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3-7 邪神の正体

「世界に生まれた怨念が集まり、形になった。それが邪神と呼ばれるものの正体です」


 天使イシスの語りが続いた。


「生きとし生けるものには生存競争がある。餌の取り合い、恋愛の駆け引き、領地や財産の築き合い。それが『生きる』本質なので、悪いことではありません。長年の経験で、こうした諍いを調停する機能を、各部族は培ってきました」

「法律とか道徳って奴ですね」

「平お兄ちゃん、自然法っていうのもあるよ。人を殺してはいけないとか、法律が無くてもそう思うのが普通だし」


 キラリンが補足してくれた。


「そうした機能は、エルフや人間、それに魔族まで、幅広い部族の安定をもたらしてきた。彼らの戦いでさえある意味、こうした合理性を持っていました」

「ふむ」


 サタンが頷いた。ルシファーとの戦いで配下すら失った新米だが、魔王だけに理解できる部分があるのだろう。


「しかし、その合理性からこぼれ落ちてしまう『思い』はある」

「悔しさとか鬱屈した怒りですね」

「そうです、吉野。そうした行き場のない思いを吸い取ってしまう土地が、辺境にあった。単なる世界の偏差だったのですが結果としてそこに報われなかった思いが集まり凝縮し、ついには意識を持つようになった」

「それが邪神ですか」

「ええ平。それが形を取ったものが邪神です」

「だから定型を持たないのか。……生物ではなく、元が怨念だから」

「育ち切った怨念──邪神──は当然、世界に対する恨みしかなかった。ついにそれが暴発した。……聖魔戦争という形を取って」

「だから『世界を滅ぼす』戦いだったんだね。『征服する』じゃなくて」


 タマゴ亭さんが唸った。


「それじゃ講和のしようがないね」

「どちらかが全滅するまでだからな」


 ケルクスも眉を寄せている。


「百年間も続いたのが道理だ」

「この世界のほとんどの存在が戦いに参加したのも当然だね、ご主人様」


 レナは溜息をついている。頷くと、イシスは続けた。


「我が身に換えてもと世界を恨む魂とモンスターを、邪神を集めた。たとえば……倒れたドラゴンをドラゴンゾンビに変え、さらにそれを怨念をツールとして用いて魔改造し、シムルグールという汚れた人造モンスターを生み出したり」

「滅んだとはいえ中指一本生き残った。そしてそれは……マナを吸って復活の時を待った」

「本拠地じゃなかったからだね。本拠地なら世界の悪意がまた溜まるのを待てばいい。でも倒れた土地だからマナを使うしかなかったんだ」

「それを滅ぼすのです、平」


 イシスがまとめた。


「あなたにできますか」

「できる……というか行きがかり上、やるしかないっすね。悲惨な子会社に出向させられた社畜みたいなもんだ」

「平くんも私も、そのへんは慣れてるものね」くすくす


 吉野さんが含み笑いする。まあ……ふたりとも左遷社員だったからな、三木本商事では。


「それで……そんな怨念野郎の邪神を、どうやって倒せばいいんだ」


 タマは首を振ってみせた。


「七百年前は、あれだけの軍勢が迎え撃っても、倒し切るまで百年掛かったというのに」

「幸い、邪神はまだ復活途上。配下を錬成する時間はない。ただ一体ですよ、平。それに……」


 遠い瞳をすると、イシスはほっと息を吐いた。


「それに復活直後なら、まだ力も弱い。チャンスではあります。前はその存在に気づけず、邪神が力を溜め切って戦端を開くまで対処できなかった。でも……今回は違います」

「なら前回同様、世界中の軍勢で攻め込んだらどうなの」

「それは難しいでしょう」


 イシスは首を振った。


「前回は、相手がこの世界に出てきた。だから対処できた。しかし今回は、邪神の本拠地に乗り込むのです。次元が違う。特別な技を持つ、平のチームにしかできないでしょう」

「キラリン跳躍だもんな」

「へっへーっ」


 キラリンは鼻高々といった様子だ。にこにこ笑っている。


「まっかせてー、お兄ちゃん。……なんなら今から押し掛けようか」

「冗談にもそんなこと言うな。もう少し情報を集め、邪神を叩き潰すヒントくらいは得てからだ」

「なにか……心当たりがあるのですか、平」

「はいイシス。一箇所、行ってみたいところがあるのです」

「どこですか」

「それはですね……」


 俺の説明を聞き終わると、イシスは頷いた。そして行けと背中を押してくれた。自分には会うこともできないからと。



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