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1-8 灌漑用水貫通記念大宴会!

★本年もご愛読ありがとうございました★

★来年も本作および猫目印の作品をよろしくお願いします★



「まあ飲んで下され」

「ありがとうございます」


 これで何度目になるかわからない献杯を、俺は受けた。エンリルとイシュタルの大活躍で、灌漑用水パート二はたいした苦労もなく開通した。大量の土砂の処分が大変かと懸念していたが、それはそれで街の土木工事に使うとかで重宝された。


 開通の日──ようするに今日──は大宴会。とても現実世界のマンションに戻るとも言えず、宴会の主賓に祭り上げられた。街総出の祭礼といった規模だったので、俺の仲間もあちこちのテーブルに引っ張り回されては話の相手をさせられている。


 今、俺のテーブルについているのは、あと吉野さんとレナ、タマの初期メンバー四人だけだ。


「いや平殿の活躍には度肝を抜かれました」

「ほんにほんに。まさかのドラゴンライダー様とは」

「ささ、ぐぐっと。……ほれ、吉野様も」

「ええ。ありがとうございます」


 吉野さんはうまいこと、ちょっとずつ飲むふりだけしてかわしている。さすがの社畜スキルだわ。


「ほい。次は平殿」

「はい」


 どのテーブルもこの調子だろうな。ふと心配になって見回してみた。


 あー大丈夫か。みんなうまいことあしらいながら、楽しく飲み食いしてるわ。


 なんならサタンとキラリンなんて、子供テーブルで大歓迎されていて、園児と一緒に謎の乳酸菌飲料、ごくごく飲みまくってて楽しそうだ。いやキラリンはともかくサタン、にっこにこ顔だけどお前一応地獄の大魔王だろw なんで園児枠なんだよ。しかも完璧に馴染んでやがるし。


「平殿には、この街にこれからも逗留してもらいたいものじゃ」

「ほんにほんに」

「いえ……申し出ありがたいですが俺達、ヴェーダの後を追わないと」

「大賢者ヴェーダ様ですね。ヴェーダ様といい平様といい、この街の大恩人だ」

「ヴェーダ様の行方は、おわかりになるのでしたっけ」

「ええ……」


 ちらとタマゴ亭さんを見た。隣のテーブルで、食堂のおっさんと、熱い食材トークを繰り広げている。俺の視線を受けると、例の「魔導徘徊監視システム」円盤を、振ってみせた。


「ちょうどいいや」


 円盤を持ったまま、俺のテーブルに来る。


「平さんも見て。ほらこれ」


 テーブルに円盤を置くと、一点を示してみせた。


「ここにヴェーダがいるみたいなんだけど、なんだか変なんだよね」


 ほら……と、指を回す。


「ここ、火口でしょ。なんでこんなとこに突っ立ってるのかな」

「火口……って燃えちゃうじゃない」


 吉野さんが目を見開いた。


「いや……」


 魔導円盤に浮かび上がる地図を、役所の若旦那が見つめた。


「この山は休火山です。だからすぐには死なないでしょうが……」


 眉を寄せる。


「ですがこの火口は深くて切り立っている。……落ちたのではないでしょうか」

「そんな……」


 吉野さんが絶句する。


「大丈夫だ。ふみえボス」


 タマが言い切った。いつものクールな雰囲気で、強い酒を口に運んでいる。


「もし対象者が死ねば、表示されるアイコンの色が変わる。……そうだったな、タマゴ亭」

「うん、そう。だから元気だとは思う。思うけど……」

「落ちたんじゃないなら、降りたってことだよね、ご主人様」


 地図を覗き込んでいたレナが、俺を見上げてきた。


「ヴェーダは、なんの用事があったんだろ」

「行ってみるしかないか」

「幸いここは、割と近いよ。何日も掛からず、着けると思う」

「こんなところに入った以上、ヴェーダさんもツェルトとか携行食、水くらいは持ってるだろうしね、平くん」

「そうですね、吉野さん」

「なにかご存じないですか、ご主人」


 若旦那に振ってみたが、黙ったまま唸っている。あんまり情報はなさそうだ。


「そう言えば……」


 先程から大人しく飯を食っていた村人のひとりが、斜め上を見上げた。


「たしかこの山、花伝説があったはず」

「花伝説……」

「ええ。ただの小さな万年草なのに、根は地下千メートルも深く張っている。地下の溶岩と地熱からマナを吸い上げて、魔力に満ちた実と種を宿すとか」

「ああ、思い出した」


 若旦那が手を打った。


「だからこの花は、休火山の火口内部にしか自生しない。滅多に見ないこの貴重な植物が、この火口にたくさん自生していると」

「凄いじゃないっすか。なんでこの街の人は取らないんですか。大儲けだ」


 鉱山商社マンの血が騒ぐわ。これこそ異世界の貴重な鉱物資源じゃん。


「そもそも花を見た人がいないんです」


 若旦那は首を振った。


「なんたってただの伝説だ。それに……」


 唸った。


「ここ、危険なんですよ。……生きて帰れるかわからないほど」

「そんな危うい場所に……ヴェーダが……」


 俺と吉野さんは、目を見合わせた。




■次話から新章! 「マジックフラワーの根」(仮題)。

ヴェーダの行方と安否は? そしてヴェーダとラップちゃん、老いらくの恋の行方は? 平はどう動く……。乞うご期待!


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