしいなくても運営できそうだし」

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