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左遷の鬼──異世界に追いやられたモブ社畜最強説──社内のカスどもを俺は蹴散らすぜ  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
第一部エピローグ

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ep-2 旅立ちの朝2

「あら、もう出発?」


 街道まで進むと、開業したタマゴ亭異世界跳ね鯉村支店のカウンターから、額田さんが顔を出した。


「ええ。日の高いうちに距離を稼いでおこうかと」

「街道ならモンスター出ないからだよ。ここのところ食堂やらドラゴンやらで、地図作りが滞ってたから。ご主人様は適当に帳尻合わせるの得意だからさ」

「あら」


 笑われた。くそっ。レナの奴、褒めてるようでいて微妙なディスりを感じる、嫌なコメント出しやがって。


 俺と吉野さん、それにパーティーの仲間は、地図作りの本業に戻る。街道筋をゆっくりと王都に向かうのさ。なにせ街道にはモンスターは出ない。出ないからこそ街道として整備されたわけで。戦闘皆無で地図作りできるんだから、サボるのにこんなに楽な方法はない。


 王都に着いたら情報を集め、「さらに楽」な方面の目星をつけて、そっちで地図作りに励む予定だ。


「そっちは忙しそうですね」

「ええ、お昼の仕込みを早くしないと」


 見ると、朝もまだ早いってのに、もう並んでいる奴がいる。食堂だけじゃなくて弁当カウンターにまで。


「すごい。もう大評判じゃない」


 吉野さんが感心している。


「まあ、クチコミ凄かったですからね」


 あれからすぐ食堂はオープンした。開業初日、村人全員が食堂に集まって、大混乱になった。食堂で働くはずの奴まで食べに来たからな。


 食堂売店での弁当販売だが、初日はあんまり売れなかった。なにせ誰も知らないからさ。それに見たことのない「異世界料理」が詰め込まれた弁当だからな。事情を知ってる村人ならともかく、通りすがりの旅人なんか、腰が引けるの当然というか。


 でも、それも二日だけ。初日に試し買いした商人が弁当に大感激して、どこやらの商人宿で自慢して回ったらしい。三日めにはもう普通に弁当大繁盛。それからも日に日に客が増えて、もう「跳ね鯉村の名産品」として有名らしい。今ではとんでもない行列ができるようになっている。


「すみませんね。こっちで仕事してもらって」

「ううん平気。あたしも楽しいから」


 うれしそうだ。額田さんには当面、毎日ここ食堂に出てもらうことになっている。朝、俺達と一緒に転送されるわけさ。


「王都に向かうんでしょ。王都……ニルヴァーナに」

「あれ。よく知ってますね。名前」

「村長さんがね。……まあ気をつけて。元気でね」

「嫌だなあ。明日の朝も、会社で会うじゃないすか」

「そうか、お弁当渡さないとね。平さんたちの。本社に配達もあるし」


 てへぺろっと舌を出した。


「じゃあ言い直すわ。とりあえず今日、気をつけてね」

「はい」


 手を振って別れた。


 俺達は街道を進み始めた。王都に向かい。


 街道といっても、ここは辺境なのでそう広いわけではない。道だって整備されてはおらず、ただ土のでこぼこ道。風に土埃が舞うばかりのど田舎ロードだ。


「いい風だな。ボスのボス」


 珍しく、タマが風情のあることを口にする。タマなりに気持ちよさを感じているのだろう。


「まあ、土埃がひどいけどな」

「なんだ、これくらい。ヒューマンは弱いな」


 笑われた。


「そんなんじゃ、あたしのパートナーにはなれないぞ」

「たしかに俺はお前のパーティー仲間だ。けどタマにしろレナにしろ、使い魔だからってこき使うつもりはないよ」

「そうか……」


 タマは黙った。俺のほうを見ずもせず、歩き続ける。


「まあいい。ほらもっと速く歩け」


 なぜか俺の手を取った。そのままぐいぐい引っ張っていく。


「わあ。タマのそりだね、ご主人様」

「犬ぞりじゃなくてネコそりだな」

「うるさい。レナもボスも黙れ。ほら歩けって」

「わかったよ」

「ねえ平くん」


 吉野さんが、反対側の手を握ってきた。


「なんですか、吉野さん」

「タマゴ亭さんにも、お礼しないとね」

「社長からは運営費を取ったんで、タマゴ亭さんには毎月支払われるはずです」

「そうじゃなくて、彼女個人によ」


 たしなめられた。タマに引かれて早足になっている俺が吉野さんの手を引く形になっているから、間抜けな鯉のぼりみたいだ。


「だって食堂経営だけじゃなくて、私を助けに来てくれたし。あれ、モンスターとの戦闘だってあったんだから」

「それも考えてます。近々、ダイヤを一部渡そうかと」

「それがいいわ」

「ただ、使われちゃうとあっちの世界で波風立つかもしれないじゃないすか。社会的にも、タマゴ亭内部でも」

「なんで額田さんだけって声は出るかもね」

「だから俺達同様、当面絶対使わないって、釘刺してからかなって」

「それかもう、ダイヤをごく一部だけ換金しておいて、現金で渡すのもいいかもね」

「たしかに」


 俺は考えた。ダイヤを持つことが誰かに知られたら、たしかに俺も吉野さんも、額田さんだって身に危険が迫るかもしれない。手に持つなら、現金のほうがはるかに安全なのはたしかだ。


「今度ふたりで考えましょう」

「わかった。またバーで飲みながらね」


 うれしそうに微笑んだ。


「はい」


 良かった。吉野さんも機嫌が直ったみたいだな。


「ボスのボス」


 急に、タマが立ち止まった。俺の手を離す。


「どうした」

「後ろに……」


 振り返るなと言った上で、タマはそう告げた。


「お前も気づいたか、タマ」

「ああ、最前からだ」

「なに。なにがあったの」


 不安げに、吉野さんが口を開いた。


「バンシーだ、ふみえボス」

「バンシーって、例のパーティーにいた」


 黙ったまま、タマが頷いた。


 先程から、街道脇の大木の陰をつたうように誰かがついてきていると、俺も気づいていた。それが例のバンシーだとも。なにせ特段変装してもいなかったからな。ただ、俺達に気取られないようにしているだけで。特にニンジャでもスカウトでもないんだし、割とミエミエだ。


「復讐する気なのかな。彼女、使い魔でしょ。あの死んだ男の」

「それはないと思いますよ、吉野さん。嫌々使われていただけだったみたいだし。解放されて、むしろうれしいはず」

「じゃあ、なんでついてくるのよ」

「きっとどうしていいかわからないんだよ。たったひとりになって」


 俺の胸から、レナが答えた。


「主人の手を離れた使い魔だからね」

「それは……わかる気がするわ」


 吉野さんは頬に手を当てた。


「そもそも使い手が、あんな男だったんだしね。考えたら、かわいそうな娘」

「ご主人様は、あのバンシーの命を救ったんだ。敵なのに殺しもせず」

「だから自分との繋がりを感じているんだろう。……どうする、ボスのボス」

「ほっとこう」


 熟考した末、俺は決めた。


「そのうちいなくなるさ。それが自然だ」

「そうだねご主人様。どんな生き物だって、いずれ自分の道を見つけなくてはならないし」

「それに、それがこの世の定めなら、いずれあいつとも運命が交わるかもしれないさ」

「そうだな。ボスのボス」


 タマは頷いた。


「世界の定めだな」


 俺はスマホを起動して、地図モードにした。初日に降り立った地、草原の丘、アンデッドの湿地帯、村の周辺に泥炭鉱、そしてドラゴンの巣――。仲間と共に作り上げた地図を見ると、深い満足感を覚えた。


 ――俺、もしかして異世界子会社への左遷って、向いてたのかも。


 ふと思った。


 俺達の前には、街道がうねうねと続いていた。俺と仲間の運命を司る道が。


 太陽は、今日も俺達の道を優しく暖めてくれていた。






(第一部 「異世界左遷で自由満喫」編 完結)

ご愛読ありがとうございました

第二部「王都ニルヴァーナの謎」編、次話から公開!

カクヨムにても先行公開中です

次話は「読者様の応援感謝!」ボーナスエピソードの「課長とデート」編。続いて第二部「王都ニルヴァーナの謎」編となり、世界が広がります。

ここまでで気に入って頂けたら、フォローや評価などで応援よろしくです。

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